22.少し、気になる
彼と知り合ったのは昨日ではあるのだが、自己紹介の時に自分の銃への拘りを語りつくしてしまい、あちゃー、と思った矢先、ミナトがスタンディングオベーションをしたのがきっかけで、昨日からではあるが、よく語らっている。
彼の専門は軽銃、ちょっと前で言うハンドガンの部類から派生して、デリンジャー、杖銃などの仕込み銃に精通している。彼の家が昔から続くガンスミスという事もあって、ナガツキとは大層気が合っていた。
「ミナトくんってあたしと一緒でいいの?」
「…?」
「友達は?」
「いるよ、希薄だけど。ミカグラさんと一緒の方が気が楽。なんか、あいつらとは反りが合わない」
「へぇー、ミナトくんでもそゆのあるんだね」
「ミカグラさんは無さそう」
「んー、無いことないよー?お仕事の時なんかはコーネリアさんと一緒にブーたれてるし。あ、あたしのバディね、コーネリアさん」
「…『四つ目』、有名だよ。羨ましいな、あのマルチレンジライフルが側で見れるなんて」
「ふふー、いいでしょー。あれ面白いから色々真似しちゃった」
「ミカグラさんも持ってるの?」
「うふふ、さあどうでしょー」
くすくすと笑いながらくるくると回ってワンピースを翻す。今日のナガツキは兄妹の中で唯一私服だった。フリルのついたワンピースに、水色のカーディガンを羽織り、長い髪を毛先の方で結いでいる。
こうしてみている分には、彼女が騎士には見えない。
(可愛いんだよなぁ…、こういう所も含めて)
先程頭の上に乗せたアゴを軽くさすって、小さく笑った。
「なんだそりゃ」
陽射しに照らされて輝く彼女を見たとき、彼は初めて銃以外を美しく感じた。追いかけるように歩幅を広げる。逆に彼女は自分を待つように歩幅を緩め、前を向いた。その時不意に、彼女が何処かに行ってしまうような不安感に襲われ、思わず小走りになった。
ナガツキが不思議そうに隣に並んだミナトを見上げると、ミナトも猫背のままナガツキを見る。さっきより少しだけ、視線が近い。一頻り見つめ合ったあと、ミナトはこんな事を言った。
「七秒間見つめ合える人同士は心理的にセックスが出来る」
「ん?え?せっ…ちょ!」
疑問符を幾つか浮かべたのにカァッ!と頬が赤くなる。
「何言ってるの!お姉さんビックリだよ!」
「同い年の癖に」
「同い年にこんな事言われるとは思わないよ」
苦笑いしたナガツキは頬をかきながら今度はミナトを驚かせた。
「そしたら私お兄ちゃんとも出来ちゃうなぁ…」
「え」
「なぁに?ミナトくんが言い出したんでしょー?」
ミナトはうぐ、と言葉を詰まらせたあと、恐る恐る尋ねる。
「お兄さんのこと好きなの?」
「んー、好きだと思うけど、曖昧な感じ。血は繋がってないから別にいいんだけど、長年家族として一緒にいたから、多分家族として好き」
その多分が恐ろしくてたまらない。
近親相姦、なんて言葉があるように、そうなる可能性がゼロではない、と示唆している。血の繋がりが無いとはいえ、兄とそういう事が出来るものなのだろうか?兄妹のいないミナトにはとんと想像がつかない。
そんな風におどかしおどかされながら教室に辿り着く。今日は一日中座学の予定だ。ナガツキは教室に入ってから声を掛けられた女子グループに自然と入っていく。昨日の今日のはずなのに全く違和感を感じられないのは、彼女のとっつきやすさがあってこそだろう。
自然と離れたナガツキと分かれていつもの面子に迎え入れられる。三人は全員サイボーグ体、人間体なのはミナトだけだ。三人は動かない口から声を出す。
「おはよーさん、ミカグラちゃんとご登校とはお熱いねぇ」
「そういうわけじゃない。たまたま時間が被っただけだ」
「でも君、昨日凄いミカグラさんと語り合ってたじゃない?気があうんじゃないのー?」
「それは認める」
「お、コレは応援するしかねえってか?ねえってか?ミナトの人生初彼女計画がスタートするってか?!」
「しねえよど阿呆、眉間打ち抜くぞ」
「お前どこ仕込んでっかわかんねえからそういう冗談やめろって?!」
どこにも仕込んでねえよ、と悪態をついて席に座る。
「でも正直どうなのよ、なんだかんだ気になってるんじゃねえの?ミカグラちゃんのこと」
「…そうだな。気になってはいる。特に彼女が持っているかもしれないコーネリア・リチャーズ少将と同じ可変型マルチレンジライフル」
「また銃の話ってか?」
「ほんと、君は銃の事になると目が輝くね、瞳孔が開いたよ」
二人が大袈裟にため息をつく中、ミナトはナガツキの方に首を巡らせる。三、四人の女子と楽しそうに談笑する彼女を見て、ポツリと零した。
「まぁ、可愛いから、話が合うのは、嬉しい」
「………、ジョー、コレはマジで計画がスタートするかもしれんぞ」
「おぉ?!待ちくたびれたってか?!ミナトんの色恋沙汰聞いたことねーんだからここらでいっちょ伝説立てるってか?!」
「転校生と付き合ったくらいで伝説にはならないと思うけど…、でも応援はしたいな。君ってばクール過ぎるんだもの、僕たちが心配になるよ」
「お前らに心配される筋合いはない」
やっぱクールだってか…。
がく、とうな垂れた友人を尻目に、ミナトは視線をナガツキに向けた。
(………、うん)
改めて、初めての感覚を、楽しいと感じた。




