8.悩み
ふと、エレベーターの外を眺めながら、今日の事を思い出した。
『楽しいからいいんじゃないですか?』
そう言った彼女の顔が、何故か忘れられない。
シャーロイドといる時とはまた違う、胸が温かくなるような感触。機械の心臓が、感じるはずのない温かみを感じている。
ミカグラは、自分としての自我を持った時からずっと悩んでいたことがある。
サイボーグか、人間か。
半人半機である今の体に、不満を感じたことはない。だが、それ故にこの一つが気になってしまう。
彼が半人半機である事は所属している隠密班と、今まで少しの間配属されてきた部隊の部隊長達は知っている。ドライドからはよくわからないダメ出しをされたが、他の隊長に関しては、気味が悪そうに彼を避けるだけだった。
気味悪がる理由も、何となくわかっている。彼は生まれてこのかた、メンテナンスというメンテナンスをした事がない。半分が機械であるにもかかわらず、だ。
彼のような半人半機のサイボーグは、人為幽体離脱の技術が確立されるまで、多くの人間が弱い体を強く生まれ変わらせる為に行ってきた、言わば『良くあるもの』だった。
しかし、機械との相性や、人体結合部分などの消耗の激しさから、かなりの維持費がかかる、お金持ち御用達のものであった。今でこそ、体そのものが機械になってしまったため、半分半機は無くなったものの、ある程度年齢を重ねた人なら、そのコストの高さとメンテナンスの多さを知っている。
だから、ミカグラは一時、化け物と呼ばれた事がある。
メンテナンスの必要も、成長に合わせての義体の交換の必要もなく、人と同じように成長する似て非なるものとして。
それをミカグラ本人は何も反論せずに受け止めてきた。そもそも彼自身が疑問に思っていたことでもあるし、説明された所で、益々化け物じみていると思うばかりだ。
でも、だからこそ、彼は知りたかった。自分はどちらに分類されるのかと。
エレベーターが止まり、ドアが開く。誰もいない廊下を一人歩く。ロッカーに入り、元の服に着替えて、直通エレベーターに乗り込む。
「戻りましたー」
「ご苦労。仮眠を取ってこい」
「うぃっすー」
久々に考え事をして何だか疲れてしまった。そのままの格好で仮眠室に入り、ベッドに横たわった。




