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転生騎士  作者: 如月厄人
第三章 目覚め
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17.迷い

「少尉、お前はあの時、何をした」

「あの時…?」

「あのビルの上に行く時だ。お前が彼処に行くまでの過程が、何一つ見えなかった。お前は一体、何をした。あの姿はなんだ」

「何をしたも何も、俺は全力で殴りかかっちまったんですよ。確保する事を考えずに、力任せに殴りに行っちまったんです。反省してますよ」

「そういう意味で言ったわけじゃあない。それだけの力がありながら、どうしてもっと上に行こうとしない。幾らでも登りつめられるだろう」

「…上に行くことが正しいわけじゃないんですよ」

「なに?」

「隊長が言ってました。上に登りつめる事が本当に幸せなわけではない、と。俺はそういう人も同時に知ってしまった。だから、俺には階級を登る事が本当に良いことだと思えない」

「…なるほど、それがあの二人の英傑を中尉に留めている訳か」

「俺がそうってだけで二人がそうとは限りませんよ」


到着したエレベーターの両側が開く、壁に男性、女性のマークが表示され、ミョルニルと二人が分かれてロッカールームに入る。


サイゾウは並んで置かれているロッカーに手をかけながら、ヤヨイに言う。


「だが戦いに犠牲は付き物だ。どれだけ足掻こうと死ぬ時は死ぬ。先程のだって、当たっていれば確実に一人は死んでいた。お前が拳を放っていれば、より多くの人が死んでいた。その被害をどれだけ抑えるかは、上の者の手腕一つで大きく変わる。私は、二人が上に登らないのは、それだけ臆病だからだと思っている」


ヤヨイは何も答えず、サイゾウをちらりと見ながら服を脱いでいく。


「私は、ヒトは臆病でいいとも思うんだ」

「…ややこしく話すのがお好きで?」

「いや、難しくしようとして難しくなっているのではないさ。単に、人間とはそのものが難解であるという証拠なのさ」


最初に彼に会った時のような飄々とした態度が戻ってきたように感じたヤヨイは、団服に着替えた後、ぐっ、と身体を伸ばした。


「俺はそれでも、あの二人は勇敢だと思いますよ。普通の人がどう思ってるのか知りませんけど、よっぽどのことじゃない限り、前線に居続けようなんて思わないでしょうし」


ふぅ、と息を吐き肩を回す。


「ま、俺にはまだまだ二人が何考えてんのかサッパリですよ」


まだ着替えていたサイゾウを置いてエレベーターに乗り込むと、丁度着替え終わったミョルニルと乗り合わせる。お互いに少し驚いた顔をしてエレベータに行き先を告げる。


「医務室。その後、威力強襲部隊執務室へ」

「医務室に行くのか」

「あぁ、シャーロットさんの事もあるけど、副隊長のことも気になる」


彼が呟いたメイリーという名前も、何か深い関係がある様に思えてならないのだ。同じ部隊に所属していたからといって、他人に深入りしてこなかったヤヨイには、その名前の意味を知る事は出来ない。


加えて、シャーロットのあの仕草。まるで、昔からやっていたかのような自然さと、フォルクローレに向けられた一種の愛情を感じたのだ。その愛情がどういった意味なのか、それはシャーロットが記憶を失っていたことと関係があるのか、不明瞭な点ばかりだ。


全てを明らかにする事は出来なくとも、少しでも知る事が出来れば…。


(…知って、どうしようっていうんだ俺は)


それを知って自分は何をどうするうもりなのだろうか。


知らぬが仏、という言葉もある。知らない方が良いことなのかもしれない。


だが、何故だか、知らずにはいられない。


また、悪い癖が出たのかもしれない。聞いて、背負って、あわよくば解決しようだなんて、考えているのだろう。


無意識に考えている自分の思考に、時々うんざりする。これ以上背負ってお前は何がしたいんだと自分に問いただしたくなる。


ただ同時に、それが自分のアイデンティティである事もわかっている。背負うことが、縁の下で支えきることがヤヨイという人間には必要な要素なのだと自覚している。


医務室に到着したエレベーターの扉が開く。目の前に立っていたのは、渦中のフォルクローレその人だった。フォルクローレはヤヨイの姿を見つけると、思いつめた顔でヤヨイに言った。


「少し付き合え、お前に話しておくことがある」

「それは…どういう意味で、ですか?一隊員としてなのか、別の意味なのか」

「…別の意味だ。執務室へ」


ヤヨイは降りずに、そのまま執務室に向かった。ミョルニルは少し迷ったそぶりを見せた後で、食堂へ、と行き先を追加する。


執務室に到着すると、ミナヅキとフミヅキが来ていた。二人はフォルクローレとヤヨイを見ると軽く挨拶をする。


「お疲れ様です」

「…お疲れ様」

「おう、お疲れ、ちょっと待っててくれ。副隊長、仮眠室でも」

「あぁ」

「ニール、また後でな」

「あ、おう」


真っ直ぐ仮眠室に向かった二人を見送って、ミナヅキとフミヅキは首を傾げた。

明かりのついていない仮眠室に入った二人は手近にあったベッドに腰掛けた。


隊の規模によって変化するこのベッドの数も、以前は三つだったのが一つ増えている。オート区画整理によってブロックが一つ追加されたのだろう。以前よりも遠くに壁が見える。


「それで、話とは?」

「………、俺に妻がいたのは知っているな」

「えぇ、結構話になってましたから。お亡くなりになった、とも聞いています」

「その妻が、生きていたとしたら、お前はどうする」

「………、当てましょうか、シャーロットさんでしょ」

「…あぁ」

「なーんか当たり強かったですもんね、無意識ですか?」

「…かもしれん。あいつは、何故か似ていたんだ、メイリーに、以前の妻に。仕草も挙動も顔もまるで違うというのに、俺はあいつがメイリーに似ていて仕方なかった」

「良かったじゃないですか、謎が解けて」


「………、最初の質問に戻る。お前なら、どうする」

「どうもしません」


キッパリと言い切ったヤヨイに、苛立ちを隠せない。事によっては自分の妹の事だって関係してくる事だというのに、何故彼はここまであっけらかんとしていられるのだろうか。


ヤヨイは薄暗く、見えにくいフォルクローレの表情を、それでも正確に見抜いた。


「俺に聞くのはお門違いっすよ、副隊長。それ俺に言って、俺が答えて、あんたはその通りに動くんすか?ありえないでしょ。それに、また足を止めるおつもりで?置いてかれますよ、俺の妹に」


やれやれと溜息を吐く。


「ま、カンナの事ですから堅いでしょーけど、いつまで経っても隣に立てないあんたが根負けするのは目に見えてるし、この際だから言っときますよ」


ヤヨイは立ち上がってフォルクローレに吐き棄てる。


「良い年こいた大人が、過ぎた事にウダウダ言ってんじゃねえ、ぶっ飛ばすぞ」


ゾク、と背中に悪寒が走る。感じた殺気はすぐに消え、ヤヨイは手をヒラヒラと振って、言った。


「どっちを選ぶかはお任せしますよ。その選択で俺があんたの下から消える事は無いし、今までの通りのお付き合いはさせてもらいます。それじゃ」


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