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転生騎士  作者: 如月厄人
第三章 目覚め
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15.記憶

ヤヨイが肩を竦めると、隣に座っていたミョルニルがヤヨイの顔を覗き込む。視線に気づいて見返すと、ミョルニルは少し唸ってヤヨイに言った。


「退屈そうだな、お前」

「いいや?そうでも無いさ。確かに戦うことに関しちゃ退屈だけど、人間の楽しみって一つや二つじゃねえんだからさ、その分俺は別の所で楽しんでるわけだ」

「別のところ?」

「そう、別のところ」

「ふーん…」


ミョルニルはヤヨイにグッと顔を近づけると、まっすぐな瞳で彼に尋ねた。


「それは私にも出来るか?」


「ぇ、まぁ、できないこと無いだろうが…直ぐには無理なんじゃねえかなぁ…」

「なぜ?」

「そりゃお前、好きな人とかいるのか?」

「…わからん」

「わからんってお前…」

「ただお前の顔を見るのは何故だか心地いい」

「へぇ、そうか…ぃ?は?何?」

「だから、お前の顔を見ていると心地がいい」

「………、キリガミ中尉、こいつを医務室に連行する事をお勧めする」

「断る、盛大に困ってしまえ」

「こいつ…っ!」


ヤヨイがカタルと付き合っている事を知っているキリガミはニヤニヤといじらしい笑みを浮かべてヤヨイに吐き捨てた。

ヤヨイはこめかみに青筋を浮かべながらベンチから立ち上がりエレベーターに向かう。


「あ、おい、何処へ行く」

「戻るんだよ、キリガミ中尉の負けで終わりだろ」


ムッ、としたキリガミを鼻で笑ってエレベーターに乗り込む。迷わず閉じるボタンを押した瞬間に、バシュンッ!と雷光が隣に着弾する。


「…お前な、みだりに力を使うなよ」

「置いて行ったお前が悪い」


幸いエレベーターに異常は無いようだが、彼女の能力的にいつ故障してもおかしくは無い。色濃く残る黒ずんだ焦げ跡に小さくため息を吐く。行き先を告げて執務室に戻ると、任務から戻ってきたカタルが机に突っ伏していた。


ヤヨイが先に軽く手を挙げると、カタルはパァ、と顔を明るくして体を起こした。が、その後ろから着いてきたミョルニルを見て首を傾げる。


「お疲れ、カタル」

「お疲れ様です。えっとその子は?」

「今日からキリガミ中尉と一緒にここに配属された、ミョルニル軍曹だ」

「そうなんですね!カタル・リウノです、よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げたカタルの一部分を見て、ミョルニルの表情がヒクつく。隣のヤヨイの脇腹を軽く小突くと、数段低い声で尋ねた。


「人の優劣に胸部は関係無い。そうだな?」

「は?何の話……、あぁ、そういうことか。まぁ関係無いとは思うが、有って損はないとも思うぞ」


ヤヨイはカタルの隣に並ぶとその頭をくしゃ、と撫でた。


「今日はどうだった?」

「やっぱり殲滅部隊は楽じゃありませんね。でも隊長さんが優しい方で、それほど苦ではなかったです」

「へぇ、誰だった?隊長」

「レメイ・カニサレス中将です。ご存知ですよね?」

「そりゃもちろん。ってことは、第二騎士団の所か。直下に入れてもらえるたぁな、中将は懐が深い」


前線に新兵に最も近いであろう二等兵のカタルを起用し、更に自分の目に入る位置に置き気を配る。カタルが言わずともわかる、細やかなフォローが目に浮かんだ。


もちろん、それだけレメイが経験を積んでいるということでもあるわけだが、それにしてもクライスの下にいた三人は出世しまくりのエリート揃いだ。クライスの階級自体は変わらないのに、彼等の階級は登りに登っている。


上に行けば良いというわけではないのはコーネリアの事でわかってはいるものの、その地位まで上がる事は容易ではない。特にタイタスの力量はヤヨイでは測りきれない。彼の強みはヤヨイにはないその戦略にある。彼と任務を共にするミナヅキに聞いてみてもわからない事が多い。


『あの人は何故か敵の動きが分かるんです。何かが見えてるんですよ。相手が何を考えているのか手に取るようにわかってるんです』


それが経験から来る積み重ねなのか、天性の才能なのかはわからないが、相手からすれば敵に回したくない事この上ないだろう。


「お前たち、仲が良いんだな」

「ん?あぁ、まぁな。どうかしたのか?」

「…いや、なんでもない」


少し目を伏せながら自分の席に座ったミョルニルに、ヤヨイは小さくため息を吐いて腰に手を当てた。


こればかりは、どうしようもない。


好意を受け取る事は容易い。ただ受け取るのと受けとめるのではまるで意味が違う。形にされた好意を受け取る事は誰だって可能だ。バレンタインのチョコレート、プロポーズの花束、指輪、形になった好意は時に物だけでなく言葉として吐き出される事もある。


それを受け取る事は、聞き届ける事は誰にでもできる。だが、その好意を受けとめるには、自分にそれだけの余裕がある事、時には既に持っているものとの決別が必要になる。残念ながら、今のヤヨイには余裕も無ければ決別するつもりもない。


であるなら、この好意は届かないものだと彼女に知らしめてやらねばならない。


それは、好意を向けられた側の責任であり、彼女を次へと進めさせるためにやらねばならない義務でもある。


「ヤヨイ少尉」

「ん?」


彼の表情から何かを感じ取ったカタルは、ヤヨイを手招きする。


「告白でもされました?」


感じ取ってくれたのかと思えばど直球が飛んでくるのだから彼女は面白い。ヤヨイは笑いながら耳に返した。


「匂わすような事は言われたさ。これからの距離感でいくらでも変わるものだ」


そう、進める先は一つではない。好意の方向性が本人ですらわかっていない今、ヤヨイの言動次第でそれは大きく変化する。


思わせぶりにしてしまえば、より深い好意である恋愛へ。


その好意が何たるかを理解させた上で、親しみだけを残せば、信頼にも繋がる親愛へ。


その好意を初めから邪険にし、完全に拒絶してしまえば、それは一変して怨恨になることもある。


傾けすぎないバランスで親愛まで持っていければ、職場の空気が重たくなることもあるまい。ただ、そんな事は一度もした事が無いヤヨイからすれば、悩ましい事この上無いのだが。


そこへ、プスン、と扉が開き、フォルクローレが入ってくる。思っていた面子と違ったのか、少し驚いてはいるが、自分の席に向かう道すがら、ミョルニルに話しかけた。


「お前が新人か」

「あ、ミョルニル軍曹であります。よろしくお願いします」


机でぼーっとしていたミョルニルはフォルクローレが入ってきた事に気づいていなかったようで、慌てて立ち上がり胸の前で構える。フォルクローレは自分の席に座ってミョルニルに座るように促した。


「そんなに気を使う必要はない。ここではあまり階級は役に立たないからな。かしこまるくらいなら早々に打ち解けるなりなんなりして連携を図ってくれ」

「は、はい」


噂に聞いていたフォルクローレと大分印象が違うために少し拍子抜けしたミョルニルだが、眼鏡の奥の鋭い眼光には少し萎縮した。


ヤヨイはその様子を見ながら、小さく物音のした換気口に目を向ける。いつも通り、ダクトを通ってきた彼女がその姿を現した。


「っ!シャーロットさん!!」

「ぁ…はは…、どじっちゃった…」


ドチャ…、とダクトから落ちるようにして姿を現したシャーロットには、片腕、片足が無く、半分ほどスキンが剥がれていた。ヤヨイが抱き起こすも、金属の軋む音が嫌に響いている。


(電源は生きてる、腕と足は…潰されたのか…?とにかく医務室に…)

「任務だ!っ!シャーロット?!くっ!フォル!お前に任せる!ヤヨイはシャーロットを医務室へ!」

「はいっ!」

「ぁ…フォル…」

「?!」


フォクローレが足を止めて振り返ると、シャーロットは笑顔で言った。


「行って…らっしゃい…、お任務…がんば…れ……」

「…………っ、…っ!…は…!」


途端に、フォクローレの呼吸が荒くなる。ぐったりと動かなくなったシャーロットに覚束ない足取りで近づくと、崩れるように膝をついて、言った。


「メイリー…?」

「フォル!どうしたフォル!?」


クライスが肩を揺するも、固まって動かないフォルクローレに、カタルは、シャーロットの言葉を思い出した。


シャーロットが第二区画に住んでいた事、大火傷を負って記憶まで失った事。そしてフォルクローレの奥さんは火事で亡くなったという事。


全て偶然かもしれない。


カタルはキュッと唇を結んだ後、クライスに言った。


「私が二人を連れて行きます、隊長は任務へ!」

「…わかった!キリガミ中尉、ミョルニル軍曹にも来てもらう。ヤヨイ!行くぞ!」

「……、はい!」


フォクローレとシャーロットを交互に見た後でシャーロットを優しく寝かせてヤヨイはクライスの後に続いた。


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