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転生騎士  作者: 如月厄人
第二章 邂逅
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42. 隣へ

 ___第6区画、病院



 ブラック達の襲撃から一週間が経ち、カンナヅキ、シモツキの二人は無事退院した。だが、ドライドは未だに病院で治療が必要との事で、カンナヅキは定期的に彼の様子を見に行っていた。


 静かに本を読んでいたドライドがスライドしたドアに目を向ける。仕事上がりで軍服姿のカンナヅキが小さく手を振りながら中に入ってくる。ドライドは栞を挟んで傍に置いた。


「お医者さんにあんまり手を使っちゃダメだって言われませんでしたか?」


「このくらいは許せ、病院は暇が過ぎる」


「テレビは見ないんですか?」


「家にテレビが無いせいでそんな習慣は消え失せた」


「もう、仕方ないですね」


 カンナヅキは手提げからリンゴとナイフ、紙皿を取り出した。


 それを眺めながら、ドライドは自分の手を見た。最近、ますます物が軽く感じてしまっている。あの時、砕いた塊が、また力をくれたのだろうか。


 科学の先進した現代にオカルトな話ではあるが、そんな話でもなければ彼は今まで生きることは出来なかっただろう。


 差し出されたリンゴを見て、視線をカンナヅキに戻す。


「どうしたんですか?ボーッとして」


「いいや」


 綺麗に向かれたリンゴを一つ頬張りながら、ドライドはカンナヅキに言った。


「やっと、並べた」


「………、フォル」


「本来なら、俺はもっと先に行ってなきゃいけないんだがなぁ…、長いこと足を止めてしまった」


 笑顔のまま、少し悲しそうに自分の足をみる。ギプスで固定された脚は完全に治るまですくなくとも二ヶ月は掛かるらしい。そうでなくても、自分の足は進む事を拒んでいた。最愛だった妻を失い、晴らすべき恨みを果たしても、晴れることなく胸に残り続けた黒い塊に、押しつぶされそうだった。これだけの力がありながら、その重さに耐えられなくなりそうだった。


 動かそうとも、動かせなかった足を、それでも動かせたのは、彼女がいてくれたからだと心から思う。


 だから、口を開いた。


「ありがとう、カンナ。これからも俺の側にいてくれるか?」


 嘘偽りなく、それでいて真っ直ぐな言葉を、カンナヅキに問う。


 カンナヅキは驚いた顔から、みるみると笑顔に変わり、その目尻に涙を溜めながら、大きく頷いた。


「はい!」


 ドライドも笑い返すと、ゆっくりとカンナヅキの頬に触れ、目尻の涙を親指で拭う。そのまま優しく引き寄せた。


 閉じた瞳の後から感じる優しい感触。心地よく、それでいて柔らかい。


 少し勿体無く思いながらも離れる。色を取り戻した視界には、同じくこちらを見ていたカンナヅキとバッチリ目が合った。互いに微笑んでもう一度、顔を近づける。が、コツン、とドライドが額を当てた。


「残念、来客だ」


 そう言ったのと同時に、ドアがスライドする。


「フォル、調子は…っと、悪い邪魔したか」

「いや、もう済んだ。後はこれからの楽しみに取っておく」


「………、久々に見たぜ、お前のその顔。ま、そういう事なら遠慮なく」


 顔を赤くして何も言わなくなってしまったカンナヅキがそそくさと端に寄る。致していたところを見られたわけではないにしろ、あんな間近に顔が近づく事など滅多に無いだろう。


 我らが威力強襲部隊隊長、クライス・ベベルハスは、手近な椅子を一つ引っ張ってマントを巻き込まないように座った後、ドライドに騎士章を手渡した。それを受け取ったドライドは新着で来ていたメールを開く。


 内容は、昇格の通知だった。ドライドだけではなく、ミカグラ兄妹全員に今回の戦果が認められたのか、昇格式の報せが届いていた。副隊長であるドライドは彼らに昇格の意思があるかどうかを問う義務があり、それをヘベルハスに譲渡するにしても、ドライド本人が認証しなければ譲渡も出来ない。ヘベルハスとしては、権利を譲渡してもらいつつ、ドライド本人に昇格の意思があるかどうかを問いに来たのだろう。


 それとは別に、もう一つ通知が来ていた。相談、とタイトルされたメールはドライド、ヘベルハス、ヤヨイの三人に送られていた。


 内容は、部隊を拡張するかどうか、というものだった。今回の戦果は、他部隊だけでなく国民にもその情報は出回っている。つまり、彼らの部隊を支持する声が格段に増えたという訳だが、残念な事に、この威力強襲部隊にはそもそも特殊な人間を集めて作られたモノなので、拡張する事は当然の事ながら難しい訳だが、メールには続きがあった。


 スクロールすると、ドライドは腕を組んで少し悩んだ。


「とりあえず、昇格は?」

「しない」


「だろうな。二つ目に関しては今である必要はない。怪我が治ってからでも十分話は間に合う。ただ…、そうだな、この話は総帥がいるところじゃないと意味がないか。治ってからでいいだろ」


「いや、明日出向く。カンナ、悪いが車椅子の手配をしておいてもらえるか」


「え、でも、まだ動くのは良くないんじゃ…」


「車椅子ならいいだろう?いざという時はお前が押してくれ」


「…わかりました。ちょっと行ってきますね」


 カンナヅキが病室を出たところで、ドライドはヘベルハスに尋ねた。


「どう拡張するかは聞いているのか」


「以前俺たちが持ち帰ったユニットを使うんだと」


 それを聞いて、ドライドは険しい顔で言った。


「推測だが、恐らく誰かがユニットを欲しがっている。異動引き抜きでユニット持ちの者を自部隊に引き抜くつもりだろう」


「ああ、それに、リスクも大きすぎる。今回は二つで済んだが、これからもっと増えるとなると、被害はもっと拡大するだろうよ」


「二つ…?」


「あぁ、ヤヨイから聞いた話だが、今回相手側で二人、ユニットが進化したらしい。一人は仕留めたらしいが、もう一人の行方が掴めていない。大方、クラウディオ・ニッセンに回収されたんだろう」


「………、そうか。嫌な予想が当たったものだ」


 ヘベルハスが頷いた。カンナヅキが戻ってくる。


「外出許可と車椅子の申請してきました。明日一日だけですけど、自由に出歩いて良いそうです」


 ドライドが素直にありがとう、とカンナヅキに告げると、ヘベルハスは驚いたようにドライドを見た。


「お前のありがとうなんて久々に聞いたぞ」


「お前に向けて言ったわけではない。それに、二人の時は割と言っている」


「そうですね」


「はぁー、ほんと、柔らかくなったなぁ。それじゃ、あの馬鹿力はもう出せないのか」


「いや、それに関しては逆だ。まだ試してないが、以前よりも力が入る…気がする」


「冗談だろ?それ一回検査してもらったほうが良いんじゃねえの?」


「してもらったさ。結果待ちだ。ロクな解答が出るようには思えないがな」


 そーかい、とヘベルハスは腕を組んだ。それから席を立って足で椅子を元の場所に寄せると、ドライドに言った。


「じゃあ明日総帥に掛け合っておく。あとはごゆっくり」


「病院だぞ」


「ハレンチなのはてめえのその頭だ阿呆」


 カンナヅキの傍を通りスライドしたドアの向こうに消えた。


 言われてしまったな、ぼそりと呟いて、ドライドは頭を掻いた。


 カンナヅキはドライドのベッドの縁に腰掛けると、ゆっくりと、ドライドの負担にならぬ様に寄り掛かった。


「やっぱり、仲良いんですね」


「…まぁ、長い付き合いだからな」


「そっか」


「どうした」


「んーん、よかったなって」


「何がだ」


「フォルの、私の知らないところがもっと見れるんだって思って」


 ドライドは小さく笑って、カンナヅキの頭を撫でた。


「もっと見れる様になるさ、これから長い付き合いになるんだからな」


「…うん、そうだね」

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