37. vsグリーン
緑色の集団に向かっていた二人は、目の前の光景に自分の目を疑った。
集団に見えていたそれらは、全て全く同じ姿形をしていたからだ。数は50ほど、その全てが、同じ顔、同じ色、同じ模様を描いていた。
これが不気味でなくてなんだというのだろうか。
その中から隊列を崩して一人が前に出た。
「よぉ〜フォルクローレぇ…、一週間ぶりだなぁ。今日は鎧着てんだな、ってかガキのお守りもやるようになったか?お前ももう歳だもんなぁ?それとも乗り換えか?おいおい、一途だったんじゃあないのかよ、ひでぇひでぇ」
「…相変わらずよく喋る」
「えぇ、鬱陶しいくらいです」
二人は互いを見ずに、それぞれの得物を構え、構えを取る。鏡を開いた様にも見えるそれは、正に阿吽の構えと言えた。
グリーンカラーは腕を組み、その隣の個体は肩を竦めてやれやれと首を振った。
首を振った個体が喋り出す。
「ちったー俺の自慢でも聞いて欲しいもんだがねぇ…?血の気の多い輩はコレだから困る。まぁ、俺も人の事言えねえけどさぁっ!」
腕を組んでいたグリーン以外が一斉に武器を現出させる。剣や槍、斧と言った近接武器にくわえて、銃火器が軒を連ねている。銃火器の割合が圧倒的に多い。それも当然だろう。二人は火器を所持していない。近づかれる前に潰すという考えに至るのは自明の理でもある。
グリーンは二人に背を向けて、群衆の中に紛れていく。本体がどれか、見分けがつかなくなった。だが、二人は動じない。
『奴は臆病者だ。必ず、最後に姿を現わすだろう』
ドライドがここに来る途中で言っていた事を思い出す。
『それまで、周りの奴をキッチリいたぶってやるといい』
トンファーを強く握る。
その動作だけで、後列の銃隊が構える。段々を作って銃口がこちらを向いている。三段に構えられたそれらを見て、ドライドは確信する。
(奴は変わっていない、一挙手一投足、全てに反応する。ならば、御し易い)
繋いだバイパスから合図を送る。カンナヅキはなんの躊躇いもなく一直線に踏み出した。
途端_
ドドドドドド…………ッッ!!!
前衛隊の隙間から重低音を響かせ火花が弾ける。だが、カンナヅキは止まらない。
風を切り、トンファーが高速で回転する。トンファーという線が、円となり、面となる。その円は容易く銃弾を弾き飛ばし、彼女の動きを制限しない。
二段目の銃口が光る。
(光線銃…!)
カッ!
光と共に、光速の弾丸が発射される。光によってサーモグラフィーも効かなくなった視界が、更に化ける。
「チャフ…!!」
輝く飛沫の乱反射でグリーンの視界はグチャグチャに歪む。だが、その対策をしてこなかった訳ではない。
三段目の内の一人の銃が変化し、即座に発射される。それは周囲に風をばら撒き、飛沫を吹き飛ばした。エアバーストガン、空気砲とも呼ばれるそれは、周囲の空気を取り込み、圧縮して発射する。圧縮された空気はその場で風を巻き起こし、主に煙幕やチャフなどを剥がすのに使われる。
視界を取り戻したグリーン達は、索敵モードに切り替え、周囲の音を探る。
だが、遅い。
ザッ!
前衛の中心にいたグリーンのその懐。
「なっ…」
ゴッ!
アッパーカット。カンナヅキは小指でトリガーを引く。
ボッッ!!
散弾が弾け、首をなくした個体はその場で固まった。そのユニットに更にトンファーを叩きつけ後列に吹き飛ばす。空いた手はその場でスモークグレネードのピンを抜きその場に転がす。
吹き飛んできた個体をすべての個体がかわしサーモグラフィーに切り替える。
カンナヅキの反応はある。他の情報を統合しながら、グリーンカラーはマップを拡げる。
「…相変わらずだなフォルクローレ。だが俺もお前も以前のままじゃあない。わかってるんなら、こんな動きはしないはずだよなぁ?また失くしちまうぜぇ?」
並列思考によるマルチタスクの遂行は、今まで分体を作り、操作してきた彼にとって今となっては慣れたものだ。だが、慣れだけでは賄えないものがある。
それがユニットそのもののパワーだ。メモリもCPUも良いものを幾つも繋いで統合し一つに纏めれば、スペックは幾らでも向上できる。しかし幾らスペックを上げたところで動かせなければ意味がない。彼の理想とする体自体は既に製作済みであったが、それを動かすためのパワーを持ったユニットが必要だった。
それが手に入ったのだ、呆気なく。長年求めていたものを、いざ手にするとなると、試したいことはゴマンとある。
(全部試させてもらおうじゃねえか)
グリーンの思考が、五十に分裂した。
順調に、着実に、一体ずつ潰していたカンナヅキが、違和感を感じ始める。
『フォル、微妙に動きが変わりました。そちらは?』
『もう少しだ』
『了解』
グリーンがカンナヅキを囲む。だが一秒としない内に囲んでいた陣が崩れる。
「くっ…!」
多方向からの同時攻撃。逃げ場を残さないあらゆる方向からの波状攻撃。銃弾が飛び交い、鈍い光が地面に傷をつける。
だが、カンナヅキは立っていた。兜や腕、脚などに細かい傷を付けながらも、反撃の手を緩めることはない。
同時に攻めるならば、少しでもそれに近づける程素早く、効率的に動き、波状に攻めるならば、逃げ場を自力で作った。時に煙幕、時に相手の体を利用しながら、使えるものを全て使って戦う。それがドライドの教えだった。
(動きが変わった…というより洗練された…?それぞれが適した動きをするようになった)
カンナヅキからすれば、洗練されていた方が有難い。
無駄に体を横にずらした個体を元の位置に戻す。
ズドッ!
「ぐぅ!チィッ!」
背中に銃弾が突き刺さり一度カンナヅキから引く。代わりに別方向から斧が振り下ろされるが、半身になるだけで躱し、胸にトンファーを叩き込み、トリガーを引く。
ボッッ!
また一人、数が減っていく。グリーンカラーが喋る様子はない。焦っているのか、それとも、余裕なのか。
『統括しているラインを発見した。分断する』
『了解』
潜んでいるドライドが分体を制御しているであろう目に見えない電波の糸を電磁波を発生させる装置を使って分断する。以前ならこれで分体を止めることが出来たが…。
「…やはりか」
『フォル!』
『わかっている。そちらに合流す…』
ドゴォッ!!
「っ!!」
空気砲がドライドの潜んでいたビルを倒壊させる。あっという間に瓦礫の山になったビルを見て、カンナヅキの動きが止まった。
「オラオラどぉしたぁっ!!」
「っ、ぐぅ!」
斧のフルスイングを両腕を前に構えて防ぐ。が、完璧な踏み込みとユニットのパワーが合わさり、簡単に吹き飛ばされてしまう。受け身も上手く取れずに地面を跳ねる。何度も転がって、漸く止まった。
歯を食いしばり、起き上がる。
「あーあ、こりゃ掘り返すのだり〜な。このままハッパ投げ込んだ方がはええか」
「やめ…ろ…!」
空気砲がまたも変形し、グレネードランチャーへと姿を変える。
「じゃーな、フォルクローレ、奥さんと仲良くな」
『構えろ、カバー』
轟ッ!
グリーンがグレネードを発射する前に、瓦礫が爆発する。瞬時にグリーンが隊列を為し、身構える。
その隊列の横から、風が捲き起こる。
「ッァアッ!!」
一番近くにいた個体にトンファー二本が叩きつけられ、吹っ飛ばされる。そのままドミノ倒しに隊列が崩れ、ドライドが砂煙りの中から姿を現した。
「やはり鎧は邪魔だな。カンナ、良いカバーだ」
「フォル…!良かった…!」
生身の状態のドライドが首を鳴らしながらハーフフェイスの仮面を付ける。
『残念だが、満足のいく状態ではない。アーマーパージの衝撃で恐らく肋骨が一本イカれている。幸い内臓には刺さっちゃいないが正直動くのはしんどい』
『大丈夫、私がいます。私が守ります』
(それもそれで、俺としては癪なんだがな)
頼らざるを得ない状況を作った自分を叱責しつつ、腰のポーチから簡易注射器を腰に打ち込む。準備は怠らない。即効性の痛み止めがジンジンと響く痛みを消していく。
ドミノ倒しになったままの隊列は、ドライドを見て肩を震わせた。
そして、笑い声が周囲を埋め尽くす。
ピタリ、声が止む。
「フォルクローレ、やっぱりお前…」
声は_
「っ…」
「弱くなったわ」
_後ろから聞こえた。




