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転生騎士  作者: 如月厄人
第一章 ミカグラ
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5.お散歩(2)

エオが足を止めて、アゴで大きめの切り株を指す。少し座っていけ、ということなのだろう。


その指示に従って、ミカグラとシャーロイドは切り株に腰掛けた。


「ごめんね、こんな事言われても困るよね」


「別にいいですよ。同じ班の仲間でしょ?俺たち。ギブアンドテイクで、俺も困った時は助けてもらってますから」


「えー?助けた覚えなんてないよー?」


「シャーロットさんが覚えてないだけです」


「そうかなぁ…」


といっても、シャーロイドが覚えていないのも無理はない。彼女からすれば、至って普通の事だったのだろうから。


ミカグラが騎士団に入って五年、隠密班に配属されて三年の年に、シャーロイドは隠密班に配属された。当時19だったミカグラはハード隠密班の仕事と、それを誰にも言えない閉塞感で精神的に参っていた。塞ぎ込みがちになっていたミカグラに、彼女は積極的に声をかけた。


内容としては仕事に関する他愛も無いような事だったのかもしれないが、それでも話せる相手がいると言うのは彼にとって素晴らしい事だったのだ。


何せ、士官学校も完全に無視して騎士団に入り、さらに同期の中から飛び抜けた検挙率を挙げ、上司の階級すらも飛び越えた彼は、正直言って羨望よりも嫌われることの方が多かった。その為、隠密班に入っても中々自分から他人に関わろうとは思わなかったのだ。


そのミカグラに自分から関わりに来たシャーロイドは、彼にとって少し特別な存在でもあった。


その感情は恋愛に起因するものではないと自分を分析しながら、少しずつ、彼女に歩み寄り、今二人は誰よりも気兼ねなく話せる仲間となった。


「さて、行きますか。あんまり長居するとまた何か言われるでしょうし、俺も一緒に行きますから」


出勤の時間も近いし、とパーカーのポケットからスティック状の携帯端末の画面で時間をチェックする。もうすぐ18時になる。今日は夜勤のミカグラは、そろそろ騎士団に向かう必要がある。


シャーロイドは騎士団街にある専用宿舎に住んでいるのだが、そこへ行くにも一度騎士団庁に入らねばならない。というのも、騎士団街は庁の地下に広がっており、騎士団庁自体が博物館のカモフラージュをしているため、傍目には何があるのかわからない状況になっている。


因みに、出動する際は騎士団街から地上の各地へと伸びる滑走路を抜けていく。なので、有事の際にはどこからか突然騎士が現れる形となっているため、人々を驚かせることもしばしばある。


二人が立ち上がると、エオは森林を抜けるルートを取る。木のアーチを抜けると、空はもうだいぶ暗くなっていた。夕暮れの赤は空の端にかすかに見える程度しかなく、夜が来ていることを教えてくれた。


入り口まで戻ると、エオは立ち上がって手を振り、巣穴に戻っていった。二人はそのまま騎士団庁へと足を運ぶ。学校帰りの学生、仕事上がりのサラリーマン達の脇を通り抜け、とあるビルの中に入る。


五階建てのビルのエレベーターに乗り込み、操作コンソールにカバンから取り出した板状の騎士章を翳すと、エレベーターは上では無く地下に向かって動き出した。途端、灰色の壁の塗装がクリアになり、籠の大きさで作られた通路を滑っていく。


時間的には博物館は表向き閉まっているため、この様に無数にある裏口から騎士団街を通って騎士団庁に向かうことなる。彼女のことだから仕事自体は終わっているのだろう。それでも退勤する際には一言上司に声をかける必要がある。


長い通路を無言で通り過ぎ、騎士団街に到着すると、中は表とさほど変わらない街の様相があった。ショッピングモール、カフェ、レストランにホテルまである。どうみても怪しいホテルではあるが、いつもなぜ宿舎があるのにホテルが用意されているのかわからない。


レッドライトを白色光で薄めた淡いピンクの電光に照らされ、ナイトウォーと書かれた看板が浮かび上がる。


「シャーロットさん、あのホテルって使ったことあります?」


「んー?どのホテル?」


「ナイトウォーってやつ」


「えっ…と…それはどういう意味なのかな?」


「え、いや、ホテルなんだから意味は一つじゃないですか」


目が右往左往するシャーロイドに首を傾げるミカグラ。その顔からは本当にその意味を理解しているのかもわからない。シャーロイドは戸惑いながらも、大人の対応を取ることにしてみる。


「そういう事を聞くのは無粋だよ?女の子にそういうこと聞いちゃダメなんだから」


「はぁ…、そうなんだ」


「そうだよー。でもまぁ、お姉さんが答えてあげましょー。一応ね、使った事あるよ、女子会に」


「へぇ、中どんな感じでした?」


この反応からして、恐らく彼がビジネスホテルと同一に考えていると感じたシャーロイドはイタズラと訂正する意味も込めてミカグラの腕に絡みつく。作り物とわかっていても、腕に伝わる柔らかさに意識が向いてしまう。


「ピンクい感じだったよ。因みに、あのホテルって、こういう事…する所だから」


するりとミカグラの前に立ちその手が足の間をなぞる。ぞわりとした感触に少し身震いしながらやっとその意味を理解した。


一歩二歩と後ずさりした後で、自分がした質問の意味を自分が理解する。


「あ、ちょっ、その…ごめんなさい!」


「いいよー、わかってないと思ったから」


シャーロイドは笑顔のまま手を後ろ手に組んで下から覗き込むように体を少し倒した。


「まだまだ初心だねぇ?」


「し、知らなかったんです!セクハラとか…全然そんなつもりじゃないっすから!」


「わかってるってば。早く行かないと、そろそろ出勤時間じゃない?」


「あれ?やべ…!先いきます!また後で!」


「はーい」


地面を蹴って一気に近くの建物の屋上まで跳躍し、人混みから外れて屋根から屋根へと飛び移る。


その背中を見ながら、シャーロイドは自分の胸を少し持ち上げた。


「もうちょっと詰めとこうかな」


その声はミカグラに届くことなく、彼女の周囲を揺らすだけにとどまった。

次は14日の予定です

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