34.覚悟
作戦前夜は、いつまで経っても慣れない。経験の多い二人だからこそわかる怖さもある。
「そういえば、今回は鎧付けるのか?」
「そのつもりだ。パワーアシストは不要とはいえ、多少なりとも被弾は避けられまい。生身で鉛玉を弾き返せるほど強靭になった覚えはない」
「そりゃそーだ。それより、明日の事だが、どう思う」
ヘベルハスは両肘をデスクに置いて、ドライドに尋ねた。ドライドはその意図を理解し、腕を組む。
「…クラウディオ・ニッセンが関わっている事は確実だ。ミカグラユニットを渡したのにも何かしらの理由があるだろう。総帥は奴一人でユニットは作成出来ると言っていた。だがそれをばら撒くことになんの意味があるのか、それがわからない」
「例えば、の話だが」
「あぁ」
「もし、ミカグラ兄妹が無作為に選ば訳でないとしたらどうする。国の計画書には無作為に選んだと書いちゃあるが、それにしちゃ被験者の数が少な過ぎる。あのレポートじゃ何人失敗してんのかもわからねえが、それにしてもあのロットの振り方はおかしい。ムツキからシモツキまで、11人。一つ足りないが、最初から12までしか考えていなかったとすれば、どうだろう、このばら撒きはその12番目を探している可能性があるんじゃないか?」
「それはありえません」
二人が揃って声がしたエレベーターに目を向けた。食事から帰ってきたらしいヤヨイが爪楊枝口の端に咥えたまま話に加わる。言い切ったヤヨイに二人は疑問の目を向ける。
「12番目は進化したユニットの事です。だから12番目を探すとかではないと思います」
「…今のところ、二つとも推測に過ぎない。情報が少な過ぎるからな。だが、私としては二つとも正しいと言える」
ドライドはメガネを直し、続けた。
「12番目がその進化したユニットの事を指していたとして、奴が新たな適合者を探さないとは限らない。もし、奴の狙いが本当に適合者を探す事だとするなら、最終的にな目的は、その12番目の量産ではないだろうか?解析班が解析した資料は、私達が欲しい情報とは程遠い。そのユニットの質が低いといっても、進化ができるようになっているのかいないのかはわからないんだ。仮に出来たとしたら、このばら撒きには意味があるんだろう」
「…博士は、何がしたいんでしょうか」
「さーな」
ヘベルハスは背もたれに寄りかかって体内の空気の入れ替えを行う。プシュー…と気の抜けていく音に、二人も姿勢を落ち着けた。
それがわかれば、誰も苦労などしない。事前に予想して動くことだって容易になる。わからないから、困るのだ。
「ホント、天才の考える事はようわからん」
三人は揃ってため息を吐いた。
§
___翌日
「さて、そろそろ行こうか。ストレッチも発声練習もいい感じだ」
「発声練習なんてする必要無いじゃないの」
「させたれさせたれ、どうせ出番なんてくれてやらんわ。応援団でもやってもらいぃ」
「人が…いないな」
「そりゃそーだろーよ!宣戦布告しといて住民避難させねえとか見殺しにしてるよーなもんだろ。ま、俺はそれでもいいけどなァ」
「グリーンは気合入ってるわねぇ」
「ったりめえだ!どんだけ分体作ったと思ってんだ!50だぞ50!出力の問題で出来なかった事がこのユニットのお陰で全部出来るぜ!」
「せやなぁ、あのおっさんには感謝せなあかんわ」
「無駄話は其処迄だ。始めるぞ、イエロー」
「…あぁ」
イエローが巨大な一眼がブラックに向けられ、手元のディスプレイを操作すると、街の至る所に設置されている巨大な電子広告に一斉にブラックの顔が映った。
『やぁ諸君、御機嫌よう。ブラックカラーだ。今日のためにこんな素晴らしいステージを用意してくれたこと、先ずは感謝する。さて、予定通り我々はこの第五区画を更地にするつもりだ。騎士団の諸君は、そうならないように頑張ってくれ給え。それでは、ショーを始めよう!』
パチン!
ブツ、と映像が途切れた瞬間、第五区画の各地で爆発が起こる。その爆発はビルを倒壊させ、道を潰していく。そして倒壊したビルはほぼ全て、騎士団が表に出る為のエレベーターを有していた。
作戦用に拡張された司令室に焦りの声が飛び交う。
「2番から15番エレベーター使用不能!」
「20番から35番もダメです!」
「18番も使えません!」
「………、総員、本庁下で待機、時を見て、少数ずつ表に出す。それから、予備のエレベーターを起動させろ、100番台はまだ健在だな」
「は…はい!ですが電力が…!」
「一時的に全てのエレベーターの電源を落としてそちらに回せ、どうせ使えないなら回すだけ無駄だ。クライス中尉に繋いでくれ」
「はい!」
音声のみを通すホログラムが総帥の前に浮かぶ。
『こちらクライス、派手に始まりましたね』
「あぁ、然も此方の運搬エレベーターがほぼ潰された。暫く増援は出せない」
『了解。此方も道を絞られてます。ここを中心に5方向。奴さんの姿も見えてきました。…馬鹿な奴らだ、火器を持っていません。迎え撃ちます』
「クライス中尉!大丈夫なんだろうな!此処まで潰されれば国の未来はないぞ!」
イェートシュテットは焦った声でヘベルハスに怒鳴る。ヘベルハスはため息と共に彼を煽った。
『おやおや、ポンコツ殿でもそれはわかりますか』
「ポン…!」
『でもな、ヨセフ・イェートシュテット、よぅく聞け。俺はその事をどの作戦だろうと忘れた事はない。俺たちは最強の盾だ。此処には指一本触れさせない。その覚悟がある。通信を終わります』




