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転生騎士  作者: 如月厄人
第二章 邂逅
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33.前夜(2)

「あのな、明日作戦だってわかってるよな」


「は…ははは…、頭が冷えましたよ」


「血の気が引いただけだ阿呆。ったく…、支障ないんだろうな」


「えぇ、問題ありません」


「そーかい。まぁ青春するのはいいんだけどよ、もうガキじゃねえんだからさ、な?」


「あはは…はぁ」


 顔を赤くしたまま俯いているリウノは何も言えず、ヤヨイの渇いた笑いが木霊する。作戦前だというのに、彼の頭は包帯に巻かれていた。幾ら頑丈だとはいえ、流石に裂傷の一つは出来る。それがすぐに治るものだとしても、緊張感のある執務室では白い目で見られるのが普通だ。


 普通なのだが…。


「ねぇねぇ何したの?顔赤くなるようなこと?屋上だよね?もしかしてやることやっちゃった感じ?」

「やってないよ!やってないから!何考えてるの!!」


「それはそのまま兄ィに言ったほうがいいと思うぜ…」


「私だってそんな事するとは思ってなかったから!」


 ナガツキの質問攻めに耐えられなくなったリウノがまくし立てるように言った。屋上の手すりは一周ぐるっとヤヨイの頭の形の凹みができている。博物館という事もあって、ギリギリアートの部類として誤魔化せそうだが、幾ら何でも阿呆過ぎる。


 ヘベルハスとシモツキは同時にため息をつき、ナガツキは楽しそうに顔を綻ばせる。その顔を見て、ヤヨイは苦笑いのまま言った。


「楽しそうだな、ナガツキ」


「ふふーん、だってだって、お兄ちゃんが幸せそうなんだもん」


 ナガツキはにしし、と笑ったあと、弾み調子でヤヨイの腕に飛びつく。


「彼女なんて作った事も、ましてや自分の事なんてほっぽってたお兄ちゃんがだよ?彼女が出来たって事だけでも嬉しいのに、幸せそうなんだよ?そりゃあ嬉しいよ。妹冥利につきるってヤツ?」


「だからって、中学生みたいな反応じゃないか、恥ずかしくて頭ぶつけてきたなんて。学校で彼女とか出来なかったのか?」


「ぁー…俺学校行ってないんすよ。一般教養とかは騎士団が家庭教師つけてくれたんで、それで…」


「…スマン、そうだったな、お前11から騎士団いるんだもんな、そりゃ学校なんて行ってられねえよな。よし青春してこい、物壊さなきゃ何しても構わんぞ!」


「いや、もうそうならないようにするんで…、はい…」


「遠慮するな!青春は待ってくれないぞ!」


「もう通り過ぎてますから…。明日には治ってると思うんで、心配しないでください」


「む、そうか」


 あまり乗り気でないヤヨイに少し残念に思いながら、ヘベルハスは疑問に思っていた事を尋ねる。


「この間もそうなんだが、お前かする程度だが被弾してるな。なんでそんなすぐに治るんだ?」


「ミカグラユニットのお陰です。体内のエネルギーが変換されて特殊な粒子に変わるんですけど、それが体内を循環すると血液を通して吸収されるんです。なんで全身がユニットになってるようなもんです。闘う時には普段から貯蓄してる粒子量にもよりますけど、吸収された粒子が使われる事はないと思います」


 ヘベルハスは感嘆の声をあげ、自分の体をさすった。


「生身じゃない俺には関係ない話か。報告書を見る限り、相手のユニットは劣化版と考えていいんだな?」


「恐らくは。ただ、あの時はまだ慣れていないだけの可能性もあります。やはり他の部隊に任せるのは危険かと」


「兄ィ、作戦は聞いたけどよ、わざわざ他の部隊に手柄をくれてやるような必要はないんだろ?」


 シモツキが自信満々に背もたれに寄りかかり、頭の後ろで手を組んだ。ヘベルハスの特訓の成果が出て来た事が実感できるようになったのだろう。その自信は油断ではなくその成果を早く実戦で試したいという彼の気概だというのは容易に見てとれる。


 ナガツキも手の甲や足の甲、膝に新たに仕込まれた、恐らく近接撃ち込み用の銃のシリンダーの手入れをしている。


「ナガツキはどういう戦い方を教わってるんだ?」


「んー、いろいろ。近接から中、遠距離まで一通りやったかな。けど、やっぱり私は近、中距離が向いてるみたいで、体術とか教わってるよー」


「遠距離から待機とか苦手そうだもんな」


「そうなんだよー、じっとしてられなくて…。でもコレがあるからお兄ちゃんを間違って撃つとかはないよ、やったねお兄ちゃん」


「ソレがなくても誤射しない技術を身につけて欲しかったなお兄ちゃんは」


 見ただけでは見当がつけられなかったシモツキがナガツキに尋ねる。


「さっきっから気になってたんだけどよ、それって何なんだよ」


「秘密ー、明日のお楽しみー」


 ちぇー、と少し拗ねたように口を尖らせた。其処へ、カニサレスの所にいたハヅキが戻ってくる、普段ならカールの掛かったふわふわの栗毛がボサボサになっており、その顔も明らかにやつれていた。


 ただ、カニサレスの所に行き始めてからはずっとこの調子なので、今ではもう誰も心配しなくなっていた。厳しいということはそれだけ目をかけられているという事でもあるのだ。ハヅキもそれをわかっているからか、弱音は吐いても根を上げる事は無かった。


「お疲れ、ハヅキ」


「お兄様…、その頭はどうしたんですの?」


「あー、ちょっとな」


「あ!ハヅキちゃん聞いて聞いて!お兄ちゃんさっき屋上でむがむごぅ!!」

「余計な事は言わんでよろしい」


「ぷはぁっ!鼻まで抑えたら本当に息できないじゃん!」


「お前が何も言わなきゃ俺も何もしなくていいんだよ」


「ちぇー」


「ふふ、でも何となくわかりましたわ。進展があったのですね」


 ハヅキも嬉しそうに笑う。ヘベルハスは、この兄弟がどれたけこの兄の幸せを願っているか、顔を見るだけでもわかった。


 ヘベルハスに兄弟はいない。家族も、居なくなってしまった。彼等を羨ましいと思う事もある。ただ、高望みはするべきではないと一線を置いている部分でもある。


 時刻を確認する。22時、夜は感傷的になりやすい。転生しようがしまいが、それは変わらなかった。今までの様々な事を思い出し、噛み締め、二度は繰り返さぬ誓いを立て、己にそれを課す。それは戒めでもある。


 一兵卒をやっている時とはまるで違う責任がある。ヤヨイに話した階級の話は、半分本当で、半分は話していない。


 ヘベルハスとドライドは、上にいく事を拒み続けている。何度昇格の便りを貰っても、その全てを蹴ってきた。


 彼等には、前線に向かう覚悟と、向かいたい欲望がある。その覚悟は前線に大きな力を与え、その欲望は、自分が守りたいものを失いたくない恐怖を埋めてくれる。


 ヘベルハスは自分の部下を、ドライドは大事な家族を、失ってしまっているから、いち早く駆けつける事のできる地位を手放せない。手放す事が出来ない。多くの場数を踏んできた彼等のその恐怖は簡単に取り除く事は出来ないのだ。


 だがその恐怖があるからこそ、彼はブレない。己の信念を曲げず、道を突き進む事ができる。


 迷いを捨てた。その引き換えに、恐怖を手に入れたのだ。


 書類に目を通す振りをしていろんな事を思い浮かべているうちに、全員が席に戻ってきていた。疲れた顔も幾つかあるが、作戦前の負傷は一人を除いて無かったようだ。明日には治るという事なので、ここは目を瞑るとしよう。


「さて、なんか全員揃ってるみたいだが、俺から言う事は特にない。死ぬな、それだけだ。だが全員死にたかねえだろ?だからわざわざそんな命令は出さん。強いて言うなら、ゆっくり休んで明日に備えろ。以上だ」


 それを聞いて、各々が席を立ち始める。仮眠室に入っていくものもいれば、作戦前夜で遅くまで営業している食堂に向かう者もいた。最後に残ったのは、シモツキ、カンナヅキ、ドライドの三人だ。


「明日、どっちが多く倒せるか勝負するか?」


「馬鹿者、隊列を乱して兄さん達を危険に晒すつもりか」


「相変わらずお堅いな。でもま、腑抜けてなくて良かったぜ。張り合いが無くなるのもなぁ?」


「お前と張ったところで私に得は無いんだがな」


「今はどうかわからないゼェ?作戦が終わったら、一勝負洒落込もうや」


「…わかった。お前がどれだけ変わったか、私が見極めてやろう」


 えらそーに、とシモツキが口許を緩めながら頭の後ろで手を組み、仮眠室に入る。カンナヅキはそれを見送ってから、自分の手を見つめ、ギュッ、と固く握った。


「世話の焼ける弟だ…」


「といっても、負けるつもりも無いんだろう?俺も教えられる事は教えたからな、以前とは大分変わってるはずだぜ」


「…手加減はできそうに無いですね」


「そりゃあな」


 彼女の迷いは、どちらかというと心配しているように見えた。弟思いの姉、とでもいうべきだろう。


「私も休みます。フォルも明日出ますか?」


「あぁ、先行隊は私たちだけだからな。全員で出るのがいいだろう。私はクライスと万が一に備えておく」


「わかりました。じゃあ、お休みなさい」


 ぺこりと頭を下げて仮眠室に入っていったカンナヅキを見送って、二人は互いの顔を見た後で、大きく息をついた。

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