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転生騎士  作者: 如月厄人
第一章 ミカグラ
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4.お散歩(1)

デザートを平らげた後、ミカグラはレジで領収書にサインをしてカフェを去った。本当に経費だった事に驚きつつもリウノはカフェを出てからミカグラに頭を下げた。


「今日はご馳走になりました。ありがとうございます」


「いや、いーよ。俺が誘ったんだし」


実際は誘ったというには程遠い形ではあったが。


「じゃあまた誘ってください。また明日会いましょう」


「いーぜ、俺の金じゃねえし。また明日」


手を振ってリウノを送り出すと、振り向いて丁度通り過ぎようとしていた女性の手を掴んだ。


「シャーロットさん、いるんなら声かけてくれても良いんじゃないですか?」


「…?私はシャーロットじゃないですよ?」


「そのミサンガ、一緒に編みましたよね?」


「あちゃー…」


ウェーブのかかった栗色の髪に、美人すぎず、不細工過ぎず、何処にでも居そうなOLの格好をした女性、シャーロット・シャーロイドはなはは、と手を後頭部に回して頭をかいた。


彼女が何故ここにいるかは何となく見当がついていた。


「また隊長になんか言われたんすか?」


「ううん、言われてない。ただ、ちょっとした気分転換」


「じゃあ、ちょっと歩きますか」


「うん」


カフェから少し歩き、大通りから少し外れた小道を抜けると、自然博物館という名の国立大公園がある。自然をそのまま残し、絶滅危惧種や、既に絶滅した動物を遺伝子から復元し、野に放っている。


『お、いらっしゃい』


しかも喋れる。


話しかけてきたのは白く細長い体躯に円らな瞳がチャームポイントというエゾオコジョのエオだ。身体は最大で一メートルほどしか無いが、毛並みは柔らかく、人懐こい性格の持ち主だ。


エオは入り口付近の巣穴から顔を出し、土埃を払ってから後ろ足で器用に立ち上がると前足で挨拶した。二人も同じように返す。


「や、今日もダンディな声してんな」


『だろ?お二人はお散歩かい?』


「えぇ、またお願い出来る?」


『もちろんさ、今日は特に新入りがいるわけでもねえから、ゆっくり回れると思うぜ』


この公園は広い事に加えて、ジャングルのような森林が生態系を維持している。その為、森に入ると自然をごく身近に感じることができる代わりに、案内役を連れていないと特に目印の無いだだっ広い森林を彷徨う羽目になる。


その為、エオ達はマスコット兼案内役として入り口の近くに巣が用意されている。


四足歩行に戻ったエオの後ろを、二人で並んでついていく。傍目には暗く、入りにくい森の中へ、エオは何も言わずに入っていく。エオが入った瞬間に、森の入り口は人が通れるだけの道を開ける。


エオの体内のナノマシンに反応して木々が自動的に道を開けてくれるのだ。木のアーチをくぐり、少し歩くと、頭上から斜めに赤みがかった陽気が射し込む。森林とはいえ、肌にまとわりつくような湿気はなく、少し肌寒いようなヒンヤリとした空気が体の中を通っていく。


その空気を肺の中に詰め込み、力を抜く。


「昨日さ、ヤヨイ君が捕まえたサイボーグ達、いたじゃない?」


シャーロイドがエオを目で追いかけながら口を開いた。


「いましたね」


「今日、その人達の尋問をしたの。それに隊長も参加して私達がその見張りで一緒に部屋に入ったんだけど…」


ドライドはサイボーグが相手となるとやり過ぎるきらいがあるため、隠密班の何人かで見張りをするように言われている。それにシャーロイドが入ったのだろう。


「…なんか、尋問じゃないんだよね。最初は普通だったんだけど、途中から主旨が変わってきちゃって…。皆で止めても、止まんないんだ…。結局、その人は…腕が取れちゃって…」


「…そうなんですか」


重ねて言うが、ドライドは人間だ。並の人間の筋力では傷一つ付けられるはずもないサイボーグの体を、彼は素手で破壊する。


彼は、出来るのだ。


その力の源が何であるかは隠密班の全員が首をかしげるものではあるが、ただ一つ、わかっていることがあるとすれば、ドライドの異常なまでのサイボーグへの執着、怨恨がその力を引き出しているということだ。


「サイボーグだって…生きてるんだよ?腕が取れたら、もう動かせなくなる可能性だってあるのに…あんな…あんなゴミを捨てるように…簡単にしていいことじゃないんだよ…」


抑えきれぬ嗚咽を漏らしながら、シャーロイドは目尻に溜まった涙を拭う。


サイボーグは、人間の脳を模した電脳に人間の魂を移すことでその体を動かすことができる。そのため、痛覚そのものは存在しないものの、何かが無くなる『感覚』だけは頭の中に、魂に残る。例えばどこかのパーツがポロっと落ちた(本来ならありえない話だが)とすれば、何か無いな、という感覚だけが残る。目に見えていない分、失ったという感覚が薄いため、動かす分には特に支障を感じないだろう。


しかし、失ったものを『知覚』してしまうと、話が変わってくる。例えば今回のように、『腕が無くなる』という感覚を、知覚を通して魂に反映されてしまうと、例え予備のパーツを付け替えても動かすことが出来ないという場合がある。


これを一般的に『魂の欠損』と呼ぶ。


だが、この事が起きるのは稀で、大抵の場合、『予備のパーツがあるから大丈夫』と考えていれば、この事態はほぼ起きない。ただし、不意にそれが起きた場合はその限りではない。


尋問を受けていたサイボーグも、まさか人間に腕をもがれるとは思わなかっただろう。動くかどうかは、わからない。


そもそも、あれだけ大規模なテロを行った分、極刑は免れないだろうから、そもそも腕を付けて貰えるかどうか。

次は12日です

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