表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生騎士  作者: 如月厄人
第二章 邂逅
49/176

25. 頼み込み

 カンナヅキに苦笑いしているミナヅキに、ハヅキとナガツキがスプレー消臭剤を噴射する。


「ゴホッ!これはこれで…キツイ!」


「なら自分でやって下さいなミナ兄様。モテませんわよ?」


「モテなくていいよー。今はやりたいことでいっぱいだ」


 ミナヅキは服を軽く叩いて、上着を脱いだ。鼻の調子も戻ってきたようで、少し上着の臭いを嗅いで顔をしかめた。


「確かに、いい臭いではないね」


「執務室で吸わないでねー」


「わかったよ。所で、兄さんと隊長は?」


「演習場だよ。行くの?」


「うん、隊長にちょっとお話が、副団長にちょっと取り合って貰えないかなって」


「へー、いってらっしゃい」


「いってらっしゃいまし」


 見送られてもう一度エレベーターに乗り込み、今度は演習場まで降りる。すると、凄まじい速さで繰り出される槍を躱し、弾き、拳を繰り出すヘベルハスとヤヨイの姿があった。一つ横槍でも射れてやろうと考えていた矢先、向かい側のエレベーターからもう一人降りてきた。先程別れたばかりのアッカーだ。


 アッカーもミナヅキに気づいたのか、軽く手を挙げた後、それを振り下ろした。やっちまえ、そう捉えても良さそうだ。


 ミナヅキはタバコを咥えて火をつけてから、弓を構える。弓矢は三本、イメージは螺旋、スクリュー。三本の矢を捻る。


 ヒュビッ!


 一本が不安定な力のかかり方で先に落ちるが、二本は渦を巻いて二人の間に吸い込まれていく。


 だが、二本を纏めてヤヨイが握り潰す。


 ミナヅキは背筋に寒気が走った。ヤヨイがミナヅキを見ている。不意打ちにも関わらず、螺旋を描いた弓を纏めて掴み取り、ヘベルハスの槍を正確にかわしていた。二つの部分へ、同時に意識をまわしていたのだ。そしてその視線は、余り好意的とは言えない。


 怖気付かないように、心を奮い立たせる。


「…ミナヅキ、お前どういうつもりだ?タバコまで咥えて」


「いやぁ、矢を曲げるにはこれが一番手っ取り早いらしくてっゴホッ!」


 ヤヨイは怪訝そうな顔をしながらも、聞こえてきた拍手に振り向いた。


「そう怒るな黒騎士。俺が勧めたんだ。お久しぶりです、中尉」


「タイタス…、久しぶりだな!メール読んでくれたのか?」


「メール?いや、読んでませんけど…もしかして最初からこの子俺に…?」


「あぁ、思いついたのはさっきだがそのつもりだった。弓の名手で騎士団にいる奴はお前くらいだしな!」


 ヤヨイがやっと警戒を解いてミナヅキが咥えているタバコを軽く弾いた。灰が床に落ちて灰色の点を作る。これがミナヅキにとっての近道なら仕方ないが、ミナヅキがやっているのを見ると少し出遅れた感がある。


 なんとなくだが、大人の男と言うのはグラサンにタバコを咥え、ショットガン一本で場を制圧するような強さとサングラスを煌めかせながらも渋さを醸し出すハードボイルドさを兼ね備えたような、そんなイメージなのだ。もしかすると自分より先にミナヅキがそんな存在になる可能性がある。


 もちろん人それぞれの個性は尊重するつもりだが、ちょっぴり悔しさを感じる。とはいえ、真似して吸うつもりもない。あくまでイメージはイメージだ。


 それより、先程の男が何者なのかをヘベルハスに尋ねる。


「どちら様…?」


「あぁ、紹介が遅れたな。タイタス・アッカー、今は大将か。第一騎士団の副団長だ」


「え、超お偉いさんじゃないすか知り合いなんですか?」


「元部下だ。ミナヅキの指導をと思ってな」


「話は良く団報でよく見てるぜぃ、ヤヨイ・ミカグラ曹長」


「光栄です。でも良いんですか?副団長殿は忙しいのでは?」


「んにゃ?ここまで上がると逆に暇よ暇。下のが勝手にやってくれっからさ。だから、そいつを見つけたってわけよ」


 口の端のタバコを上下させながら向かいのミナヅキをアゴで指した。見つけた、という事は射撃場であったんだろうと適当な予想をしてヤヨイは吸う度にむせ返っているミナヅキに視線を向けた。


「よかったな、声掛けて貰えて」


「えぇ、ホントに、こほっ、良かったです。これなら僕も兄さんの隣に立てそうだ」


 その言葉を聞いて、ヤヨイは驚いたように目を見開いた。先程のヘベルハスの話を聞いていなかったはずだが、彼の中でそれはわかりきった事だったらしい。


 アッカーも、彼がどうして最後の的を射抜こうとしていたのかを理解して頷いた。


「確かに、曹長の居る戦場にトーシローがいてもな。ついていけないのもあるだろうが、足を引っ張るのはもっと嫌だろ」


「えぇ、まぁ…」


 ストレートに言われると少し恥ずかしさと悔しさが混じる。だが事実なので言い返せずに、弓をしまって腰に手を当てた。


「んじゃ、こいつはうちで借りていきます。それなりの騎士にして返しますよ。入り用なら好きに呼んでくれて良いっすから」


「おう、出退勤はこっちで管理しとく。目一杯やってこい」


「はい!ありがとうございます」


 ミナヅキが頭を下げる。二人はタバコをを口の端に咥えたまま演習場から去っていった。それを見送って、ヤヨイは短くため息をついた。


 ヘベルハスは槍を仕舞って、ヤヨイに尋ねる。


「心配か?」


「多少は、ね。でも芯は強い子ですから、やり切ってくると思いますよ」


「そりゃよかった。今日はこのくらいにしておこう。ちょっと頭下げてくる場所が二三出来た」


「?どういうことですか?なんかやったんです?」


「あぁ、お前の兄弟をその道のスペシャリストに頼んだんだよ。つっても、全部俺の下にいたやつらだけどな。とっくに追い越して上にいってるやつらばかりだよ」


「…それ、俺も行きます。俺の兄妹なんで、俺にも行かせてください」


「おう?わかった。行くか!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ