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転生騎士  作者: 如月厄人
第二章 邂逅
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23. コイバナ

 直接執務室に乗り付けると、早番でそのまま任務に向かっていたハヅキとナガツキが机に突っ伏していた。


「どうした?お前ら」


「ハッ!お兄ちゃんの声!」

「ですわっ!」


 バッ!と二人がヤヨイの声に反応して勢いよく顔を上げた。


 任務上がりで疲れているのが顔にありありと出ており、ヤヨイも若干心配になる。二人はヤヨイ、ミナヅキの顔を見ると少し安心した顔でまた机に突っ伏した。


「いやぁ…任務って大変だねぇ…」


「ようやく老害というものがどんなものか、本当の意味で理解できましたわ」


「…治安部隊の使いパシリでもしたのか」


「せーかーい」


「その言葉もピッタリですわ…」


 そのまま突っ伏して動く気配のない二人に苦笑いしながら、ヤヨイは自分の席に着く。いつの間にか、シモツキがいない。来ると言っていた割に、結局食堂では姿を見れなかった。ミナヅキは身体の節々を見回した後、ヤヨイに言った。


「僕射撃場行ってきますね。ちょっと試したいことがあるので」


「わかった」


 ミナヅキを見送ったあと、ヤヨイは思い出した様に騎士章を出入り口のセンサーに通して出勤する。時間的にもちょうど良かった。改めて自分の席について二人に声をかける。


「キツいんなら隣で寝てくればいい、仮眠室あるぞ」


「んー…でもあと3時間…」


「勤務中に寝るつもりはありませんわー」


 とはいえ、二人とも満身創痍のご様子で、兄としては気になってしまう。


「おはようございます、ってどうしたの?二人とも」


「任務疲れだと」


 後から来たリウノが二人を見て入り口で足を止める。リウノには反応を示さないあたり、二人とも少し兄贔屓している部分があるのだろう。リウノはあまり気にせず、自分のデスクについた。


「あとは誰が来るんでしたっけ?」


「遅番は俺たちだけ、あとは夜勤だな。シャーロットさんとシモツキ、フミヅキがいるはずだ。あとはもう無いかな」


「ローテーションが回り出すと、仕事だなぁって感じしますね」


「そうだなぁ…」


「ねえねえ、なんでリウノお姉ちゃんは敬語なの?」


「リウノさんの方が年上でしょう?何を気にしてらっしゃるので?」


「ぁー、二人は兄妹だからあんまり考えないかもしれないね。ヤヨイくんの階級は?」


「えっと、曹長?だよね?」


「そのはずですわ」


「で、私は一等兵、そしてここは職場、だから私は敬語で話さなきゃいけない立場なの」


 チラリとヤヨイを横目で見てから続ける。


「まぁ、仕事が終わればその限りではありませんけど、ね?曹長?」


「おいこっち見るな」


「え?え?!そうなの?!どんな感じ?!二人だとどんな感じになるの?!」


 ナガツキが目を輝かせながらリウノに詰める。先ほどの疲れなど一気に吹き飛んだらしい。ハヅキもナガツキほどではないものの、気にはなるようで、少しそわそわしている。


「ふふー、秘密ー。でも嬉しいな、お姉ちゃんって呼ばれるなんて」


「だって二人とも付き合ってるんでしょ?そしたらもうお姉ちゃんでいいじゃん。もしかしたら副隊長もお兄ちゃんになるかもしれないんだし」


「な…ななな…っ!」


 別のところから声がする。見ると、訓練を終えたらしいカンナヅキとドライドが並んでエレベーターの中にいた。


「ほら、お似合いじゃない?」


「ばっ!なんて話してるんだナガツキ!」


「お・ね・え・ちゃ・ん」


「うっ、ナガツキ…おねえちゃん…」


「今の可愛くないですか?副隊長」


「あぁ、そそられるな」

「ちょっとーっ!」


(副隊長もだんだん吹っ切れてきてんなー…)


 ヤヨイは苦笑いしながら特に会話に参加せずにいると、ハヅキがちょっとした核心を突く。


「でもそうすると、副隊長はお兄様の弟になってしまいますわ。それはそれで凄い違和感…」


「副隊長を弟とかそんな恐れ多いこと出来るかよ。俺が弟で良いんだよ、もしくは弟子とか」


「弟子に取った覚えはないぞ」


「俺の心の師匠です」


「ならいいか」


「いいのか…?」


 カンナヅキが首を傾げつつ、大事なことに気づく。


「既に結婚する事が前提で話が進んでいる…!」


「しないの?」

「しないんですの?」

「しちゃってもいいぞ?」


 カンナヅキが顔を真っ赤にして小刻みに震える。少しやり過ぎたか、と全員が顔を見合わせると、カンナヅキがドライドの腕に抱きついて言った。


「そんなにして欲しいならするよ!フォルと結婚する!」


「よし、受理。式はいつあげるんだ?」


「へ?」


 いつの間にかヘベルハスが出入り口に立っていた。ボディが新調され、傷一つないピカピカな状態だ。


「お前が受理してどうする。先ずは役所だろう」


「それもそうか、で?いつ?」


「まぁ、いろいろ片付いてからだろうな」


「そうだな。しっかし、ホントにやるなぁ、カンナ…ヅキ新兵。フォルは結婚の話をするだけで机を蹴り飛ばしてたと聞いてたんだがな」

 

 カンナ、と呼び捨てにしようとしたところでドライドの睨みが入る。ドライド自身、それに関してはヘベルハスと同意見だった。こんな話が軽くできるようになるとは微塵も思っていなかったものだが、それも、カンナヅキのおかげと言っていいかもしれない。


 彼の胸の内にある黒い塊に吸い込まれるような感覚も、無かった。


 ドライドの腕にくっついたまま固まっているカンナヅキが、ハッとして腕から離れる。顔はまだ赤いままだった。


「もう良いのか」

「しりません!」


 全員がこのくらいにしておこう、と満場一致の雰囲気を出し、ヤヨイが気になっていた事を尋ねる。


「シモツキはどこいったんすか?」


「あぁ、ヤツなら暴徒鎮圧に向かわせた。転生者混じりのヤクザ組織の抗争で、第三騎士団の治安部隊の手伝いだ」


「そうだったんすか。一人で大丈夫なんですかね」


「死にはしないだろう。逆に、殺してしまっても問題はない連中だ。どうせチャチなチャカも持ち合わせてるだろうからな」


「うーん…」


 流石に殺しても良い連中では無いだろうなぁと思いつつ、初任務で単独というのも少し不安になる話だ。転生者といってもサイボーグだけではない。人間とアンドロイドを区別できなければ、当然危険なのはこちら側だ。騙し討ちされていなければいいのだが…。


 ヤヨイが兄の顔になって心配そうにしているのとは裏腹に、ハヅキ、ナガツキの二人の姉はほとんど気にしていないようで、何食わぬ顔でリウノに話しかけた。


「そう言えば私二人の馴れ初め聞いてない!」


「まだ誰にも言ってないんだけどね。でも話すような事でもないかなぁ…」


「えー、聞きたいー」


 いつの間にか立っていた者も全員自分のデスクについて、各々の事をしている中で、ナガツキはリウノにすり寄った。


「んー…、そうだな、何を話せばいいのか…」


「二人は同じ部隊だったの?」


「ううん、全然違うところ。私は第四騎士団の治安部隊で、曹長は隠密部隊。偶々同じ作戦で私が助けてもらったのがキッカケなのかな」


「そうなんだ。最初お兄ちゃんの事どう思った?」


 少し言葉を選ぶような素振りを見せた後、こう言った。


「不気味な人、かな」


「どストレートだねお姉ちゃん、もう少しオブラート包んであげないとお兄ちゃんが死んじゃう」


「いや、不気味って言われたのは覚えてるから、うん」


「あ、あはは。任務衣装が他の人よりもなんて言うか、黒かったから…。でも本当にそこから始まったんだよね」


 それでそれで? と催促する。


「その時は、隊長の影響で隠密って言うのは騎士にそぐわないってホントに思ってたから、ちょっと曹長に張り付いたりとかしてたかな…?」


「更生プログラムとかな」


「あったね、そんなの。すぐにビリビリにされちゃったけど」


 ヘベルハスとドライドがここで納得する。どうしてヤヨイが殆ど接点の無かったリウノを助けに行ったのか、最初は総帥がヤヨイに対して単独で行動させるために緘口令を出したのだと思っていたのだが、それも違うようだ。もしかすると、総帥は本当に助けに行かせないつもりだったのをヤヨイが変えさせたのかもしれない。


 そうなれば、二人がそんな関係になったのも、多少なりとも納得はできる。


(ま、若い連中がどうしたって俺は見守るだけだ)


 死ぬまで騎士を貫くヘベルハスには余り関係のない話だ。


「それから、また助けてもらったりとか…ね」


 ナガツキに向けられた笑みで、彼女はそれがいつの話なのかを察した。そっか、と笑った後で、くーっと伸びをする。


「お兄ちゃんって、ホントに背負うの好きだよね」


「これでも大分下りたよ。お前たちのお陰だ」


「それまではずっと背負ってたくせにー」


「お兄ちゃんだからな」


 そう答える彼の言葉に、迷いは一切なかった。それが、彼の一つの強さである事は、皆が知っている。嘘も偽りもない事も知っている。


 だが、それは同時に、弱さたり得るモノである事も知っているからこそ、ナガツキはこう言うのだ。


「でも、お兄ちゃんも頼ってね。私たち、待ってるから」


 同じ生い立ちだからこそわかる事もある。


 ヤヨイは頷いて、口を開いた。


「勿論、そうさせても…」


「戻りやしたー」


「タイミングが悪い、やり直し」


「ハイ?!え、なにこの雰囲気、俺がワルモノみてえじゃん。なんかした?」


「戻ってきましたわ」


「おいハヅキてめえ帰ってくんなつってん…」

 パァンッ!


 シモツキの顔を掠めて、出入り口のすぐそばの壁に小さな凹みができる。カラカラカラと床を転がった弾丸を見て、全員がブワッと冷や汗をかいた。


 犯人は一人しかない。その顔を見ると、一点の曇りもない笑顔が張り付いている。


「お・ね・え・ちゃ・ん」


「は…ハイ。でもそれはやり過ぎじゃありませんかね…?」


「大丈夫だよ、ただの鉛玉だから」

「十分人殺せるんですけど?!」


「え?死なないでしょ?」

「いや死ぬし!もう五センチズレてたら貫かれてますけど!」


「もー、シモツキが悪いんだからね」


「えー…、ホントに俺がなにしたってんだ…」


 ガックリと肩を落としたシモツキをフォローする様にヤヨイが改めて言った。


「ま、まぁ、これからは頼りにしてるから、な?」


「お兄ちゃんに救われたねぇ」


 変わらぬ笑顔でシモツキに言うナガツキにヤヨイはこんな子だったっけ?と困惑しつつも、取り敢えず、間を取り持つことには成功した様だ。

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