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転生騎士  作者: 如月厄人
第二章 邂逅
43/176

19.差

 それを見送り、ドライドとヘベルハスが席に着く。


「おはようございます、中尉」


「あぁ、上がっていいぞ。ご苦労」


「ではお先に」


 淡白なやり取りをヘベルハスはため息混じりに見ていた。


「もう少し…愛嬌とかさぁ…」


「無いな」


  「やっぱりー?」


 デスクに腰掛けながら、ヘベルハスはギシギシと怪しい音を立てる腕関節に、不安は拭えない。


 先ほども言った通り、シモツキの成長速度は早かった。ヘベルハスが普段から棍を使わないのも根底にあるのかもしれないが、それでも彼の成長速度はおかしいと言えた。


 最初こそヘベルハスの動きに惑わされ、ついていけないこともあったが、二時間、三時間と時間を重ねることでヘベルハスと同等の動きをして見せた。後は彼が反復を重ねて身体に染み込ませるだけだ。


 通信が入る。援助要請、二人。人間主義とサイボーグ主義の小競り合いが発生した模様、制圧に長けた者を要請する。顔を上げて見渡すが、ドライドとカンナヅキ以外はまだ来ていない。


 と、そこへ廊下をかける音が聞こえる。


「ひゃー!間に合った!あと1分!出勤!ハヅキちゃん!目覚まして!」


「まーだこんな時間ですのー」


「出勤だよ出勤!お仕事!ほら起きて!」

「あばばばば……」


 スパパパパ…!と高速で往復ビンタをかまされ、頬を真っ赤に膨らませたハヅキとナガツキが大きな声で言った。


「おはようございます!ギリ!セーフです!」


「おう、じゃあ早速行って来い。任務だ。小競り合いの仲裁、殺さないようにな。詳細は送ったから後は頑張れ」


「はえ?早速?えっとー、行ってきます!」


「ひ、ひってきまふわ」


 エレベーターに駆け込み元気に飛び出していった。


 そのタイミングでヤヨイが入ってくる。


「お?今日は遅番だろ?どうしたこんな早く」


「様子見に、シモツキのがどうなったのかなって…思ったんすけど…、あいつやりやがったな」


 ヤヨイはヘベルハスのボディを見て渋い顔をした。ヘベルハスは笑ってそれを制す。


「気にすんな、それだけ、あいつも必死って事だ。競争してるんだろ?カンナヅキと」


「…それはシモツキが?」


「あぁ、あいつが言ってたよ」


 カンナヅキが浮かない顔をする。その顔を見て、ヤヨイはその頭を撫でた。


「うし、じゃあ打ち込みするか。相手してやるぞ」


「はい!お願いします!」


 二人も演習場に向かった。残された二人が同時にため息を吐いた。


「気が抜けねえな、お互いよ」


「お前と同程度にしないでいただきたい。それより、技師の所には行かなくていいのか」


「流石に不味いかもな。これだけボコボコ凹まされるとは思ってもなかった」


 出費がかさむぜ…、と肩をすくめる。ドライドはデスクの液晶を操作し、一つの許可申請を彼に送った。


「あん…?…おめえやっぱ素直じゃねえなぁ…」


「世話を焼くのは俺ではなくロートス伍長の仕事のはずなんだがな。残念な事に、お前の業務を肩代わりできるのは今の所私しかいない」


「へえへえ、そうでござんすね。じゃあ、ちょっくら技師のとこいってくらぁ。仕事は適当に割り振ってくれ」


 んじゃな、と軋む音を響かせながら、ヘベルハスは出て行った。それを見送ってから、視線を仮眠室の扉へ向ける。


 そしてヘベルハスのデスクの書類を自分のデスクに運びながら口を開く。


「もう目を覚ましているんだろう。出てこないのか」

「…ッス」


 仮眠室から出てきたシモツキが出入り口に視線を送る。シモツキもシモツキで、やり過ぎてしまった事への負い目があるのだろう。


 彼らはまだ加減を知らない。兄妹の中で育ってきた彼らにとって、力の基準はその兄妹たちの頑強さに沿っている。そしてそれは、一般的な人間やサイボーグに当てはめる事ができない。むしろ、人間とサイボーグで力加減を全て把握出来ているヤヨイが出来上がりすぎているといえるだろう。


(そういえば曹長は10年いるんだったか)


 10年で曹長止まりというのも皮肉な話である。彼の技能と戦績ならとっくに少尉以上になっていてもいいものを、彼は曹長で止められている。


 見えない圧力か、それとも若過ぎるのか。


 恐らく両方だろうと思いつつも、昇格の話は出ている。後は本人が上がりたいか、上がりたくないか、だ。


 少尉ともなれば、前に出るよりは後ろからの指示出しの方が多い。とはいえ、それは部隊人数が多い場合の構成だ。30人以上の部隊ならありえるだろうが、この部隊ではそういう事もあるまい。昇格しておけば報酬の額も上がる。


「えと、部隊長は…」


「私用だ。お前も遅番だったか、まだ寝ていても構わんぞ」


「いや、もう十分寝たッス」


 何か気まずそうにしながらも、シモツキは話を変える。


「カンナはまだ来てない感じッスか?」


「いや、下でお前の兄と打ち込み中だ」


 そう聞くと、シモツキの表情が変わる。然し演習場に向かう気はないようだ。自分のデスクに座って何かを見始めた。恐らく昨日の特訓の映像でも見直しているのだらう。反復をするのは訓練の基本だ。騎士道だのなんだのと伝統を重んじるヘベルハスなら、真っ先に叩き込みそうなものだ。


 それに比べて自分は昨日の何をしただろうか。カンナヅキに料理をご馳走し、酒を飲み、所有のマークをつけてしまった。


 この差は何だろうか。同じ中尉だというのにまともな事を一つもしていない自分に嘲りの笑みが出る。


(教え方が元々違うとも言えるが…、経験の差は大きく出そうだな)


 この書類を片付けたところで、カンナヅキの様子を見に行こうと決める。恐らくヤヨイなら下手な事は教えていないとは思うが、サンドバッグにはなって頂きたい所だ。

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