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転生騎士  作者: 如月厄人
第二章 邂逅
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18.責任の在り処

 翌朝、カンナヅキは唐突に目を覚ました。勢いよく起き上がり、周囲を見回す。本棚に囲まれ、机と椅子が一つずつ。自分は簡易ベッドに寝ていたようだった。


(そうか、私…寝てしまったのか)


 自分が寝る直前に発した言葉に、また顔が熱くなる。


「何てこと言ってるんだ私は…」


 少し重い頭を抱えながら、彼女は恐らくドライドがいるであろう、昨日のリビングに向かう。


 扉を開くと、テレビの前を埋め尽くすように猫の塊が転がっていた。尋常な数ではない。


「おはよう。目覚めはどうだ」


「あ、おはよう…ございます。えっと…悪くは無いですけど、その、昨日の事は…」


「あぁ、それか。気にするな、ちゃんと戴いた」


「そうですか…、え?」


「どうした」


「戴いたって…、え?」


「お前が良いと言ったんだぞ」


 カンナヅキは顔を真っ赤にしてバッ、と自分の身体を抱き、ベタベタと身体を確認する。


 それから、恐る恐るドライドに尋ねた。


「もしかして…昨日…あの後?」


「あぁ、堪能させてもらった」


 カンナヅキは顔を真っ赤にしたままドライドに詰め寄り、袖をつまんで言った。


「責任…取ってもらいますから、私…私初めてだったんですからね!!」


「………、何か勘違いしているようだが一応言っておこう。お前が想像しているような事はしていないぞ」


「…へ?」


「鏡を見てくるといい」


 ドライドは自分の鎖骨の下を指でつく。不思議そうなカンナヅキがちらちらと振り返りながら、洗面所に立ち、ブラウスを少しめくる。


「ッ!!」


 出来るはずのない赤い点。勿論覚えなどない。やった人物は一人しかいない。


 キスマーク。よもやこんなものをつけられるとは思いもよらなかった。


「それの責任も、取ったほうがいいか」


 洗面所の入り口で寄りかかって見ていたドライドが声をかける。悪戯心に満たされた笑顔が、カンナヅキを弄ぶ。


 カンナヅキは鏡とドライドを交互に見て、小さく頷いた。


「初めてな事に…変わりないですから」


「そうか、なら仕方ない。具体的に、どうすればいい」


「え、それは、その…」


 まるで考えていなかった。


(一生側においてくださいとか?馬鹿か、プロポーズじゃないかそれは。どうしよう…でも、側にいれるならいたいし…)


 ドライドは、まぁ、とくるりと回って、カンナヅキに言った。


「お前はまだ若い。身の振り方はいくらでも変えられる。俺のような情緒不安定な奴よりもまともな奴はいくらでもいるだろう。俺はその繋ぎでも構わんよ」


「別にそういうつもりじゃ…」


 ドライドはそのままリビングに向かう。


「………」


 カンナヅキはもう一度鏡に映る赤い点を見た。


 そんなつもりではない。それは本当だった。男を漁ろうとした訳でもない。ただ、彼を助けたいと思った。独りにしたくないと思った。


 そう、これは言わなければならないこと。


 言わなければ伝わらないこと。


 胸に決める。


 恥ずかしいなんて考えている場合じゃない。


 洗面所を飛び出し、ドライドの下に向かう。


「フォル!」


「なんだ、責任の取らせ方は決まったか」


「決まりました。フォル、あなたは、一人にならない事を、約束してください。私でなくてもいいです、でも、決して一人にならないでください」


 昨日の残りの皿を洗っていた手を止め、ドライドはその手を拭いた。


「お前はいてくれないのか」


「え?」


「あれだけ大口叩いて俺の下に来て、私じゃなくてもいいは無いだろう」


 ドライドは少し身を屈め、カンナヅキの頭の上に顎を乗せる。ずし、とした重みがのしかかる。


「そこまで言うなら、お前が俺を一人にしてくれるな」


 それだけ言って、また皿を洗い始める。固まってしまったカンナヅキは、ふわりと香ったドライドの匂いに、また顔を赤らめた。


「フォルは意地悪です」


「そうだろうな。あいつにも言われた。直す気もないがな」


 椅子に座って、朝食に手をつける。パンとベーコンエッグ、程よい酸味で、パンがよく進む。グラスには牛乳が注がれていたので、少し渋い顔をした。伸ばしていた手が止まり、またパンをかじる。


 皿を洗い終えて向かい側に座ったドライドはその様子を見てカンナヅキに尋ねる。


「牛乳は苦手か」


「えぇ、ちょっと…」


「そうか」


 視線がカンナヅキの顔から下に下がる。視線に気づいたカンナヅキが両手で隠した。


「ど、どこ見てるんですか!」


「いや、道理でと思ってな。其処はどうにもならんのか」


「セクハラ!セクハラです!というか、私たちは心臓が邪魔で成長出来ないんです…」


 しょんぼりと肩を落としたカンナヅキを見て、最初の印象とはまるで違う彼女の様子に、兄弟達に普段の様子を聞いてみたくなった。


 丁度、出勤時間も近づいてきている。カンナヅキが食べ終わった所で、彼はカンナヅキに尋ねた。


「制服はあるか」


「あります。もうそろそろ出勤時間ですか」


「そうだな。着替えたら向かうぞ」


 返事が聞こえた所で、ドライドが先に着替える。自室に戻ると、猫達が一斉に此方を向いた。数を数える。


 2…4…6……、32。8匹がお出かけ中のようだ。猫達はドライドが着替えを始めると、彼に興味を無くしたようで、朝日を浴びながらうとうとしていた。紺色を基調とした団服は少し襟が高い。気分としては学ランを着ている気分だが、私服では気が閉まらない。


 騎士団は制服も用意しているが、私服も許可している。そもそもサイボーグ達が甲冑らしい姿であればいいため、その姿は多様であり、決まった形がない。その為、人間にも多様性を認め、私服を許可している。


 因みに、サイボーグも人の形をする事は許可されており、鎧化するためのアタッチメントも充実している。


 人間であるドライドには関係のない話だが。


 早々に着替えを終えて、ドライドは玄関に向かう。その途中で制服に着替えたカンナヅキが出てくる。


「行こうか」

「はい」


 先程よりは落ち着きを取り戻したカンナヅキと並び、マンションを出る。騎士団街の一画のマンションは、騎士団庁まで徒歩5分圏内の優良物件だ。といっても、彼がここに住めるのは階級のお陰でもある。少佐以上からは家を建てることも許されるようになるのだが、マンションで構わないという人も多い。


 騎士団庁の正面玄関を抜け、エレベーターに向かうと、見慣れた赤マントが居た。ドライドと同じく二人に気づいたヘベルハスが振り向く。


「おはようさん」


「…その凹みはどうした」


「シモツキと特訓しててな。ちょーっと修理に出す必要があるかも知れんと言われてきた所だ」


 振り向いた彼のボディの至る所が凹んでいた。


 それでも快活に笑うヘベルハスに、特訓に付き合うのもやぶさかではない彼の顔が見えた。もっとも、カンナヅキは彼の元の顔を知らないため、楽しそうだという事だけ受け取った。


 それより、とヘベルハスは肘でドライドを突く。


「聞いたぞー?同棲を始めたそうじゃないか。部隊開設から1週間くらいか?手が早いなー、フォルクローレ中尉殿?」


「俺から誘ったわけではない」


「っつっても、いいモンだろ?若い子と二人っつーんは」


「…それは認めよう。悪くはない」


 ヘベルハスが硬直する。そして大きく笑った後、カンナヅキに腕を回す。


「やるじゃないか。フォルを頼むぞ」


「え?は、はい!」


 ポン、と背中を一度叩かれ、やってきたエレベーターに乗り込んだ。


「所で、そのシモツキはどうした」


「仮眠室で爆睡だ。やはり凄いな、ミカグラ兄妹は」


「あぁ」


 カンナヅキが不思議そうに二人を交互に見る。視線に気づいたヘベルハスがそれに答えてやる。


「お前達の技能の習得の早さが凄いと言ってるんだ。普通は、教わって、吸収して、実際に使えるようになるまで最低でも半年以上必要になる。理由としちゃぁ、そもそもの体作りから始める事になるからだ。勿論自分の技量や体格に合わせた技術、技能の習得を目指すのは当然の事だが、それでも完成度を高めるにはそれなりの身体がいる。鎧で強化されるのは面の厚さだけだ。後は本人の意志じゃなきゃ動かん」


 エレベーターを降りながら話を続ける。


「だがお前達はそもそもの身体作りが必要ない。そして向かうべき方向も決まっている。鎧をつける必要もないから自分の身体が動かせればいい。それに加え、お前達の身体は特別だ。頭でわかっていれば、心臓がそれを取り込んで、身体に反映させる。だから早い、ヤヨイの出世の早さも頷ける」


「そういえば、そろそろ昇格か」


「あぁ、あの一件での報酬と昇格はまだ出てないだろう。俺たちは減俸の予定だが」


 だろうなとドライドが頷いて、執務室の扉を開くと、ミナヅキがデスクでスヤスヤと寝息を立てていた。仮眠室からはドアを突き抜けていびきが聞こえる。


 カンナヅキが忘れていた、とばかりに仮眠室に飛び込み、何かをすると、いびきが聞こえなくなった。


 戻ってきたカンナヅキがロートスに向かって頭を下げた。


「弟が申し訳ありません。鼻さえ潰しておけば静かになりますので」


「気にするな、徹夜は慣れている。それよりミナヅキを部屋に運んでやってくれないか?あいつのせいで上手く仮眠のローテーションが回らなくてさ」


 カンナヅキが頷いて、ミナヅキを軽々と抱え上げる。それでも目を覚まさないミナヅキに、本当に眠かったのだなと思いながら、カンナヅキは再び仮眠室に入った。

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