12.闇に堕ちる
荷台の上から飛び起き、身体の各所を確認する。
頭は潰れてない。足は両方ついている。腕にワイヤーも巻きついていない。
身体の各所が熱を出し、視界にアラートが出る。冷却機を解放し、蒸気を吐き出した。
「どうしたのグリーン、随分と辛そうじゃない」
「…ブルー、フォルクローレ・ドライドを覚えてるか」
ブルーと呼ばれた細身のアンドロイドは同じ荷台の上で不思議そうに首を傾げ、頭を少し上に傾ける。
「あー、騎士ね」
データが見当たったのか、ぽん、と手を叩く。
「その騎士がどうしたの?」
「いた、いたんだ。化け物になって、俺を殺しに来た」
「なにそれ、幻覚?」
「幻覚じゃねえ!本当だ!あいつは俺を殺しに来る。殺される…殺される…!」
「ちょっと落ち着きなさいよ」
ブルーは頭を抱えてうずくまるグリーンにブルーはため息をついた。
「ミカグラユニットがあるでしょ?私たち最早別人なんだから、大丈夫よ」
「大丈夫じゃない!大丈夫じゃなかった!」
ブルーはもう一度ため息をつき、その背中をさすってやる。
「あんたホントに分体無いと弱いわよね〜。まぁいいけど、それよりイエローとレッドの調子はどうなってるの?」
「うぅうるさい! イエローとレッドは、み…見てみる」
グリーンがうずくまったまま少し動きを止める。
「…大丈夫、定位置についた。始めるか?」
「いいえ、戻ってブラックの指示を聞きましょう」
「わ…わかった」
ビクビクとし続けるグリーンにまたため息をつきながら、ブルーは廃墟の町を眺める。この光景を作った時を思い出して身体が熱くなる。
破壊する快感、叫び声を聞く悦楽。
グリーンが怯えるフォルクローレ・ドライドや、クライス・ヘベルハスと対峙したあの戦い。サイボーグ達を引き連れ、この第二区画を丸ごと廃墟にした戦役。あの身体が炎に包まれる光景は、今でも忘れられない。
ブルーは、転生前は女性寄りの両性具有者だった。しかし、どちらの機能も不完全であったため、彼女は性について絶望と、ある種の諦め、歪んだ嗜好が身体に染み付いた。
傷を負うことで快楽を得、更に他者を傷つけることで悦びを覚えた。そうして覚えたモノは最早彼女を人間の枠からおいやった。
それからの彼女の世界は、楽しくて仕方なかった。いくら傷つけられても死ぬことの無い身体に、思う存分人を傷つけられる力を手に入れた。
そんな時、彼女はブラックから声をかけられた。
彼の思考はその時のブルーからしても、面白かった。
『お前!俺よりも目立ってるな!許さん!お前は俺の下につけ!そして俺をもっと目立たせろ!』
犯罪者として名を上げつつあったブルーからすれば、いい隠れ蓑でもあったが、その言葉だけではどう考えても頭が悪すぎる。断ろうとも思ったのだが、彼女は既に、囲まれていた。
ブラックとブルーを中心に、いつの間にか、輪が出来ていた。それは先ほどまで本を読んでいたり、何かしら別の作業をしていたはずの者達だった。この状態で、彼はもう一度ブルーに尋ねる。
それは、彼が彼女に二択を迫っていることと同義であり、その二択に絞られるまで彼女に気づかせなかったその計画の精巧さを示していた。
更に、もう一つ、選択肢を絞られる。
ごり、と眉間に指を突きつけられる。キュイーン…、と音を響かせながら、眉間に熱が集中する。
『拒否権はない。このまま脳殻を融かされて死ぬか、俺の下につくか。まだ死にたくないだろう?なら一つしかないな』
ブルーは頷いた。