8.カンナヅキ&フォルクローレペア(2)
二人で顔を見合わせた後、扉を閉めてから心臓の状態を調べる。活動自体は停止しているものの、この心臓の馬力は計り知れない。
『そういえば、お前は腕を火薬で吹き飛ばしても平気なタチか?』
『なんですか突然。私達は恐らく…大丈夫…だと思います。そもそも使っている金属が違うので』
『成長する金属か』
『ご存知でしたか』
『あぁ、ちょっとな』
前回の一件で、彼とヘベルハスは総帥からミカグラユニットについて騎士団が知り得る限りの情報を貰っていた。
彼らの体に使われているのが『成長する金属』だということ、それが成長するには人の何十倍ものエネルギーを使う事、そしてそのユニットは、『進化する』という事。
ヘベルハスは大いに驚いていたが、ドライドはやはり冷静だった。彼としては、それは当然だと思ったからだ。
ミカグラ兄妹は半身半機のサイボーグではあるが、彼らもまた、歴とした人間だということを、彼は一つ、学んでいる。
人間であるならば、日々進化することもまた、当然の事だ。
閑話休題。
『もしかすると、中の奴らは全員この改造を受けているのかもしれない』
『それはまずいのでは?表の二人が危険です』
『それはないな。リウノ一等がヘマをやらかさなければ、この程度は恐らく曹長一人で事足りる』
『それは買い被り過ぎでは?』
『自分の兄なのに贔屓はしないんだな』
カンナヅキは無言のまま、表の方に顔を向ける。
それを見て、ドライドはため息を吐いてやれやれと首を振る。
『逆か、贔屓し過ぎて心配なんだな』
『なっ!』
『安心しろ、付け焼き刃のこいつらとは完全に別物だ。黒騎士はな、ヒトの域から完全に抜け出している』
ドライドは扉を開けて中に戻る。
『黒騎士とは…?』
後に続いたカンナヅキが問いかける。ドライドは聴音機を当てて通路の状況を視覚化しながら、さらに進んでいく。裏口が有った部屋出て右に曲がり、直進。ドライドの右手のグローブがバチバチと音を立てる。
『騎士団で付いているあいつのあだ名だ。気に入っているかは知らんがな』
ズンズン進むドライドが一言で指示する。
『構えろ、カバー』
その先に有った階段を丁度二体のサイボーグが駆け下りてくる。踊り場でドライド達に驚き足を止める。その一瞬を狙ってワイヤーが手前の一体を掴み引き寄せる。
ゴガッ!!
ドライドの拳で階段に叩きつけられる。同時に電流が流され、的確に脳殻をショートさせる。その鮮やかな手際にもう一体は唖然とし、カンナヅキも一瞬判断が遅れる。
『遅い』
回し蹴りが空を切る。
「グッ!」
サイボーグの首元に靴先に仕込んでいたナイフが突き刺さっていた。
ドライドは指を折る。
轟ッ!
『む…、やはり火薬が多かったか』
上半身を失った下半身がバチバチと漏電しながら、その息を止める。飛んできた破片を顔に飛んできた分だけ払いながら、腰に取り付けてあるポーチからナイフを靴に装填する。
カンナヅキは完全に棒立ちだった。先ほど自分の力を見た時よりも、驚きを隠せなかった。
五秒と掛からずに二体を仕留め平然としている。そして今更ながらに気がつく。
『副隊長、鎧は?』
『隠密部隊にそんな物は無い』
サラッと言うが、普通ならそれでサイボーグを軽々とひきよせられる訳が無いのだ。
隠密部隊のヤヨイと同じコートが翻る。もはや隠れる気がない彼は前面のジッパーを完全に下げ、中のぴっちりタンクトップが見えている。首に下げられたドッグタグが光を反射して鈍い光を放っている。
一応、言っておくが、この格好で普通は突撃などしない。
ドライドと自分の装備を交互に見て、カンナヅキはドライドの前に走り立つ。
『わ、私が前に立ちます!それでは副隊長が即死です!』
『死んでたらここにはおらん。私は3年前からこの格好だ。後、前に出たいならその鈍重な思考をなんとかしろ』
『どん…!』
『私は構えてカバーしろと言ったはずだが、何をそこで突っ立っている。これが鈍重でなくて何だと言うのだ。お前のせいで私が死ぬところだったぞ』
『そ、それは…!』
『曹長の役に立ちたいのは分かるが、それでは曹長が安心出来ないぞ。奪える技術は今のうちに全て奪ってモノにしろ』
カンナヅキの脇をすり抜けて階段を登る。
『…言われなくとも…言われなくとも奪ってみせる。あなたの技術を全て奪って、成長して見せる!』
ドライドは振り向かずに更に歩を進める。
『何をボケっとしている。早く来い』
カンナヅキはムッとしながらも、階段を駆け上がった。