2.初任務
「ッ!!!」
ガタタ!!
「はい、任務でーす」
逆さにぶら下がった状態のシャーロイドが一枚の紙を椅子から転げ落ちたロートスに渡した。
「あ、あんたどっから…!」
「ダクト」
「ダクト好きだな!!」
ふわりと着地し、ワイヤーを回収するシャーロイド。今日は金髪の美女の姿をしている。
「シャーロットさんは任務の帰りですか?」
「うん、潜入してきた。そこの強襲、確保、または殲滅。サイボーグ側が不穏な動きしてたんだけど、武器の密輸と、市街地へのテロの計画を見つけたから、強襲」
「やってる事は隠密と変わらねえな」
「あ、ヤヨイくんお疲れ様」
「お疲れ様ですシャーロットさん」
「あれ、伸びちゃった?」
「疲れたみたいです。メンバーの指定は?」
「特にないよー。ただ隊長から、カタルちゃんと他二人新兵連れてけって言われてるかな」
ヤヨイは他の兄妹を見回し、うーん、と首を傾げた。
疲労度で言えば、先程からシモツキと言い争いをしているカンナヅキと、壁際でお菓子を貪り続けているフミヅキだろう。体力的には余っているはず。しかしカンナヅキはともかくとして、フミヅキはやる気があるのかどうか…。
因みにハヅキは、お嬢様なようでいて結構なバカなので士官勉強をヘベルハスに見てもらっている。
フミヅキを見ていると、視線に気づいたフミヅキが、お菓子をポケットにしまい、立ち上がって埃を叩くと、ヤヨイの下に歩いてくる。
「お仕事、やる」
「…意外だな」
「その代わり、お兄ちゃんも一緒」
「わかったよ、監督役で俺も行く」
「カンナ、暇なら」
「無論、行かせてもらう」
「あ!てめえ!俺を差し置いて任務とかざっけんなコルァ!」
カンナヅキは未だに壁にもたれかかるシモツキの脇を揉む。
「お前はもう十分動いたろう?」
「ちょ、まっ、まだ痺れ…!くすぐったっひゃっひゃっ…!」
「少しは私にも体を動かさせろ。それから、少し休んでおけ」
パッと手を離し、ポニーテールを揺らして立ち上がった。それを見て、リウノは微笑みながら呟いた。
「いやぁ、なんていうか、かっこいいですよねぇ、カンナちゃん。女の子なのたまに忘れそうです」
「男も女も関係無いのでは?戦場に出れば同じ兵士でしょう」
「でもお前は俺の大事な妹だ。怪我はさせないようにするから、ちゃんとついてこいよ」
「あ、頭を撫でるな、バカ」
(あんなにキリッとしていたカンナちゃんが一瞬で乙女の顔に…!)
(ヤヨイくん、恐ろしい子…!)
じゃあ行こうか、とヤヨイが先にロッカーに向かう。シャーロイドは先に端末にメンバーを打ち込み、それぞれの兜に情報を開示する。それからフミヅキ、カンナヅキ、リウノを連れ立ってロッカーに向かった。
演習場の隅にあるエレベーターにそれぞれ乗り込み、騎士章をかざす。ヤヨイがロッカーに辿り着くと、先にドライドが着替えを終え、ベンチで暇そうにしていた。
「隊長も来るんすね」
「副隊長だ。相手がサイボーグだからな、行かざるを得ない」
相変わらずの行動原理に苦笑いしながら、ロッカーを開く。模擬戦のため、既に着ていたタンクトップの上にいつもの光を吸収するコートと漆黒の兜を被り、ドライドの隣に腰掛ける。
視界の端には、ドライドの欄に準備OKの文字が映る。ヤヨイも視線でそれを操作し、準備OKの文字を映す。他の四人はまだかかりそうだ。
「実戦、できそうか」
「やってみるまでわかりません。取り敢えず、あの子達は俺を含めて武器を持ってます。たい…副隊長は前回サツキとやった時を覚えてますよね」
「あぁ、あいつは斧だったな」
「そうです。俺は拳、フミヅキは鞭でカンナヅキはトンファー。戦術に組み込みにくいかもしれないですけど、あの子達の能力はそれを補えると思います」
「戦術は気にするな、今回はノープランだ。確保はしない。力の加減を覚えてもらう」
つまり、敵方サイボーグの生死は問わない、ということだ。
確かに、ヤヨイ以外と手合わせをしていない兄妹達には、一般サイボーグに対する加減は出来ないだろう。もしかすると、最初から殲滅できそうな組織に目をつけていたのかもしれない。