16.故に
それを軽々と片手で回すと、柄を地面に突き刺した。
「お前が実行犯か、人質は何処にいる」
「さぁ?あんたらが俺に勝てたら教えてやるよ」
「言うじゃねえか、年季の違いを教えてやるぜ」
ギャギャギャッ!
ホイールが吼える。
空を割く槍が一直線にピエロの中心を捉える。
だが、それはピエロに届く前にその手に阻まれる。
「だぁらぁっ!」
「うぉぉぅ!」
槍を掴まれ、後方に投げ飛ばされる。500キロはあるヘベルハスの体がいとも簡単に宙を舞う。
(なんつー馬鹿力だ!片手でやりやがった!)
しかし挟み撃ちの状態になれたのは好都合だった。ドライドもナイフを構えて臨戦態勢に入る。
「シッ!」
もう一度ヘベルハスがアクセルを掛ける。同じように槍を掴もうとした腕が、ドライドのワイヤーによって阻まれる。
「チッ!」
もう片方の手が斧を掴む。槍を弾き、ワイヤーを断ち切った。それを見計らってドライドが指を折る。
カチ、という音と同時にワイヤーよ先端についていた重しが爆発する。地面を抉るだけの火薬を詰めた爆弾によって、砂埃が舞う。ヘベルハスは盾を前に構え、ドライドは粘土質のプラスチック爆弾に信管を通し、スイッチを登録する。
斧が砂埃を吹き飛ばす。
「火薬が足りなかったか。腕一本は吹き飛ばすつもりだったんだがな」
「いってえなマジで、天下の騎士様はやる事が違うぜ。だがよ、そろそろ時間みてえだから終わりにするわ」
時間が飛んだ。
錯覚だとわかっていてもその速さに目が追いつかない。辛うじて見えたのは斧を上段に構えたままドライドに迫る姿だった。反射的に横に跳ぶ。
脊髄が反応したその一瞬、遅ければ脳天を割られていた。
だがそれで終わりではない。ドライドは瞬時に判断、壁に粘土を投げつける。それを追うように地面にめり込んでいた斧が振り上げられる。
しかし、別方向からの攻撃により、斧の軌道が逸れる。ヘベルハスが投げた槍が斧の腹を射たのだ。続けてヘベルハスのドロップキックが炸裂する。片腕で防がれたものの、壁際に追いやることには成功する。
「フォル!」
ドライドが指を折る。壁に張り付いた爆弾が起動する。背後からの爆撃、ピエロが仰け反って吹き飛ぶ。
「なっ!」
(逆に利用された…!)
爆発をものともせず、加速したピエロは斧を大きく横に薙ぎ払う。ヘベルハスが咄嗟に前に出て盾を構えるが、それもろとも抉り飛ばされる。
「ふっ…!くっ!」
それをドライドが受け止めて地面を滑る。
「クソ、なんて馬力だ…!」
半分に割れた盾を投げ捨てて、転がっていた槍を拾い上げる。ぶらんと垂れ下がった腕部にも裂け目が出来ており、バチバチと電流が漏れている。
「しぶてえなぁ、あんまり使う気無かったんだけど、まぁごほーびって事で」
ボロ布のようなローブを投げ捨てる。上裸だったピエロの体は、何処か見覚えのある作りをしていた。肩まで伸びる金属腕部と、その心臓。
「ミカグラと同じ…!」
「そうだよ、俺らミカグラシリーズは全員このカッコだ。あいつは三番目、俺は五番目の…」
腰を落とし、上体を捻るような体勢で斧を構える。
「勇斧の装甲」
心臓が開く。青い光の粒子が放出され、腕、足、そして斧に収束していく。
肘、膝まで伸びた鎧型の装甲、更に一回り大きくなった斧の刃は呼吸をする様に青い光が明滅する。
「死ね」
斧を振るう。
青い奔流が、斬撃となり、二人に襲いかかる。
ヘベルハスは槍を投げ捨て、手のひらに仕込んでいたビームシールドを展開する。半透明な赤色をしたシールドは人一人分の大きさに広がった。その背後のドライドは、小型大容量バッテリーのコードをヘベルハスに突き刺す。
赤と青の衝突。
ギリギリと均衡を保つそれにピエロは追い討ちを掛ける。
「ほら、頑張れよ」
迸る、青。
「持たない…!フォル!避けろ、もう支えなくていい!」
「良い判断だ、だが…!」
支える力が更に強くなる。
「俺は人間だ…!人間として!ここを譲るわけにはいかないッ!」
僅か、ほんの僅かだが、シールドが奔流を押し返し始める。
それをつまらなそうに、ピエロは斧を振った。
ズァッ!と先程とは比べ物にならない青が、二人を飲み込んだ。
『ォォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
雄叫びを最後に、二人の視界は青い光に包まれた。