12.急襲
「皆さんが知ってそうな方々をチョイスしてみたんですけど、名前知ってるかな?この人誰でしょう?」
左端、自分の上司だ。結構な数の手が上がる。隣二人も上げた。
(マジかっ…!)
視線に気づいた二人がミカグラに向かって言った。
「え、知らんの?」
「いや、知ってるけど」
「じゃあ手あげれば?面白いから起きてるんだろ?」
「お、おう…」
おずおずと手をあげると、リウノは嬉しそうに言った。
「結構知ってる人がいて嬉しいですね。じゃあ今あげた人」
(ピンポイント!)
ミカグラがさされる。隣がクスクスと笑う声を聞きながら、口を開いた。
「フォルクローレ・ドライド」
「はい、よく出来ました。フォルクローレ・ドライド中尉ですね」
にこ、と清々しい笑顔で拍手されると、もう恥ずかしいやらちょっぴり嬉しいやらで複雑な顔になる。
「にやけてんぞー?」
「っるせえ!」
表情筋は素直だった。
「じゃあ次、一番知ってる人多いんじゃないかな?」
十字目線の兜に、少し見えている赤い布地。最早一人しかおるまい。教室内のほとんどの人間が手をあげる。
「おー、凄い。じゃあ君、誰でしょう?」
「クライス・ヘベルハス中尉!大ファンです!」
女の子が元気な声で答える。
「お!じゃあ本人に伝えておきますね、可愛いファンがいましたよーって」
「え?!いいんですか?!」
「モチロン!今の私の上司ですからね」
「ホント?!やった!!」
一気に教室が騒がしくなる。今の女の子のもそうだが、リウノがヘベルハスの部下というのを聞いて、話半分に聞いていた人が目を覚ます。
「それと、この二人、同期なんですよね」
顔写真が線で結ばれ、同期の文字が浮かぶ。
(マジかー)
階級が一緒なのは知っていたが、同期だとは思わなかった。仲悪そうだなと思いつつ、彼の耳が空を割く音を聞きつける。
「ッ!」
リウノが壇の前に戻るのと同時に、教室の天井が破砕された。
そのまま降りてきたのは、灰色のローブで姿を隠し、ピエロの仮面で顔を隠した、サイボーグだった。手に持った巨大な斧の刃が、呼吸するように明滅する。
頭上から落ちてきた瓦礫から身を守るために頭を守っていたリウノが、その姿を見て硬直した。
リウノだけではない、教室にいた全員が、それを見て固まっていた。
ピエロが斧を振り上げる。
その背後ーー。
「フッ!!」
「シッ!!」
ゴッッ!!
振り上げた斧を後ろに振り向きながら横に薙ぐ。それを掻い潜ってピエロの身体を壁に叩きつける。そのまま壁に押さえつけ、声を荒げた。
「リウノ一等!誘導しろ!!」
「っ!はいっ!皆さん出口に向かって走って!ニキータ!手伝って!…ニキータ…?!」
アダマンタイトの姿は何処にもなく、生徒達が悲鳴を上げながら一目散に出口に走っていく。
(何処に行ったのニキータ!)
自分も出口に向かいながら生徒達の誘導をする。胸ポケットに入れてあった騎士章を使って救援要請を送る。声を張り上げ、列を形成させる。
「貴方はこっちよ、カタル」
「ニキータ!何処に…あぐっ!」
鳩尾に一撃。拳のめり込む音がスローで聞こえる。
「おやすみ、カタル」
寒気が走る程の優しい声音を最後に、リウノの意識は闇の底に落ちた。
「こっちは任務完了よサツキ。少し遊んでから戻りなさい、貴方のお兄さんとね」
「OKニキータ、さて、一緒に遊ぼうぜ兄貴!」
「サツキ…?!お前まさか…!」
力任せの斧の薙ぎ払いで距離を置かされる。ピエロはくつくつと笑いながら、身の丈はあるだろう斧を片手で軽々と回しながら、腰を落として構える。
響き渡った声は、選手入場の様な、ハイテンションな声だった。
「ロォォォオオオオットナンバァァァァアアアアアアアアスリィィイイイイイイイイイ!!!我らがお兄ちゃん!進化の過程を軽々とすっ飛ばして俺たちが求めた最終進化系に唯一辿り着いた逸材ッッッ!!!!そしてぇ…」
殺気。
「剣兄と槍姉をブッ殺した裏切り者」
轟ッッッ!
「シッ!!」
「クッ!どういう事だよ!訳わかんねえよ!」
振り下ろされた斧を飛び退いてかわし、ピエロに言葉を投げる。
「わかんねえ?そりゃわっかんねえだろうなぁ!?器用に記憶だけすっ飛ばしやがってよぉ!!」
踏み込んで大振りな横薙ぎ、風圧を受け、一瞬目を細める。
「らぁっ!」
身体を捻りながら更に兜割り。半身でかわす。
「すっ飛ばしてんのはてめえだろうがッ!」
ダンッ!ゴギャッ!
更に振り回される斧を掻い潜って懐に飛び込み、タックルをかます。ピエロの体が悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。
「ぐ…、やっぱ兄貴は兄貴か…、完成形はちげえな」
転がりながらも受け身をとり、仮面の下から血が溢れる。それを見て、ミカグラは躊躇してしまった。
「違う…違うんだ…お前だって…未完成な訳じゃ…」
「黙れっ!次は殺す、絶対だ」
斧が背中に吸い込まれいるように形を変え、その姿を消す。そのまま天井に空けた穴から、ピエロは何処からか取り出した簡易ブースターを足につけ、飛び去っていった。
ミカグラはその場に膝を折った。
「なんで…なんでお前ら…」
拳が地面にめり込む。
「くそぉ!」