10.若さ
因みに、ドライドとヘベルハスは同期で彼が武勇伝として語る大きな戦役にはドライドも一役買っていたりする。ドライドはヘベルハスが動きやすい様に場を整えたり、ヘベルハスが体を張って目立っている間に、裏工作をする。
その後で、余計な事をするなと喧嘩になったもので、今では犬猿の仲と言えるほど、目を合わせれば殴り合いの喧嘩が始まる。
「しかしまぁ…隠密班が設立されて以来の逸材ではあるよな」
「そこは認めるのか」
「認めざるを得ねえって話だ」
コラードは騎士章を起動させる。騎士章も只の板切れではない。超薄型タブレットとしての機能も備え、騎士団街や騎士団庁にいればネットもデータベースも自由に参照できる。普段は出会い系サイトにしか繋げないルッツァスキが珍しくデータベースを見ていた。
「昨日の作戦もそうだ。立案自体はマイク、おめえのだが、主要箇所へのカメラの設置、爆弾のマーキング、敵性人数の把握、部屋の割り出し、爆弾が敷かれていない通路の穴まで全部見つけてきやがる。悔しいことに変わりはねえ、だが、認めねえ事には、負け犬から抜けられねえ」
そうだろ?とドライドに向かって言葉を投げる。
ドライドも背もたれに腰掛けそうだな、と頷いた。
ドライドがこの二人を気に入っているのには理由がある。
グレゴリーはその巨体に似合わぬ作戦立案能力、決して上から言わず、対等を求める姿勢、温厚さを併せ持つ。ドライドにも遠慮をしないし、階級が上だろうが下だろうが、自分の意見をしっかり述べ、論理立てて話すことができる理知的な男だ。
ルッツァスキは普段口も態度も悪いが、自分が負ける事は一番嫌っているし、根は素直だ。明確でなくても、漠然としたアドバイスでも自己解釈をして、正しい方向に受け止めることができる。決して卑屈にならず、自分を高める事に積極的である。
正反対に見えるこの二人が、彼はお気に入りなのだ。そして、頼りにしている。
「だが今回も中々に荒技だな。もう一人が此方を見ていたら危なかった」
グレゴリーは兜に録画された今回の任務記録を見返しながらアゴをさすった。サイボーグになる前からの癖だという。
「確かにな。お前ならどうする、マイク」
「そうだな…、俺ならツーマンセルを組む。状況からして最初に打ち倒すべきは二人。ベランダと玄関に分かれて、挟撃する。まず玄関から囮を掛け、ベランダに侵入、それから窓の隅に穴を開け、催涙ガスを仕込んだマウスロボットを入れる」
限りなく状況を類似させたホログラムを机上に浮かばせ、丸と逆三角形で象られた人型がグレゴリーの言葉を反映させる。更に合わせてマウスロボットが部屋に入っていく。
「そのままガスを噴出し始めた所で、突入。兜を被れば催涙ガスは防げる為、自由に行動することができるだろう。其処で吸音機を各所に貼り付け制圧。その後部屋に突入し有無を言わさず確保する。鎧を装備しているなら生身の人間にスピードで負けることもないだろうからな」
「確かに、このお喋りは余計だな」
ルッツァスキがログを見ながら頷いた。
「まだまだ若いということだ、大目に見てやれ。事実、あいつはまだ学生だ」
「そうだったな。流石に一回り違うとギャップを感じてしまいそうではあるが、彼はどう考えているんだろうな」
「んなもん本人に直接聞きゃ良いだろうが。ジジイ共の勝手な想像よか現実的だ」
「ジジイってお前…俺はまだ40手前だ!」
「十分ジジイだろうが!諦めろフォル」
「イィィイイヤッ!40の壁はデカイ!デカイんだよ!わかるか!」
「俺らはもう四十路だよターコ」
「なら寧ろわかるだろ!」
「若い頃なんて忘れたっつの」
「クソジジィイイイイイイイ!!」
机を蹴り飛ばして肩で息をするドライド。
「きろくー」
「3m22cm」
「鎧の機能を無駄遣いするな!」
「そういうなって」
冗談を交わしながら時間を進めていく。夜はまだ長い。戦況ログに動きもない。第一、第二騎士団は相手方と均衡を保っているようで、中々進展がない。
詳細ログを見直してみると、ハッキング対策をした上から更に塗り替えられたり、それを塗り替えしたりしているようで、実働時間自体はそれほど多くないようだ。
しかし、これ以上長引くのも芳しくはない。第五騎士団まである今の騎士団にとって、二つの団が使えないというのは治安維持にかかる人手の不足に繋がる。今サイボーグ至上主義側から仕掛けられたらたまったものではないだろう。
正直、そうある事ではない。寧ろ最近が多いのだ。
出動命令が増えてきたことに、グレゴリーは一抹の不安を覚えながら、それを掻き消すように二人との会話に興じた。