フォルネウスホテル
『で、ボクにいったい何を調べろって言うのさ?』
次の日の早朝。絵里子が電話をかけた相手は瞬だった。瞬は自分一人だけが旅行に置いていかれたと思い込んでいて、事のほかご機嫌斜めになっている。
「アンタまだ怒ってるの?いい加減に機嫌治したらどう?」
『だって、ボク一人置いていくなんてさ。』
「女の子だけの旅行に連れていけるワケ無いでしょ!いつまでもグジグジ言ってると、ホントに女の子になっちゃうよ!」
『ちぇ!』
「でさ、シュン。アンタに調べて欲しいのは、海猫ヶ浜の大権様って言う宗教のことなのさ。」
『大権様?』
「そう。なんでもいいから、とにかく大権様のこと調べてみて。」
『調べろって言ったって・・どうやって調べるの?』
「こっちに使えるパソコンが無いからね。そっちだとインターネット使えるでしょ?それから美鷹市に大きな図書館あったでしょ?」
『瀬良江の図書館のこと?』
「そうそう!あそこだと古い新聞とかも全部揃っているからね。ちょっと遠い場所だけど、あそこまで行って調べてみてよ。」
『え〜!!?面倒くさいよ〜!!』
「うるさい!黙ってリコ様の言うこと聞きなさい!!」
『ちぇ・・・判ったよ〜・・・。』
瞬との電話が終わった後、叔母から大権様についての情報を聞いていた七海が絵里子の傍にやってきた。七海はあまりたいした情報を得ることが出来なかったようで、少し眉毛をへの字にしながら複雑な表情をしている。
「ナミ。その様子だと、あんまり大した事は教えてもらえなかったみたいだね。」
「叔母さんたら、『あんまり憶えてないね〜』なんて言って。もう〜。」
七海たちが海猫ヶ浜で得られる情報は少ない。町中を探せば多くを知っている人はいるのかも知れないが、さすがにそこまで探偵の真似をすることは出来ないし、そもそもこの小さな町では、古い記録が閲覧できるような場所は無い。輝蘭は七海たちの話を聞いた後に、結局興味を示さずに詩織たちと出かけてしまい当てにはならず、七海は絵里子と二人きりで少ない情報を集める作業をしてはみたものの、あっという間に行き詰まってしまっていた。
しかし、そんな中でも得られた情報はある。
叔母の話によると、大権様を祀る団体が警察により解散させられた原因は、彼らが違法な向精神薬を使用することにより、強引な勧誘活動を行なっていたことにあったということだった。
この教団の名前は表向きには『大権教』と一般的には呼ばれていたが、真の名前は別にあると噂されている。そして大権教では信者獲得のために一部の信徒が暴走し、薬物を使って町民を拉致したことがあったのだという。
ただその後に警察の捜査が重ねられたにも関わらず、肝心の薬物の入手先が判明していないため、教団は解散させられたものの、首謀者とされた教祖の裁判は未だに結審していないらしい。
「へえ〜。そんな大きな事件だったら、詳しく憶えているんじゃないの?」
「でもね、叔母さんったら『後は忘れちゃったよ』って言って、全然教えてくれないの。」
「ふ〜ん。まあそれだけのことがあったんなら、多分記録は残っているね。後はシュンの情報収集に期待するか。」
そして二人は輝蘭たちの後を追いかけるため、詩織が行きたがっていたフォルネウスホテルへと向かった。