記憶の果ての友人へ
そして数日後。七海たち六人の姿は、海猫ヶ浜の海を臨むお寺の墓地にあった。ここには忘れられた函南家のお墓がまだ残されていて、大権教の館から見つかった若き晴樹の遺体が荼毘に臥され、ここに埋葬されたのである。
あの日彼女たちはフォルネウスホテルに赴き、確かにこの世のものとは思えない奇異な体験をしたはずだったが、意識を失い気が付いた時には、なぜかそれぞれが自宅のベッドに眠った状態で発見されていて、多少不自然なところはあるものの、家族に大きく疑われることは全く無かったのである。
全身にあった無数のキズもすっかり消え去っていて、今はその跡すら無い。
なんとなく誰かに優しく抱かれたような感触は残っていたが、それが何なのかを想像することも出来ず、小さな謎を残したままでの落着となっていたのだった。
フォルネウスホテルはあの日に台風による土砂崩れに遭い、今はその跡形も残ってはいない。晴樹に関しては、結局失踪扱いのまま小規模に捜査は継続されるということを聞いていたが、事の真相を話しても信じてもらえないことは判っていたので、それは彼女たちの胸にしまい込んだままにしておこうという話でまとめていた。
晴樹へのお墓参りが済んだ後に、電車に乗るまでの合間の時間、七海たちはワイワイとおしゃべりをしながら海岸線を散策していたが、その途中で突然輝蘭が奇妙な事を言い出した。
輝蘭は最初言い出し難そうで、その想いもどう伝えていいか判らないといった様相だったが、それでも晴れない想いがどうしても気になるらしく、彼女にしては珍しく滑舌の悪い発言だった。
「あの・・・。私、今回の事件ですごく奇妙な事を感じていたんですけど・・・。」
するとそれを聞いた絵里子が、いつものように輝蘭に突っ込みを入れた。
「奇妙な事?今回は奇妙な事だらけだったじゃん。」
「いえ・・あの、そういう事じゃ無くて・・・。」
そして輝蘭は順に七海、絵里子、瞬、詩織、真夢の顔を見回すと、何か納得出来ない表情を浮かべながら、こんなことを言い出したのである。
「私たちって、これで全員でしたか?確かもう一人、誰かいませんでした?」
「え?キララも?」
すると今度は、七海が意外な表情で輝蘭に応えた。
「あたしも!昔の事を思い出すと、なんだかもう一人いたような、変な気分になっちゃうんだ。」
「え〜!?ボクもそうだよ!」
「なんだ・・・。リコだけじゃ無かったのか。」
「あたしもそうなのだ!」
「マムも・・・同じです・・・。」
六人はそれぞれ思い悩む表情を見せたが、それで事が明らかになるはずも無い。そのことに最初に気付いた七海がくるりとみんなに背を向けると一歩下がり、そしていたずらっ子のような笑顔で振り向くと、再びみんなの顔を見回した。
その笑顔はとても晴れやかで、みんなの中にある小さな胸のつっかえが消えていくような不思議な錯覚を起こさせる・・・。
「それって多分大事な人だと思うけど、心配無いよ☆
その人はきっと、またあたしたちの所に現れてくれるさ♪」
元気良く砂浜を駆け出す七海と、それを追いかける心を通じた無二の仲間たち。
晴れ渡る空の彼方に二羽のウミネコが舞い、彼女たちの再会を祈るように力強く翼を翻した。
穏やかな波が打ち寄せる海猫ヶ浜で起きた、不思議な不思議な怪事件。
それが彼女たちに残した、あるいは記憶すら超えた大事な人への想い。
今、新たな碑文に選ばれた七海の砂時計は時を刻み始め、【切り出された星の銘板】を持つ者たちの運命に新たな紐が紡がれた。
本来人に仇成す邪神が秘める混沌の未来像に、人は滅びを覚悟して突き進むのかも知れない。
でも今は・・・・・・記憶の果てにいる君へ。
最上級の感謝を込めて☆
読んでいただき、ありがとうございました♪
次話の短編『夜の鍵』と、長編『神酒が帰ってきた日』は、今日か明日より連載開始予定です。
ご興味のある方は、引き続きよろしくお願いします。




