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悪魔の追撃


 唖然とした表情で見つめる絵里子に、七海は何事も無かったように歩み寄り、ニッコリと微笑んでみせた。その笑顔には狂気の片鱗も残っておらず、絵里子の良く知る彼女そのままの七海がそこにいる。

 七海の表情はこの上も無く嬉しそうで、彼女は絵里子の手を握ると肩に抱きつき、想いを彼女に寄せた。


「ありがとう、リコ。全部聞こえていたよ!」


 最初は呆然として七海の言葉を聞いていた絵里子だが、やがて話の意を理解すると急に恥ずかしくなり、七海の手を解いて後ろを向いた。あの時は自分の想いを狂気に襲われた七海にぶつけたが、今冷静になってみると、恥ずかしくて正面から言えるような台詞でも無い。試しに自分の頬を手で撫でると、泣いていたことがはっきりと判るほどにビショビショに濡れている。


 絵里子はそれが自分のキャラクターに合わないような気がして、必死になって手で自分の頬を拭ったが、少しイジワルキャラになった七海は絵里子に追い打ちをかけた。


「泣いてくれてたんだ・・。あたしのためだよね!」


すると絵里子は急に振り向くと、拳でゴチンと七海の頭を叩いた。


「痛〜!何すんの!?急に。」

「うるさい!ホントに心配かけやがって。」

「しょうがないでしょ!不可抗力なんだから〜!」

「アンタ、今日の借りは高いからね!マックだけじゃ済まさないから。」

「判ったわよ。イ〜だ!!」 


 急にいつもの調子が戻り始めた七海と絵里子の傍に、無事だった瞬と輝蘭と真夢が駆け寄ってきた。みんな体のあちらこちらにケガはしているものの、致命傷になるほどのダメージを負ってはいない。特に輝蘭は真夢を守るために相当奮闘していたらしく、体の疲労はかなりのものだったが、それでも多少の休憩を経て、すぐに元気を取り戻していた。


 輝蘭は最初心配そうに二人に近づいたが、七海が元気そうどころか既に絵里子と口げんかを始めている。その様子に胸をなで下ろした彼女は、ホッとしてニッコリ微笑んだ。


「終わったみたいですね。心配しましたよ。」

「い〜や、終わってないね!このバカナミにおごらせるまでは、まだ試合終了じゃ無いからね!」

「無理だよ〜マック十人前なんて!あたしそんなにお小遣いもらってないから!!」

「何言ってんだよ!一人に二人前ぐらいおごらないと、チャラになんないからね!」


 まるでケンカのように騒ぎ始める六人組。しかしそれもやがて笑い声に変わり、それぞれに満面の笑顔が戻っていった。

「さ、帰ろ。ナミ。」

「うん。」


 どちらからとも無く手を差し出し、緩やかに手をつなぐ七海と絵里子。

 しかしこの時、彼女たちの思いも寄らない驚異が間近に迫っていた・・。


             ☆


 それは、瞬が背後での瓦礫が崩れ落ちる音に気付いたことから始まった。振り向くとそこには、異様な風貌の一人の男が屹立している。六人はそれが生き残ったフォルネウスだとすぐに気付いたが、その容姿が先程までとは大きな変化を遂げていたのである。


 大きく盛り上がった筋肉と、黒く変色した肌。その背後には巨大なコウモリを連想させる筋張った翼が携えられ、その浮力により宙に舞っている。元々あった犬歯は牙へと様相を変え、頭からは角とも触覚とも見える新たな器官が突起し、黒い瞳は赤く輝く邪眼へと変貌した。

 正に本物の悪魔へと姿を変えたフォルネウスが、再びその野心を達成するため、禍々しい邪気と共に七海たちと対峙したのだった。


「あ、悪魔!?」

「そうだ、悪魔だ!我々クンヤンの科学技術は、地上のそれを大きく凌駕する。DNAを操作して個々の能力を飛躍的に向上させることなど、私には容易いことだ!」

 フォルネウスは硬い刃のような爪の伸びた手を拳に握ると、すぐに七海たちの身に奇妙な変化が現れた。急に彼女たちの体に負荷がかかり、両足では立っていられないほどの重力が六人に降りかかってきたのである。

「な、なんだ!?」

「体が急に!?」


 それは、フォルネウスの使う遠隔操作の能力によるものだった。元々持つクンヤン人の超能力によるテレキネシス。それらは本来はここまで強力なものでは無いはずだが、フォルネウスは異常な野望を実現するために突出した科学力を乱用し、倍加した能力を身に付けていたのである。

 悪魔の能力は七海たちの行動を制限しただけで無く、体調にも大きな変化をもたらした。彼女たちの血管が黒く変色し膨張を始めたのである。六人の体に激痛が走り、意識が深く混濁していく。

七海たちは苦しみに大きな悲鳴を上げるが、それに応えるのはフォルネウスの勝ち誇った笑い声のみで、彼女たちに救いの手を差し伸べる者はいない。

「私の計画はまだ終わってはいない!【ソロモンの鍵】さえ殺してしまえば、またンカイへの扉は開かれるのだからな!」


 フォルネウスの所業に、今の七海たちに抗う術は無かった。まず最初に詩織と真夢が意識を失い、そして中学生たちの意識も朦朧と遠くへ離れていく。


 薄れゆく意識の中で、七海はその記憶の中の最後の部分に奇妙な光景を残していた。倒れた彼女たちの前に、まるで七海たちを守るように一人の人物が立ちはだかったのである。

 それは後ろ姿しか見えなかったが確かに女性で、背格好からも七海たちと同じぐらいの年頃の印象を受けたが、後はそれだけだった。

 その映像を最後に、六人は意識を失ってしまったのだった。


次が今回の長編の最終更新のお話になります。

更新は明朝6時の予定です。

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