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作戦会議

 関東のとある片隅に、鳳町という小さな町がある。

 

 この町は一見すると何処にでもあるような小さな片田舎に過ぎないように見えるが、人々の町への見識の裏側に、得体の知れない闇を待つ町でもある。


 かつて鳳町で起きた幾つかの怪事件。その中には新聞やニュースなどの表沙汰になったものはほとんど無いが、町の住人にはそれが世間に公表できない事柄であることを、暗に了承している節がある。それは小さな世間話にすら話題に上ることはほとんど無いが、それでも彼らはその闇を恐れ、決して近づこうとはしない。


 例えばこの町の北側に面する石着山に古くから語り継がれる『雛の森伝説』。

 夕闇の公園に現れる人形の恐怖『メアリーさんの約束』

 町内上空に飛ぶオレンジ色の物体が作り出した噂『裏側の町』の物語。

 時折鳳町から姿を消す人々。誰も知らない夜の間に起きた惨劇の痕跡。それらは全て人々の心になんらかの想いを残すが、それでも彼らはあきらめたようにそれらに背を向けることを余儀なくされる。

「ああ、また何かあったのか。」と・・・。


 しかしかつて、この町のみならず世界を巻き込んだ大きな闇に対し、決して背を向けず立ち向かった少年と少女たちがいた。少年は少女を守り、そして選ばれた勇敢な少女たちは闇を祓い、人々に大きな希望をもたらした。


 本来なら少年と少女たちは世界の人々に喝采を受け、英雄として賞賛されるはずだった。しかし闇の残した爪痕は大きく、代償として少女たちの鮮やかな活躍の記録は消され、当の本人たちの記憶からも消え去っている。

 しかしもしかしたら、それは『運命の少女たち』にとって、幸せな結果だったのかも知れない。そのお陰で彼女たちは今の生活を平凡に過ごし、ありきたりな幸せを噛み締めることができているのだから。


 鳳町の籠目小学校。この中の4年生のクラスに『椎名詩織』と『朝霧真夢』という2人の少女がいる。

 2人はかつてこの「黒い海」と呼ばれる闇に立ち向かった少女たちだが、もちろん今はその記憶を残してはいない。


「ねえねえシオリちゃん。今度の旅行、とっても楽しみだね♪」

 2時間目終了後の中間休みに、真夢が詩織に話しかけた。


「あ〜マム〜。そのことなんだけどさ〜。」

「どうしたの?シオリちゃん。なんだかいかにも『大変なことになったのだ〜!』って言いそうな顔してるよ。」

「そうなのだ。大変なことになったのだ〜!」


 前にも記したが、詩織は自他共に認める元気者の象徴のような女の子である。そんな詩織がこの世の終わりのような声を出しているのだから、内気で大人しい真夢が心配になるのも無理は無い。


「どうしたの?もしかして旅行に関係すること?」

「うん。あのさ〜。ナッちゃん(七海のこと)が急に、『旅行に行くの止めない?』なんて言い出したのだ。」

「ええー!!?」


 季節は秋。数日後に授業参観の振り替え休日が重なり、籠目小学校と中学校では合同の連休が組まれている。

 その日に合わせて詩織と真夢。そして詩織の姉の七海とその友人たちを合わせ、計5人の子どもたちだけでの旅行計画の決行がもう数日後に迫っていたのだが、その日を前に詩織からとんでもない爆弾発言が起こされてしまったのだ。

 なぜなら旅行先は詩織の家『椎名家』の親戚が経営している民宿で、当の中心人物となる椎名家の年長の七海が難色を見せるのであれば、旅行そのものが中止になってしまう可能性があるからだ。


 詩織も真夢も、子どもだけで行くということで親への説得に特に苦労したという経緯があり、七海の心変わりは寝耳に水の状況。詩織の落胆ぶりは理解できるが、そう簡単にあきらめられるものでは無い。


「ナナミさん、どうして急に?」

「それがよく判らないんだ〜。昨日用事があって、ナッちゃん三世鶏町までお遣いに行ってたんだけど、帰ってきたら急に『今度の旅行止めない?』なんて言い出してさ〜。」

「ふ〜ん・・・。ナナミさんに、何かあったのかな?」

「あたしもそう思ったんだけど、ナッちゃんなんにも話してくれないのだ。」

「えー?でも困ったな。マムも今度の旅行、楽しみにしてたんだけど。」

「もちろんあたしもそうなのだ!でもまだ中止が決まったわけじゃ無いから、なんとかナッちゃんの気持ちをもう一度変えさせるのだ。」

「シオリちゃん!マムにできることある?」


「作戦があります!」

 詩織が真夢に敬礼をする。

「シオリ隊員!作戦の説明をお願いします!」

 真夢も敬礼を返す。

 そしてそんなお互いの仕草がおもしろかったのだろう。急に2人は吹き出すと、顔を見合わせながら笑い出した。


「作戦って言うより、きっとナッちゃんが行かないって言い出しても、キイちゃんもリコちゃんも『うん』って言わないと思うし、もしもの時はみんなで説得すればいいと思う。ナッちゃん気が弱いとこあるから、きっと大丈夫なのだ。」

「そうだね。キララさんとリコさんもとっても楽しみにしてたから、きっと大丈夫だよね。」


 キララというのは瀬那輝蘭。リコというのは工藤絵里子。どちらも七海の同級生で、昔からの詩織と真夢の仲良しでもある。もちろん今度の旅行のメンバーに名を連ねている面々だ。

 

 結局2人は会話は3時間目始まりのチャイムと共に終了となったが、3時間目の授業中に教壇に立つ教師の顔を見ながらも、詩織と真夢には気になることがあった。


 七海は昔から一際優しく、決して周りの人間のことをないがしろにしない人物である。だからこそ詩織は姉が大好きで、知人たちからの人望も厚い。

 今度の旅行も詩織たちが楽しみにしていたのは先刻承知のはずで、本来自分から旅行を中止しようなどということを口に出すなど、有り得ない人物のはずなのである。

 そんな七海がそのようなことを言い出したのだから、それには余程の理由があるはず。

 その理由が何かが気になり、2人はしばらくの間、授業が全く頭に入らない状況が続いてしまったのだった。


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