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嵐の前触れ

 『日本列島に季節外れの大型台風が接近中』


 週末の日本に、こんなニュースが流れていた。

 その影響はもちろん鳳町にも及んでいて、いつもは青空が遠くまで広がる風景が印象的なこの町の上空は一変していて、昼にも関わらず夕方のような暗さを錯覚させるほどに厚い雲が垂れ込み、時折突風が街中を駆け抜けている。

 まだ本格的に台風が接近するには時間はあるが、急な突風によるケガ等を避けるために籠目小学校では昼過ぎに一斉下校を実施し、詩織や真夢は早い時間に家に帰ることになった。


 このような場合は学校では万が一を考え、各家庭にメールで保護者へお迎えに来てもらえるように連絡をするが、詩織の家でも真夢の家でも両親共に仕事を持っているため、たいがいは自分たちで歩いて帰ることになっている。

 他の子どもたちの家ではお母さんがお迎えに来ているところもぽつぽつあり、二人はそれを少し羨ましいとも思ったりはしたが、それなりに慣れっこにはなっていたので、まずは気にせずに昇降口から正面門へ向かって歩きだした。


「シオリちゃん、台風が来るんだって!恐いね!」

「うん!急いで帰らないと、風で飛んでいっちゃうかも知れないのだ!」

「ええ〜!マム飛ばされちゃったら、どうしよう!?」

「・・・・・でも楽しいかも・・・。」


 鳳町は高台にある町なので、強風による被害はともかく、土砂や水による災害が起きることはほとんど無い。しかしそれでもちょっとした事件に変わりはないので、二人は少し興奮気味で歩いていたが、その時思いも寄らない人物が正面門からヒョッコリと顔を出した。


「シオリ、マムちゃん、迎えに来たよ〜☆」


 それは、学校帰りに籠目小学校に立ち寄った七海だった。

 どうやら一斉下校になったのは籠目中学校も同様だったようで、たまたまお迎えの件を知った彼女は、気を利かせて二人を迎えに来ていたのだった。

 突然の思わぬ人物の出現に、詩織と真夢は大喜びで飛び上がり、七海の両腕にしがみついた。周りのお迎えが来ている子どもたちの姿を羨ましく思っていたのだから、それは無理も無いことなのだろう。


「やった〜!!」

「こらこら、喜びすぎ☆」

「だって、うれしいもん♪」

 そして詩織と真夢は、七海の手を引くように歩きだした。


「ねえねえ、ナッちゃん。今日はリコちゃんやキイちゃんは?」

「さあ?今日はなんだか二人とも用事があるって、先に帰っちゃった。」

「ふ〜ん。」


 天候が荒れる兆候にはあるが、それでも家路に就く三人の足取りは軽い。昨日は刑事に伝えられた事実に混乱していた七海だったが、あれから一晩経ち、どうやら心のダメージも相当和らいだようで、彼女は前を楽しそうにはしゃぐ二人の小学生の姿を眺めながら、にこやかに歩いていた。

 

 そして三人が真夢の家に続く大きな白塀がある曲がり角を曲がった時だった。

 彼女たちを闇に引き込む忌まわしい存在が、今正に鞘から魔刃を引き抜こうとするかのように待ち受けていたのである。


 そこにいたのは、三人には見覚えのある男だった。

 男は全身を清楚な白いスーツに包み、あたかもこれから式を迎える新郎のような出で立ちである。その姿が片田舎の人の無い通りにあるのだから違和感は大きい。しかしその違和感は陳腐なものでは無く、この男には静止してなを辺りの風景すら飲み込もうとするような強いオーラのようなものがあり、それが三人に説明出来ない威圧感としてのしかかっていた。

 強いて言うなら、この男が辺りに放つ空気には冷たい邪悪な気が満ちているという事。

 男の表情は笑顔で溢れていたが、それは優しさによるものでは無く、裏に画策のある不純なものだということがはっきりと七海たちに直感として伝わり、それに危険なものを感じた七海は詩織と真夢を背後に隠し、二人をかばうように男をにらんだ。


「ハルキさん・・・では無いんですよね?」

「ほう?さすが強い霊能力を持っているな。もう私のCHARM(強制的に魅力を感じさせる能力)への免疫が付いたか。」


 七海の言葉通り、その男は函南晴樹と呼んでいた人物だった。

 しかし七海も詩織も真夢も、彼があの時に会った晴樹と同一人物とは思えないほどに、彼への印象は変わっていたのである。

 あの時の晴樹は好感に溢れていて、彼女たちの中では不思議なぐらいに彼は良い印象のみの存在だった。しかし今はどこがどう違っている訳でも無いのに、晴樹からは邪悪さを含んだ嫌悪感が彼女たちに警告を与えている。


「不思議な事では無い。我々のような【クンヤン】の住人には、元々身に付いている能力なのだからな。」

「クンヤン?」

「そうだ。この世界とは隣り合う次元の地下にある世界【クンヤン】のな!」

 不意に晴樹の眼が紅く輝くと、その時七海と詩織の身に大きな異変が起きた。急に二人の体が宙に浮かぶと、まるで磁石に吸い寄せられるように彼の手元に囚われてしまったのである。


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