プロポーズ
「え!?え!?ええ〜!!??」
いくら晴樹が女性慣れしている人間だとしても、普通ならこの性急さと強引さには、閉口する人の方が多いのかも知れない。しかし七海の前に立つ彼には独特の魔力のようなものがあり、それは純情な少女をいとも簡単に虜にしようとしていた。
正直な事を言うと、七海の心は一時的とは言え、もう晴樹の申し出を受け入れる寸前まで行っていた。今の彼女にはとても冷静な判断を下せるような余裕は無く、彼の魅力がなせる業なのか、喉のすぐ先にまで『はい』の二文字が出かかっていたのである。
しかし、それでも七海の中には何か吹っ切れないものがあったのだろうか?七海の中にわずかに残っていた迷いが彼女の中で抵抗を続けた結果、次第に七海の冷静さが戻り始め、それに従い奇妙な感情も一緒に湧き上がってきたのである。
何かおかしい。晴樹さんて、こんなに軽い人だった?
「ハルキさん。どうして、あたしなんですか?」
「言ったじゃないか。君が大きくなるのを、ずっと待っていたんだよ。」
「あたしはまだ・・・大人になるには早すぎます。」
七海の口から出た言葉は、さらに彼女の理性を確かなものにしていった。迷いが全て無くなったと言えばそれは嘘になる。しかし七海の中にある彼女なりの常識を取り戻し、葛藤に終止符を打つには、この言葉は大きな力を持っていたのである。
「ハルキさん、今のはもしかして冗談ですか?あたしの知っているハルキさんは、もっと冷静で常識のある方だったと思っています。あたしみたいな中学生に、しかもこんなに急に交際を申し込むような方では無かったと思うんですけど・・・。」
七海の言葉に、晴樹は意外そうな表情を浮かべた。ほぼ拒否と受け取れる言葉を返される事態を考えていなかったというような表情だ。
そして晴樹は浅いため息をつき、先程までとは全く違う表情をすると、首をかしげるように応えた。
「別に冗談を言ったつもりは無かったけど、とりあえず『NO』ということで受け取っていいのかい?」
「あの・・YESとかNOとかじゃ無くて、あたしには早すぎるって言いたかったんです。」
「それじゃあ、まだ望みはあるって思っていていいのかな?」
「それは・・・あの・・・。」
再び顔を赤らめてうつむく七海。その様子を見ていた晴樹は、思いがけない大笑いをした。
「判った判った。今日はなんだかナナミさんを困らせただけみたいだったね。今日のところはもうこの話題は止めておくよ。」
「もう!ハルキさんの冗談は度が過ぎます!ハルキさんならあたしなんかより、もっとステキな方がいっぱいいると思いますよ。」
「そうかな?君みたいな魅力的な女性、なかなかいないと思うよ。」
再び同じ話に舞い戻りそうな予感がした七海は、妹の詩織を探さなければいけないと彼に伝え、丁寧にお辞儀をすると、逃げるように晴樹のもとから走り去っていった。
晴樹は七海を笑顔で見送ったが、彼女の姿がフロントからすっかり見えなくなった頃、彼は微かに妙な笑みを浮かべ、奇妙な言葉を残していった。
「脈はあるな。好意を持たせたまま従わせた方が楽だからな・・・。」




