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鼓動

 輝蘭たちの後を追いかけて風の丘に向かった七海と絵里子は、とりあえずフォルネウスホテルの正面までは来たものの、敷地が広大なために輝蘭たちの姿を見つけることができず、周辺をウロウロと歩き回っていた。

 時間にしてお昼の11時。彼女たちには特に急がなければならない理由は無いのだが、明日の朝には鳳町に帰る予定になっているので、時間を無駄にするとあそぶ機会がどんどんと減っていってしまう。


「あれ〜?キララたちどこに行ったんだろ?」

 正面玄関の噴水前で、絵里子が辺りをキョロキョロと見回す。


「シオリ、どこ〜?」

 七海も周辺を見回すが、詩織たちの気配は近くには無い。


「しょうがないな〜。ナミ、手分けして探すか?」

「そうね。そうしたほうがいいかも。」


 そして七海はホテル周辺を探し、絵里子は建物から離れた場所を探すため、駐車場の方へ走っていった。


 七海はしばらくの間、詩織たちを見つけるためにホテルの周辺を歩き回っていたが、彼女もまた輝蘭と同様の異変を感じた。オープン間近のホテルにも関わらず、活気と言えばいいか、人の気配が全く感じられないのである。

 試しにホテルの正面玄関から中に入ってみるが、やはりここにも気配は無く、フロントをしんと静まり返っている。

 フロントはシンプルとはいえ、それでも高価そうな調度品も多く飾られていて、七海は人がいないうちに誰かに盗まれたらどうしよう?などと要らない心配もしていた。


「あの〜、どなたかいませんか?」


 いよいよ要らない心配に拍車がかかった七海は、どう考えても遠くの人には聞こえないような小声で呼び掛けをするが、もちろんそれに応える者はいない。


「まあ建物の中にいるはずなんか無いよね。」

 七海が再び外に出ようとした、正にその時だった。


「・・・あれ?もしかして、ナナミさんじゃありませんか?」


 フロントの奥から、若い男性の声が聞こえた。

 七海が振り返ると、そこには・・・。


「・・・・ハルキ・・・お兄ちゃん?」


 そこにいたのは晴樹だった。

 5年以上の歳月を越え、いつも優しく七海に接してくれていた晴樹が、すっかり青年実業家として成長した姿で彼女の前に立っていたのである。


 七海の心の中に、不意に大きな感情が湧き上がってきた。先ほどまで仄かでしかなかった晴樹との思い出が鮮明に現れ、同時に彼へ持っていた過去の憧れが、今進行しているかのように甦ってくる。

 七海の心臓の鼓動が早くなり、自分の中の冷静さがどこかに飛んでいくような錯覚を憶えた七海は、晴樹から視線を逸らすことが出来ず、ただボーっと彼の顔を見つめていた。


 思えば昨晩、彼女は再び晴樹に会っても、きっと懐かしさを感じるだけで、過去の憧れの気持ちは思い出だけになるだろうと考えていたが、実際には大きく違っていた。十歳以上の年の差があってなお、七海の心は晴樹に奪われてしまった状態に陥ってしまったのである。


「本当にナナミちゃんだ。あ、【ちゃん】ではレディに失礼だね。キレイになったね、ナナミさん。」

「ハルキ・・さんこそ、立派になって・・・。」

 

 晴樹が七海の傍に近づく毎に、七海のドキドキは大きくなっていく。

 晴樹は当たり前のように七海の手を握ると、彼女に顔を近づけ、魅力的な微笑みを惜しみなく七海に贈った。

「ボクが、立派?」

 

 まるで晴樹の体からフェロモンが溢れ出しているかのように七海の心は彼に囚われた。おそらく一切の抵抗は出来ない状態だったのだろう。しかしその七海の心を彼は知っていたのか、晴樹はさらに彼女に近づくと七海の肩に手を回し、あまりにも突然に思いもよらぬ告白を始めたのである。


「ボクは誰のために立派になったと思う?」

「え?・・・・誰のためって・・・。」

「確か、もう来年にはナナミさんは十六歳になるんだよね?」

「え・・・は・・はい。」


 すると晴樹は七海の目線に自分の目線を間近に合わせ、静かに、しかしはっきりと話した。

「ボクは君が大人になるのを待っていたんだ。女の子は十六歳になると結婚できるって、君も知っているだろ?」

「え?」


「・・・ナナミさん。君をずっと待っていたんだ。このホテルも、本当は君のために準備したんだよ。」

「???」


「ナナミさん。ボクと・・・一緒になってくれないか?」


「ええ?」

「まさか君が海猫ヶ浜に来るなんて思ってもいなかったよ。わざわざ鳳町まで行く手間が省けた。もちろんOKしてくれるよね?」


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