因果の混乱3
私は辺りを見回した。
礼拝堂は明日の聖天使の祝日のために、所々に可憐な白い花が飾られていた。
幅広の通路の左右には座席が並び、その横には太めの列柱が並んでいる。
その座席や列柱にまで飛び散った血しぶきの跡。
僅かに揺れた左側最奥の座席をみると、そこにはオーギュストが倒れていた。
怪我をしてるのか、気を失っているか。
中央の通路は何かを引きずった血の痕跡。
さらには、人体の一部──耳、指の欠片が三本、そして内臓らしきものが転々としている。
その通路の先、礼拝堂の前方に見知らぬケダモノがいた。
そのケダモノ──獅子と人の融合体は、今一心不乱に大きな肉の塊で飢えを満たしている。
このケダモノはパリューグだったものだろうし、食べられているのはエーリカ・アウレリアだろう。
つまり、この散らばってる血液と肉塊は、私だと思って間違い無い。
凄惨な光景だ。
耳元が熱くなり、心臓の音が聞こえた。
状況としては、さっきのクラトヌーヌの川辺よりももっと苛烈だ。
まず、私は血が付着していない後方右側の座席に身を隠し、革鞄を開く。
今回の戦いに必要な短杖を何種類かローブのポケットに移動した。
飢えを満たすのに忙しい彼女は、私を一瞥もしない。
礼拝堂にはただ、咀嚼音が響いていた。
次に、ゴーレム核を二十個ほど静かに床に転がしていく。
左右の側廊側。
前、そして後方に。
革鞄を閉じる前に、カロリー補給のためにチョコレートを一欠片口に放り込み、噛み砕く。
最後に、革鞄を座席の下の隙間に隠した。
一回深呼吸をしてから、彼女に呼び掛ける。
「キャス・パリューグ」
ぴくり、とパリューグの耳が動く。
ようやく彼女は獲物から口を離して、私を認識した。
『……ーーーーーッッッ……!!!!!』
ケダモノの咆哮が響く。
建物が揺らくほど激しい咆哮だ。
新しい獲物が目の前に現れた、歓喜の音色。
「エーリカ……なんでまだ礼拝堂にいるんだ……? 逃げろって言っただろ!!」
オーギュストがゆっくりと身を起こす。
パリューグと長年融合していたせいか、本来の肌の色よりも人化したときのパリューグの肌の色に近い。
見たところ、何処にも外傷はないようだ。
「良かった。オーギュスト様、ご無事ですね?」
「私のことはいいから、逃げろよ! じゃないと、お前、この獣に喰われるぜ!」
オーギュストは元々のエーリカがまだ生きていると誤解しているようだ。
今は、誤解されたままでいいかな。
彼がハロルドみたいな混乱状況になってしまうと困る。
「オーギュスト様、私は大丈夫ですので、側廊に隠れていただけますか? 説明は後にさせてください。ほら、もう彼女が──」
言う前に私は短杖を振った。
場所替えの杖だ。
礼拝堂の奥寄りの座席から、向かって左側の柱の影の側廊にあるゴーレム核と入れ替わる。
私がいた場所に、獣はいた。
ゆうに二……いや、三メートルほどある巨体を、ゆっくりと翻した。
私の知っているパリューグと同じ速度なら、先ほどの一瞬で私を仕留めていただろう。
飛びかかった瞬間に私が消えたことが不可解なのか、呻く。
獅子とヒトが混ざった金毛の獣人姿は、彼女の本来の獣人の姿からは遠く、どこかしら歪だった。
そして、ゲームの設定と同じなら、ケダモノなのに嗅覚は鈍く、視力もそれほど強くない。
纏うべき炎を持たず、動きも散漫だ。
だから、それほど恐怖は感じない。
『ーーーーーーーーーーッッ!!!!!』
もう一度、ケダモノの咆哮が響く。
場所替えを振るって、さらに移動する。
反対の側廊。
「こっちよ!」
柱の影から姿を現し、パリューグを挑発するように見つめて私は叫んだ。
目の奥には灯るのは激しい飢え。
知性の欠片も見えない。
目の前の新しい肉を食べたそうに、舌舐めずりしている。
こんなのってないな。
知ってはいたけど、実際に自分の目で何もかも失ってしまったパリューグを見ると、むちゃくちゃ辛い。
私はいつもの陽気で騒がしいパリューグが、ものすごく懐かしくなった。
私は礼拝堂の様々な場所へ転がしたゴーレム核に場所替えの杖を使って、どんどん移動する。
パリューグはその度に私を追ってくるが、その動きは遅く、逃げるのは容易だった。
パリューグを通路の真ん中に誘導した後に、私は礼拝堂最奥の場所へ転移し、彼女を狙った。
──ごめん。ごめんね、パリューグ。
威力を増した突風の短杖。
パリューグは突風に抗うことが出来ず、礼拝堂の壁にぶち当たった。
壁からずり落ちると、彼女は低く呻いた。
飢えた瞳が、ふと、私から逸れて別の場所をさまよう。
確か、あの辺りはオーギュストが倒れていた座席の近く。
側柱の陰で、僅かに人影が動いた。
──狙いをオーギュストに変えた!?
飢えた獣は捕まえ難い獲物を諦めて、もっと手近な獲物を選んだ。
パリューグはオーギュストに向かって、巨体を跳躍させる。
彼女は、躊躇なく爪を振り下ろした。
すぐさま柱の影から姿を現したオーギュストは、剣でパリューグの攻撃を防ぐ。
パリューグは体重をかけて押し切ろうとするが、オーギュストは剣を巧みに操って受け流していく。
側柱や座席の間を移動しながら、ケダモノと王子はチグハグなダンスを舞うように切り結んでいた。
ぎこちない動きを繰り返すパリューグを、まるでオーギュストが誘導しているかのような。
──これは。
オーギュストの感応能力だ。
リベル・モンストロルムにおいて、オーギュストは、彼女の四肢を僅かながらにコントロールできた。
今もその力を使っているのだろう。
「どうした、バケモノ! そんなんじゃ私は殺せないぜ!?」
オーギュストは楽々と、パリューグを追い詰めていく。
何度も剣と爪が交差した後、パリューグは不可解に身を震わせて後方に退いた。
パリューグの太腿が、跳躍する猫の後ろ足のように膨れ上がった。
「いいぜ、来いよ、バケモノ!」
オーギュストが叫ぶ。
パリューグが再び襲い掛かろうとした瞬間。
私は場所替えの杖をオーギュストに対して振った。
私とオーギュストの位置を入れ替える。
オーギュストがパリューグを傷つけるのも、パリューグがオーギュストを襲うのも、私は見たくなかったからだ。
入れ替わった瞬間に、突風の杖を振るって、パリューグを壁に叩きつける。
「エーリカ、お前……その戦い方は一体なんなんだ? いや、違う。お前……誰なんだ?」
オーギュストの視線が恐れと疑惑に変わった。
聡明な彼は、自分の知ってるエーリカの情報から私に違和感を覚えて、その答えを導いたのだろう。
「錬金術師ですよ。そして、あなたの友達で、あなたの弱音を聞く係です」
オーギュストの問いに答える。
いつだってオーギュストが誰にも言えずに抱える言葉を、無理やり聞き出すって決めてるからね。
「弱音って……お前、何を言っているんだ?」
「彼女を捕獲した後で、説明します」
今のパリューグの身体能力から、必要な檻の強度を計算する。
手持ちの水晶塊の杖で、充分足りそうだ。
再び体勢を立て直したパリューグに、私は声をかける。
「ねえ、あなた、ナゾナゾはまだ好き? 上は大洪水、下は大火事ってなんだと思う?」
この言葉はまだ彼女に届くのだろうか?
しかしナゾナゾっていうとこれを最初に言っちゃうのって、私も大概に頭が硬いな。
『……?』
パリューグは動きを止め、首を傾げるような仕草をした。
獣の目の奥にわずかな感情を見た気がした。
「良かった。まだ好きみたいね。じゃあ、遊びましょう」
動き出したパリューグを、突風に水晶塊を織り交ぜて翻弄する。
攻防と並行して、短杖拡張で遅延させた水晶塊で檻を構築していく。
今のパリューグの魔法抵抗なら、私の拡張した場所替えの杖で貫通可能だろう。
ハイアルン先輩相手に使った作戦が有効だ。
「じゃあ、次は昔あなたが私に出した謎なぞよ」
それは時に死に至る重い病。
どんなに強力な魔法も、どんな名医もそれを癒すことはできない。
しかし、その病は人も獣も幸福にするだろう。
昔のパリューグの恋の謎かけそのままに、謎を出す。
当然、今の彼女は答えることができない。
問題を出した私が連続勝利だ。
「じゃあ、次はこんなのどうかしら」
次は三番目の謎なぞ。
これも前回出題した謎なぞと同じ答えにするって決めていた。
ただし、問題は変える。
「それはまばゆく輝くもの」
「それは自らを喰らいながら、人々を照らし、暖め、導くもの」
「それは強く、優しく、人に寄り添うもの」
「なんだと思う?」
出題と同時に、檻の構築を終えた。
あとは彼女と私の場所を入れ替えれば、この罠は起動する。
「それはあなた。あなたは、自分が何者か覚えている?」
獣は短く呻いた。
「答えられない? じゃあ、教えてあげる」
「それは焔。あなたは誰より強く優しい焔だったはずよ! 思い出して、パリューグ!」
そう叫んで、私は場所替えの杖を振った。
杖一本分を使い切って拡張された呪文は、パリューグの魔法抵抗を貫通。
私と場所が入れ替わった瞬間に、パリューグは水晶の檻に閉じ込められた。
『……ーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!』
一瞬で獣が業火に包まれ、歪な肉体が燃え落ちる。
炎の中から、私のよく知っているパリューグが現れた。
「パリューグ!」
『妾に、最後の謎かけを挑んだのはお前なのね、錬金術師の娘。お前のおかげで最後の契約の理が発動したわ』
あんなイレギュラーな形で、契約の理が?
じゃあ、この世界のパリューグは元の姿を取り戻せるの?
『でも、もう妾に再契約に耐える力はないのよ。ああ、残念ね。お前の願いを聞いてみたかった』
「そんな……」
パリューグの体もまた、デジタル映像が徐々に崩れていくように、崩壊していく。
『妾はもう時間切れのようね。感謝するわ、錬金術師。もう一度元の姿に戻れたおかげで──』
パリューグは私の後ろにいたオーギュストに視線を移した。
『最後に別れの言葉が言えるわ。さようなら、妾の愛しい──小さな王子様』
そう言って、彼女は微笑みながら消えていった。
「パリューグ!」
彼女の滅びで、契約の理による忘却が薄れたのか。
オーギュストは、パリューグの名を叫んで檻に駆け寄る。
「嘘だ! なんでお前が! いや……そうか、そうだったのか、私のせいで、お前がこんなことになるなんて……!」
「あなたのせいじゃありません」
嗚咽して泣くオーギュストに、私は言葉をかけた。
無粋だと思ったけど、大事なことだ。
「お前に! 何がわかる!」
オーギュストはにわかに振り向いて、声を荒げた。
「分かりますよ。全部知ってるから言ってるんです。イクテュエス大陸に構築されていた人々の信仰を天使に捧げるシステムが、吸血鬼によって歪曲されていたことを知っています。そのせいで、彼女の力があなたに出会う前から弱っていたことも。あなたの竜が卵から孵化しなかったのは吸血鬼の呪いだということも。あなたが王妃の不貞の噂を拭うためにも、契約の獣にその身とその心を捧げたことも……」
私はゆっくりとオーギュストの元へ歩く。
「あなたが悪かったことなんて、本当は一つもないことをよく知ってます」
「なんだ、それ……何言って……」
オーギュストの瞳が困惑で揺れる。
「先ほども、本当は私を憎んでいるはずなのに逃げろって言ってくれてたじゃないですか? あなたがここまで追い詰められたのは、エーリカが──私があなたを嘲笑したせいなのに」
「……っ!」
オーギュストは言葉を詰まらせて、目を逸らす。
少しの間の沈黙の後に、彼はハッとした表情を浮かべた。
「……そういえば、何故お前は契約の獣の真実を知っているんだ……すると、天使の弱体化や卵が孵らないことが吸血鬼の呪いのせいでって話も、本当なのか?」
「ええ」
さすが、オーギュストは聡明だ。
私の話の中に、彼だけが知っていたはずの真実を見つけてくれた。
「いや、それどころか……もう一度聞くぜ、お前は誰なんだ?」
「それは──」
さて、どう説明しよう。
ハロルドの時みたいに、納得して了承を貰わなければ、ドロレスは介入できないみたいだし。
でもハロルドの時みたいに、強烈な思い出のある品物なんて持ち合わせてない。
──そうだ。
強烈な思い出なら、ここにある。
「オーギュスト様、説明のために、あなたの力をお貸しください」
私はそう言って、オーギュストに手を伸ばした。
オーギュストは顔を逸らした。
「……この私に何ができると言うんだ、こんな私に、何が……?」
「あなたが望むことはなんでも出来たじゃないですか? さあ、手を貸してください」
私はオーギュストの手を強引に掴んだ。
この世界の彼には出来なくても、私の知っているオーギュストならば出来るはずだ。
「これは、あなたが私に見せてくれた記憶ですよ」
私は瞳を閉じて、思い浮かべた。
橙色から藍色に染まりゆく空。
その上に浮かぶ、いくつもの逆さまの赤い炎の塔。
見下ろせば、おもちゃのような街並みと、そこに暮らす人々。
〈炎の剣〉は砕け散り、黄昏の空に無数の灯火が舞う。
あの日のノットリードの空──
夜空に咲く、極彩色の大輪の花。
街は万霊節の祭りのために彩られ、人々は光と喧騒の中で楽しげな笑顔を浮かべている。
そして華やかな祭りの裏で蠢く策謀。
影の中で、暗く閃く雪銀の火花。
あの夜のリーンデースの空──
竜とともに見た空の記憶が、私から泉のように溢れてくるのがわかる。
本当なら、こんな空を見ることができるのはきっと世界でオーギュストだけ。
その時、全く別の青い空の映像が、私の脳内に再生された。
どこまでも続くかのような、透き通った空。
空を映して輝く海。
底が抜けそうなほどの青、青、青。
春の名残の風は、潮と花の香りを孕んで、冷たく。
夏を告げる太陽は、目も眩みそうなほどに輝いて、熱い。
白亜の街に舞う、色とりどりの花弁。
澄み切った蒼穹に踊る、色とりどりの竜。
……これは、あの日の〈伝令の島〉だ。
私の知っているオーギュストだけが持つ、あの日の空の記憶。
目を開いて、オーギュストを見つめる。
オーギュストのまん丸に見開かれた目から、涙が一粒こぼれた。
「なぜ、この空を私は──どうして、忘れていたんだ……」
「ちゃんと思い出せたじゃないですか」
オーギュストは深呼吸をして、私を見た。
澄んだ紫色の瞳が煌めく。
「ただいま、エーリカ」
オーギュストは、手を強く握り返す。
「お帰りなさい、オーギュスト様」
オーギュストの瞳からポロポロと涙が溢れていく。
「なあ、エーリカ、なんでだろうな? あの空の記憶が、前よりももっと、ずっと綺麗に見える。泣きそうだ」
「あはは、もう泣いてますよ」
オーギュストは涙を拭って、笑う。
「手間を掛けさせちゃったな。最高の空だけじゃなくて、今夜のとんでもない裏事情も断片的に見た。私がこんなふうに二重の記憶を持っているのも、その所為だな?」
「さすがです、オーギュスト様。話がとても速い」
オーギュストは真剣な顔に戻って私に問う。
「なあ、あんな風になってしまった教授は、助けられるのか? あのウィント家の差し手は、どう動くつもりなんだ?」
「クローヒーズ先生は当然奪還する予定です。まずは、ドロレス・ウィントから詳細を──」
その瞬間に、場所は車両に変わっていた。
気がつけば、オーギュストの見た目が元に戻っている。
ここにいるのは、私とオーギュストだけ。
ドロレスもハロルドも、他のみんなも見当たらない。
「へえ、これが原初の模様が起動した姿ってわけだな? そしてここの主人はどこにいるんだ? なあ! 魔法使いドロレス・ウィント!」
オーギュストが叫ぶと、前方車両のドアが開いた。
ドロレスが現れる。
「ふうん、あなたがイグニシア第一王子ね。嫌な感じに聡明そうな顔だわ」
「そうか、私は良い感じに聡明じゃないかな?」
険悪な雰囲気のドロレスに対して、オーギュストは屈託なく笑った。
「ウィント家の差し手ドロレス、私は全面的にお前に協力するつもりだ。何をすれば良い?」
「良い心がけね、オーギュスト・イグニシア」
ドロレスは、なんだか加虐的な笑みを浮かべた。
「あなたには数多の人々の平和の為に働いてもらうわ。廃人になるかもしれないけど」
「廃人だって?」
オーギュストの笑顔が引きつる。
「どういうことなんだ、エーリカ!」
「すみません、オーギュスト様。私も初耳なので……」
各人にどんなタスクが振られるか、ぜんぜん認識してなかった。
オーギュストはどんな目に遭っちゃうんだろう。
ドロレスがニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「イグニシア王家の人達って、そういうの好きでしょ? 家族のためとか、民のためにとか、国のためにとか、臣のためとか、友達のためとか、見ず知らずのたくさんの誰かのためとかにする、壮絶な自己犠牲。素敵な精神だとは思うわよ」
「はあ!? 私はそんな殊勝なことを思ったことも言ったことないぜ!」
ドロレスが鬼のような邪悪な形相でオーギュストに詰め寄る。
「思うし、言うのよ。いつかね。は〜〜〜、どうして徳の高い人間って無駄にウザいの? まあ、廃人は冗談。私の言うことをちゃんと聞けば、廃人になんてならないわ。その代わりに馬車馬のように働くのよ?」
「馬車馬〜〜〜っ!?」
オーギュストは心底嫌そうに叫んだ。
ハロルドだけでなく、オーギュストですらドロレスに翻弄されている。
まあ、廃人に馬車馬じゃあ、困ってしまうよね。
「と言うわけで、オーギュストには私から仕事を振るから、エーリカ、あなたは走って!」
そう言って、魔女は、前方の車両を指差した。
☆
次の車両へ走り始めると、またドロレスの声で車内アナウンスが響きはじめた。
「行き先はリベルモンストロルム 第一の物語」
次はクラウスのはずだ。
ザラタンと融合して悪霊化したアンにも会うのだろうか。
「……じゃなくって」
「えっ、どういうこと?」
車内アナウンスに、思わず私は聞き返してしまった。
「崩壊した分岐世界……終端すらない物語のある場所。そのままだと物語として再構成出来なかったから、悲劇の起点となるポイントだけ切り取ってまとめてしまったのよね」
車内放送と会話できてしまった。
どこで私の声を拾っているの?
まあ、あのドロレスのことだし、どうとでも出来るのだろう。
「そういうのは、もっと早く言ってくれないかしら!」
「色々と難しい事情なの。許してもらえる? というか許しなさいよ!」
ドロレスが逆切れ気味に謝ってきた。
今は彼女に頼るしかないし、ここは矛を収めるしかないな。
「……じゃあ、説明を続けて」
「では、気を取り直して……行き先はリベルモンストロルム 最初の物語の本当の物語」
「犠牲者の名はクラウス・ハーファン」
「怪物の名は魔王」
えっ、ザラタンと融合したアンじゃないの?
ていうか、うちの世界には狂王しかいなくなかったっけ?
魔王って誰!??




