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洞窟城の狼2

 天界の眼(アイズオブオーバーワールド)の呪文を充塡したレンズを嵌め、私は魔法を起動した。

 脳裏に洞窟城の構造が浮かぶ。


 天然の地形と、人工物が絡み合った複雑な城砦。

 明確に何階建と表現するのも難しい、歪な多層構造。


 知らずに入り込んだら迷ってしまいそうだ。

 慎重に全体を見渡し、構造を頭に叩き込んでいたとき、異常に気づいた。


 この洞窟城は、ほぼ無人だ。


 私たちを除けば、ここより何層か下に一人いるのが見えるだけ。

 先ほど穴に落とした騎士たちの姿もない。


 想定外の光景。

 一体どういうことだろう?

 ……もしかして、レンズが壊れている?


 確認のため自分の位置を探す。

 私とティルナノグの姿はハッキリ見えているが、クロエが見えていない。


 何故?


 視線を目の前のクロエに向けると、彼女の首元で金属がキラリと光った。

 雪銀鉱のアクセサリー。

 これを肌に直接つけているせいで、視覚系魔法に映らないのか!


 洞窟城の住人達も雪銀鉱を身に帯びているとすれば、天界の眼の結果にも説明がつく。

 すると下層に見える一人は、彼らの仲間ではない部外者、つまりベアトリスの可能性が高い。


 疑問が過る。


 もしかすると、過去視(ウルズサイト)で銀色のノイズが見えたのも同じ理由だろうか。

 試しに過去視の杖をその場で振ってみる。

 クロエと巨躯の男が戦っていた場所では、二つの銀色のノイズがぶつかり合っていた。


 やはりベアトリスを攫ったのは雪銀鉱を身につけた人間だ。

 だとすると、ヤン・カールソンはこの結果(・・・・)を知っていて偽証したことになる。


 何故、彼がそんなことしたのか?

 どうしてそんな知識を持っていたのか?


 ヤン・カールソンはウトファル騎士団の息のかかった人物だ、と考えるのが自然だろう。

 おそらく、原作ゲームにおけるハロルドも。

 見慣れたハロルドの困り笑顔と、厳しい目で睨むハロルドのスチルが脳裏に去来する。


 それならばゲームでのハロルドがハイアルン相手に一瞬で勝利できたことにも説明がつく。

 ハイアルンが凝結の盾などの物理防御魔法の詠唱を終える前に、なんらかの雪銀鉱の武器を使用したのだろう。


「……エーリカさん、大丈夫? どうかしたの……?」

「今、ベアトリスの居場所が分かったわ。銀色の怪物の正体と、誘拐犯の共犯者も」


 探査結果とそれについての私の推理をクロエに伝える。

 ヤンについて話したとき、クロエは少し悲しそうに目を伏せた。


「でも、だとすると、もうここの人たちに躊躇する必要はないってことだね」

「えっ……今まで躊躇してたの……?」

「う、うん」


 全然そんな風には見えなかった。

 まあいいか。

 クロエの本気は心強いし。


「では、居場所もわかったことだし、すぐに降下してベアトリスを奪い返してしまいましょうか?」

「うん、いつでもいいよ」


 クロエは真剣な顔をして頷いた。


 再び短杖を構える。

 掘削(ディッギング)の杖で一気に壁や床を貫通して、敵からベアトリスを奪還する。

 目標地点は、ベアトリスの人影が見えた場所だ。


       ☆


 貫通と静穏性を高めた掘削(ディッギング)の杖で一気に落下ルートを作製する。

 三階層分を一気に貫通。

 大部屋で取り囲まれると危険なので、念のため少し離れた厨房を出口に設定しておく。


 まずはクロエとティルナノグが降下した。

 続いて私が軟着陸(フェザーフォール)の杖を使って、降下する。


 穴の先は真っ暗で閑散とした厨房で、ナイフの突き立った大きなハムや玉葱が乱雑に転がっていた。


「エーリカさん、この先の大広間に人が集まっているみたい。呼吸や足音から推測して、十人以上かな」


 クロエは扉に耳を当てたまま状況を説明する。

 まともに戦おうとすれば多勢に無勢だ。

 しかし、クロエかティルナノグにベアトリスの回収を任せて、私が撹乱に徹すればどうにかなるかな?


「騎士団の人たちと話し合ってみたくなったんだけど、大丈夫かな?」

「いいわよ。その代わりもしもの時は、ベアトリスの奪還をお願いするわ」


 クロエは静かに頷く。

 ベアトリスの身柄を確保してしまえば、後はどうにでもなる。


 そして私たちは、扉を開けて厨房から大広間へ向かう通路を進んでいく。

 通路の先にあった薄暗い空間には、獣脂の蝋燭の燃える臭いが広がっていた。


 大きなテーブルの周りに集っている茶色いローブの男たちは十四人。

 彼らの視線が一斉に集まる。


 テーブルの向こう側にある壇上には、純白の騎士姿の男が二人と、彼らに付き添う茶色のローブの男が一人いた。

 騎士の纏う服の意匠から、彼らこそウトファル修道騎士団と分かる。


「これは、これは……ようこそ、クロエ様」


 静かに、しかし絞りだすようにリーダーらしき白騎士は声を出す。

 彼らの足元には、ベアトリスが拘束されて転がっていた。

 気を失ってはいるが、無傷のようだ。


「誇り高いウトファルの騎士が、なぜこのようなことを?」


 クロエが問う。


「クロエ様、あなたを取り戻すためです。どうか我らと共に北へお戻りください」


 白騎士が答える。

 彼らの目的はクロエ──旧王家の姫君の奪還が主な目的だったということ?


 クロエはあたりを見回してから、軽くため息を吐いた。


「もしかして私を脅迫するためにその()を攫ったの?」


 クロエの声が響く。

 静かな怒りを秘めた声だ。


「いいえ。本当ならばあなただけを攫うはずでしたが」


 リーダー格の白騎士──この事件の首謀者はそう言った。

 苦渋の表情だ。


「手違いでこのような無辜の学徒を攫うはめになってしまいました。誠に遺憾です」

「どうして私を攫おうとしたの?」


 クロエが問う。


「逆賊ハーランからあなたを奪うには、ハーランの手の及ばない学園にいる間に攫うしか我々には方法がなかったのです。なぜなら──」


 首謀者は、語り始めた。


 北の旧王家の末娘クロエの生存をハーランが隠蔽していたこと。

 一部の上級貴族と、彼らと通じたウトファル騎士団の上層部だけがずっとクロエを探してたこと。

 ごくごく最近になって、クロエが発見されたこと。

 数ヶ月前にルーカンラントでは、とある重大な事件が起こったこと。

 そのせいで、もっと穏便に事を運ぶはずが、このような強引な方法を選択するはめになったこと。


「このままでは我らが北の地は、あのハーランのせいで破壊されてしまいます……!」


 もう一人の白騎士が痛切に叫んだ。

 今回の事件、ハーランの指示って訳じゃなく故郷を憂いた騎士たちの独断専行だったのか。


「既に何名もの上級貴族が、ハーランに対抗するために助力を申し出ております。あとはクロエ様さえお戻りいただければ、北の地を再び一つにまとめることはできましょう」


 首謀者は眉間に皺を寄せながら、クロエに訴えた。


「ウルス辺境伯を北部総督代理の席から追いやる大義名分として、旧王家の血が必要ってこと?」


 クロエは抑揚のない声で返事をした。


「左様。このままイグニシアの息のかかった簒奪者に任せてはおけませぬ。ルーカンラント王家の正統後継者の帰還は、全ての北の民の悲願……クロエ様も、よもや否とは言いますまい」

「聞こえのよい言い方だけど、つまるところ私を傀儡にしたいってことだよね」


 クロエの問いに、首謀者の眉間に皺がよった。


「いいえ、決してそのようなことは──」


 彼らにその意図は無くとも、結果的に後ろ盾になった貴族が実権を握るだろうなあ。

 十四歳の身内のない貴種なんて、どうしてもそうなっちゃうでしょ。


「もう一つ、その例の事件について聞いてもいいかな?」

「それは……我々の間でも知らされているのはわずかです。末端までもが知っては士気に関わる。特に今は部外者もいることですし、口にする訳には参りません」

「安全な場所にお連れした後に、必ずやあなた様の後援者となるお方の口から説明があるでしょう」

「聞かずに北に行くのは嫌だと言ったら?」


 クロエが応えると、首謀者の男は銃口を足元に倒れているベアトリスに突きつけた。


 案の定、説得は通じないか。

 掘削(ディッギング)で床全体を落として、自分とベアトリスに浮遊(レビテート)

 混乱に乗じて、クロエかティルナノグがベアトリスを回収できれば——


 しかし、私が動くよりも早く、クロエが口を開いた。


「今すぐその子を学園に返してくれるなら、北に帰っても良いよ」


 抑揚のないクロエの声が、広間に冷たく響く。


「まずは一緒に北に来ていただいてからです。クロエ様を信用していないわけではありませんが、こちらにも保険がなければ」

「ことが済んだ後で、必ずや学園にお送りいたします」

「それじゃその子に迷惑がかかるからダメ。今すぐじゃないと」


 クロエが首を振った。


「ダメ。十四の少女が隣国に一定期間誘拐された経歴を持つなんて、きっと不名誉な噂が彼女を傷つける。彼女はウィント伯の血縁でハーファンでも重要な人物だから……私は、ベアトリスの将来を閉ざさせるわけにはいかない」


 クロエは矢継ぎ早に言葉を投げつける。


「命が無くなるよりは余程良いでしょう。それとも大事なご友人の死体をお返ししたほうがよろしいか。ハーファンなどの事情にクロエ様がお心を砕く必要はありませぬ」


 首謀者の男は、わずかに不快そうな表情を浮かべて答えた。

 長い諍いの歴史が作り出した隣国(ハーファン)への悪感情が染み付いているのだろう。


 クロエがゆっくりと拳を握りしめたその時。

 不意に、銃を構えた首謀者の手がブルブルと震えはじめた。


(……何が起きている?)


 疑問に思った矢先に、首謀者の真後ろにいた茶色いローブの男が、その銃を奪った。

 注目が集まる中、その男が銃身を両手で持って振りかぶる。


 ぎこちなく首謀者が振り返ると、フルスイングされた銃床が首謀者の側頭部に叩き込まれた。

 首謀者は縦方向に回転しながら壇上から転げ落ちていった。


「お前、何をっ!!」


 残ったもう一人の白騎士は驚愕しながらも、剣を抜いて構えた。

 ローブの男は肩をすくめ、へし折れた銃を投げ捨てる。


「正常な思考じゃありませんよ。主を脅迫して思い通りにしようとするなんて、狼の忠誠心には相応しくない愚行だ」

「なにを今更、そのような寝言を……っ!」

「分からないってことは、皆さん早急な治療が必要みたいですね。苦いお薬を処方してあげましょう」


 そう言って彼は、深く被ったフードを脱いだ。

 現れたのは、見知った顔だった。

 ジャック・シトロイユ。


「連絡員風情が、我ら正規の騎士に勝てると思っているのか?」

「ええ、俺はきっと誰よりも弱いですよ……でも多分誰も、俺に勝つことはできない」

「貴様ぁっ!!」


 激昂したもう一人の白騎士が、シトロイユに襲いかかった。

 シトロイユは鞘に納めたままの剣の柄に手をかけ、腹部を狙った剣閃に合わせて身を捻った。


 耳障りな金属音が響く。


 白騎士の手にしていた雪銀鉱の剣が折れて床に落ちた。

 剣を折られた白騎士は、その隙に顎を砕かれ一人目の横に転がる。


 シトロイユが手にしていたのは、ノコギリや櫛に似た奇妙な形の剣だ。


剣折り(ソードブレイカー)か……!?」

「雪銀の長剣はどうした? 貴様、よもや初めから我らを裏切るつもりだったか!」


 ウトファルの騎士たちは色めき立ち、シトロイユを取り囲む。


「いやいや、裏切者は皆さんのほうですからね」


 激昂した剣士たちに武器を向けられても、シトロイユは余裕の笑顔だ。


「黙れ! イグニシアの狗だか、ハーランの狗だか知らんが、今ここで粛正してくれる!」

「やれやれ、バケモノばっかり相手にしてたせいで、人間とは話にならないときたか」


 三分の一がシトロイユに斬り掛かり、三分の一が逃すまいと輪を維持する。

 そして残り三分の一は銃や短杖を構えて機を窺う。


 シトロイユを中心に、刃の嵐のように剣が閃く。

 剣戟の隙間を縫うように、銃弾や魔弾が褐色の肌を掠める。

 多勢に無勢としか思えない戦闘の渦中で、シトロイユは守りに徹して凌いでいた。


「さてと……そろそろ()に効いてきたかな」


 ぽつりと呟いた言葉に応えるかのように、一人がたたらを踏んで倒れる。

 転倒者は二人、三人と続き、連携が崩れた。

 脚をガクガクと震わせる剣士たちを、シトロイユはあっと言う間に殴り倒す。


 いくつもの銃声が響く。

 シトロイユは気絶した騎士を盾代わりにして銃弾を受ける。


 続いて音もなく飛来した魔弾(マジックミサイル)を斬り払う。

 いつのまにかシトロイユの左手には、他の騎士から奪った雪銀の長剣が握られていた。


「お疲れさん。()もそこまでだ」


 射撃していた五人が、目を手で覆って呻く。

 何か攻撃したようには見えなかった。

 ほとんど同時に、離れた相手の目をどうやって狙ったのか。


 残った騎士たちも体のどこかに不調が発生し、次々に動きが鈍る。

 まるでそれを知り尽くしているかのように、シトロイユは一人また一人と騎士たちの意識を刈りとっていく。


「た、たった一人の下っ端連絡員に……十六人ものウトファルの騎士が全滅だと……!?」

「あんまり喋ると、次は舌がおかしくなりますよ」


 シトロイユはそう言うと、銃を構えた騎士の背後にぬるりと回り込む。

 銃弾が見当違いの方向の壁を抉り、指を折られた騎士の手から銃が落下した。


 シトロイユの腕が騎士の首に回る。

 騎士は頸動脈を押さえたシトロイユの手を振り解こうと、手に力を込めた。

 しかし、その手は次の瞬間に小刻みに痙攣してだらりと垂れ下がる。

 すぐに最後の一人も意識を手放し、ガクリと倒れた。


「お待たせしました、お嬢様方。数分もすれば薬も切れて連中も目を覚ましますので、今のうちにとっとと逃げましょうか」

「……薬?」

「身体強化の能力に反応して神経伝達を阻害する麻痺薬を仕掛けていたんですよ」


 そう言って、シトロイユはベアトリスを肩に担ぎ上げる。


「叛意があれば、すなわち実力行使に出れば動けなくなる。あくまでもクロエ様に従うようなら、解毒剤を渡すつもりでした。俺は連中の真意を見定めるように仰せつかってたわけです」

「シトロイユさん……それってどういうことなんですか!」


 私は問いかけながら、シトロイユの後を追った。


「説明は逃げながらでいいですかね。あちらに隠し通路がありますので……」


 シトロイユは私たちを先導し、突き当たりにあった絵画の裏の石を幾つか押し込む。

 壁の中で歯車の軋む音が響いて、狭い隠し通路が現れた。


「ちょっとばかり急ですが、許してくださいね!」


 私たちは急いでシトロイユの背を追った。

 勾配が急で複雑な構造の暗道を、星水晶のランプで照らして進む。


「俺はこの事態を収束するように指示を受けていた二重の間諜です。最重要事項はクロエ様の意思でした」


 前を向きながらシトロイユは説明を始めた。


「彼らがクロエ様の説得に成功するなら、そのままクロエ様を北へ護送するつもりでした。説得に失敗して、それでもクロエ様の意に逆らい続けるようなら穏便に(・・・)処理するため、監視をしていたんですよ」

「……それはウルス辺境伯の指示なの?」


 クロエが問いかける。


「左様です。クロエ様。なにごともあなたの心のままにと指示を受けております」

「ウルス辺境伯がそのように言っていた……?」


 クロエの声に困惑が混じる。


「ええ、卿はクロエ様の忠実なる臣下ですので」

「じゃあ、さっきの騎士が言っていた事件って?」

「ある地域でウトファルでも特に手練の剣士百人の死体が発見されたことです」

「それって、古い血啜りの仕業……?」

「……そうですね……古い血啜りの仕業としても良いかもしれません」


 これは物騒な話だ。

 どんな怪物と戦ったのというのだろう。


 シトロイユは説明を続ける。

 死んだ剣士の中には、欠けてはならない戦闘員や管理職も混じっていた。

 この事件のせいで、ウトファル騎士団の屋台骨がガタガタになってしまったのだそうだ。


「何より、ウトファルでも殺せないバケモノが放たれたってのがまずい。精神的支柱を失った不安がそのままハーラン卿への不信へと繋がり、忠誠心の急激な低下が起こった、というわけです」


 そう言って、ゆっくりとシトロイユが振り向いた。

 そして彼は、クロエと私を見つめて、眩しそうに目を細める。


「さあ、お二人とも、こっちですよ! この道を抜ければ、砦から脱出できます」

「え……ここは……」


 シトロイユに連れられて私たちは山の側面に開いた穴に出た。

 斜面は緩やかで、少し荒れてはいるが人の歩けそうな山道がある。


「城下の村へ続いています。ここまで来れば大丈夫でしょう」


 シトロイユはベアトリスをクロエに渡す。


「ベアトリス……!」

「もう暫くしたら薬が抜けます。そうすれば、いつも通りですよ」


 安心したクロエはベアトリスを抱きしめて子供のように泣き出した。

 その様子を見つめながら、シトロイユはひどく優しい顔をした。


「さてと……俺は戻ります。足止め役は必要ですし、それに、理由があったとは言え、俺も逆賊です。仲間と共に裁かれる必要がありますからね。では皆さんを頼みましたよ、エーリカ様」

「シトロイユさん、どうしてそんな……。このまま一緒に逃げてしまえばいいじゃないですか?」


 私が問うと、シトロイユは困り顔を浮かべた。


「ははは、そこまでがお仕事なんですよ。損な役目ですがね。うまくこなせて上の人が話をつけてくれたら、また学園に戻れますから。そのときはさっきの話の続きができるかな……もしかしたらもう何も憶えてない状態になってるかもしれませんけど」


 そう言ってシトロイユはにっこりと笑ったのだった。


「では、ご無事で」


 その言葉を最後に、彼は隠し通路に消えていった。

 ゴトリと出口が閉じると、石の継ぎ目も分からなくなってしまった。


 ぐすぐすと泣いていたクロエが不意に空を見上げて指差す。

 彼女に続いて私も暗い空を見上げると、竜の声が聞こえてきた。


「……エーリカさん、お迎えが来たみたいだね」


 空には翼を広げた十騎の竜が舞っていた。

 竜たちは旋回しながらしだいに高度を下げてくる。


 北の旧砦には十騎の竜騎士が降り立ち、私たちは無事に保護されたのだった。

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