学園生活2
「さっきはありがとうございました、オーギュスト様」
「ん〜、何の事かな〜?」
初等召喚魔法の教室を出てすぐに、私はオーギュストにお礼をした。
オーギュストは照れ隠しのつもりなのか、露骨に視線をそらして知らんぷりだ。
「そういうところ、昔から照れ屋ですよね……」
「ふふふ、お前には敵わないな。まあ、役に立ったようで良かったぜ」
私は少しだけ意地悪い声音で言う。
オーギュストは目を伏せて、押さえ気味に笑った。
「でも、びっくりしただろ? あの授業は初等は初等でも、魔法使いの基礎ができてる前提の授業だからな」
「そ、そうだったんですか……」
「一年生のときに魔法概論で使ったノートがあるから、後で貸してやるよ」
「ありがとうございます」
オーギュストにお礼を言って別れ、私は初等錬金術の教室へ向かう。
錬金術の授業は機材の準備があるので、時間に余裕を持って行かなければならない。
せっかくの錬金術なんだけど、トリシアもハロルドも初等ではなく上級錬金術なのが残念なところである。
教室に足を踏み入れると、受講者は七割が西寮って感じだ。
その部屋は化学実験室みたいな造りになっていた。
広めの六人掛けのテーブルが幾つか配置されていて、それぞれの席に今回の授業で使う教材が置かれている。
置かれていた教材は、小さな木箱が一つと、小壜が二つ。
小壜のラベルには、ごく一般的な錬金術用薬剤の名前が書かれている。
でも木箱には「接触厳禁」というラベルが貼られているだけで、中身は不明だ。
接触厳禁とは、何だか不穏な予感がする。
顔見知り程度の生徒たちに軽く挨拶しつつ、着席する。
今度は何となく真ん中辺りに座ってみる。
たしか担当はコルネーリア・シュウィーフェルという女性の先生だった。
優しげな雰囲気の女性だったし、さっきの授業みたいな質問攻めはないといいなあ。
先生はまだ教室には到着していないみたいだ。
今のうちに、錬金炉などの器具をセッティングしておこうっと。
「授業で使う錬金炉を忘れた生徒は、今のうちに申し出るように」
革鞄から諸々の道具を取り出していたら、聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、短い黒髪の後ろ姿が見える。
「クラウス様? どうして錬金術の初等クラスにいらっしゃるんですか?」
「助手兼監視役だ。なんだ。俺がここに居ては不都合でもあるのか、エーリカ」
怪訝そうな目を向けられてしまった。
ヘソを曲げられると後が恐いので、私はすぐさまフォローしておく。
「いいえ、まさか不都合なんて……でも、どなたの助手兼監視役なのですか?」
「少し考えれば分かるだろう。俺にそこまでの強権を揮える人間なんて、数えるほどしかいない」
そう言って、クラウスは教室の入り口に視線を向けた。
つられて私もそちらに注意を傾ける。
豪奢な金糸で刺繍の施された紺色の上衣を翻し、長身の男性が颯爽と教室に入ってくる。
私と同じ色合いの金色の髪と緑色の瞳をした、甘めの顔立ちの美青年だ。
右目には魔眼仕込みの片眼鏡を装備して、口元には笑みが浮かんでいた。
年齢は二十代半ばだが、その笑顔はまるで少年のようにキラキラしている。
どこからどう見てもシュウィーフェル先生ではない。
いや、そろそろ現実を直視しよう。
入ってきたのは、私の兄、エドアルト・アウレリアだった。
どうしてお兄様がここに?
私が疑問を口にする間もなく、お兄様はずんずんと歩いて教壇に上がってしまった。
「やあ、ごきげんよう。可愛い後輩たち。初めての魔法学園を楽しんでいるかな?
初めましての人も多いだろうね。僕はエドアルト・アウレリアだ。
シュウィーフェル先生は実家の都合で急遽長期休暇をとることになったので、その間、初等錬金術の授業を担当させてもらう。
短い間だけど、仲良くしてくれたまえ」
満面の笑みでサービスたっぷり感のある挨拶を決めると教室の女の子から黄色い声が上がる。
「とは言え、僕は正規の教員ではないからね。至らないことも多いと思う。そんな時はどんどん気づいたことや分からないことを言って欲しい」
「は、はい! 先生は恋人をお作りにならないんですか!?」
挙手したのは、アウレリア出身らしい女子の集団の一人だ。
彼女たちはきゃーきゃー言いながら、英雄的行動を取った女生徒と顔を見合わせている。
「こらこら、質問は授業に関係することだけにしておくれよ。授業に関係ない質問は、僕が先生役をしていないときに行うこと」
お兄様は良く通る甘い声でそう言うと、片眼鏡を外してウィンクした。
女生徒たちのざわめきが一層大きくなる。
「そうそう、ゴーレム学のシュラムベルク先生と交互に担当することになっているから、僕が代理のときは休まないようにね?」
エドアルトお兄様が呼びかけると、女子たちは声を揃えて「はーい」と返事した。
あっと言う間に女子生徒たちの心をつかんでしまったようだ。
それはそうだろう。明らかにサービス過剰だからね。
何をやっているんですか、お兄様。
「エーリカ、眉間に皺が寄っているぞ」
「……っ!」
クラウスに指摘されて私は眉間を押さえる。
お兄様にキャーキャー言える女子に、無自覚に嫉妬していたのか。
ブラコンを自称していたら、本当にブラコンを拗らせつつあったらしい。
言霊ってあるよね。気をつけなければ。
クラウスはお兄様の自己紹介の間に、忘れ物をした生徒に錬金炉を配り終えたらしい。
手ぶらになった彼は、なぜか私の隣に座った。
「クラウス様、助手なら教壇に戻った方がよろしいのでは?」
「呼ばれた時にでも行く。だが、エドアルトも俺がここでお前を見張っていたほうが安心だと思うぞ。俺もお前から目を離すのは心配だ」
視線を教壇に向けたまま小声で問うと、そんな答えが返ってきた。
相変わらずクラウスは心配性だ。まあ、私が危なっかしくて信用がないだけかもしれないけどね。
教壇の上のお兄様は教卓の上にいくつかの器具を準備しはじめていた。
星水晶ランプ、黒い金属で作られた円筒、歯車と回転機構のついた台座、手のひらサイズのゴーレム。
器具の準備が済むと、お兄様は真面目な表情を作り、手の中で教鞭を弄びながら口を開いた。
「この初等錬金術で僕が教えるべきことは何だろう。教科書の中身か、それとも実験用具の正しい使い方か。僕は君たちに、未知の領域に踏み出すための心構えを教えたいと思っている」
そう言って、お兄様は教鞭を掲げた。
あれ? よく見ると、いつの間にか教鞭だったものが、短杖にすり替わっている。
お兄様が一度だけ杖を振ると、複数の魔法陣が一度に展開した。
私も使ったことのある、見えざる指の呪文だ。
しかしこれは、多重化・広範囲化された特別製の短杖みたいだ。
たくさんの見えざる指によって、カーテンが一斉に閉まった。
真っ暗になった教室の中で、教卓の上の星水晶ランプの青白い光だけが周囲を照らし出している。
お兄様はランプの上に黒い覆いをかけ、光を遮ってしまう。
いや、よく見ると、完全な暗闇ではなく、わずかな光が見えた。
歯車機構の中でゴーレムが動き始める。
天井に投射された光もまた、よく見なければ気づかないほどの速度で、ゆっくりと回転し始めた。
よく見るとそれは、この世界の星空を精巧に模倣していた。
お兄様お手製のプラネタリウムだったようだ。
「錬金術において、世界は全て原型から投影された歪んだ式であるとされている。この星空の幻灯で喩えると、ランプが原型で、僕たちの世界は投影された一粒の星の幻影に過ぎないということになる」
偽りの星空の下で、お兄様はゆっくりと語り始めた。
「錬金術師の目的は原型に辿り着くことだ。そのためには、原型に至る式を解かなければならない。しかし、原型とは何か、どうすれば至れるのか、実は全く分かっていない。そこで錬金術師は、一つの物質を道標に定めた」
お兄様は言葉を切り、手元の装置に何かの操作を加えた。
極星にあたる一筋の光が、黄金色の、強い輝きを帯びる。
「それが黄金だ。故に僕たちは、黄金の錬成を目指している。
原型へ、そして黄金へと至る道は遠く険しく、誰も正しい道筋を知らない。目標が間違っているかも知れない。道そのものが閉ざされているかも知れない。しかし、その道が間違っていることすらも、歩き出さなければ分からないんだ」
もう一度、お兄様が装置を操作すると、黄金色の光が消える。
代わりに星の数が何倍にも増え、元々見えていた星はより強く輝き始めた。
山奥で見るような、満天の星空だ。
「それは現在はただの模倣でしかないが、目標とするものは大いなる再創造への挑戦だ。
原型を造りし神がいるならば、その御業に。
原型によって創造された遥かなる上位世界があるならば、その境地に。
例え届かぬ一歩であっても、恐れずに踏み出していく。
そんな蛮行とも思える無謀な挑戦こそ、本当に素晴らしいと僕は思っている」
お兄様がもう一度杖を振ると、カーテンがさっと開いて教室が明るくなった。
生徒たちは眩しそうに目をぱちぱちさせながら、どこか夢から覚めた直後のような表情をしていた。
エドアルトお兄様は生徒たちを見回し、優しい声で語りかける。
「君たちもいずれ、先人たちの足跡がつけられていない、未知の領域に踏み出さなければならない時が来るだろう。
正解なんて分からない、何処かに辿り着ける保証もない、道標のない荒野だ。
そんな時にこの授業のことを思い出して、未知の領域に挑むための勇気のほんの足しにでもしてくれたら、とても嬉しく思う」
お兄様は夢想家のような表情で遥か彼方を見つめ、そんな言葉で締めくくった。
私は今まで、生存のために実用性重視で錬金術を学んできた。
錬金術にはお兄様の言うような、夢想溢れる側面もあったのだと今更ながらに思い至った。
すっかり慣れたつもりの錬金術だけど、新鮮な気持ちで学べそうな気がする。
不意に、お兄様はポンと手を叩いた。
私も含め、生徒たちははっとして姿勢を正した。
「さあ、先人たちの足跡、その一歩目だ。君たちにとっては未知の領域だが、安心して踏み出したまえ。テーマはコッカトリス。みんなも知っている石化の魔獣だ」
お兄様は教壇を下り、ゆっくりと実験テーブルの間を歩く。
「コッカトリスという魔獣はとても危険だ。それは君たちがご存知の通り、その全身に余すところなく石化の能力が備わっているためだ。特に石化の力が強い部分が背骨で、自然に化石になった場合、更に力が濃縮されると言われている」
お兄様は歩きながら、錬金術師の手袋を脱ぎ、別の手袋を取り出した。
普段のお洒落なデザインの手袋と比べると、かなり無骨な作業用の手袋のようだ。
「この素材は少々取り扱いに危険を伴うが、抽出できる呪文はシンプルながらもエレガントで、初めて錬金術効果を抽出する練習に適している」
お兄様は作業用手袋を身につけ、手近な生徒の前に置かれていた箱をとんとんと指先で軽く叩いた。
「さて、君たちの前に置かれている箱。ずっと気になっていただろうね。この中には、コッカトリスの背骨の化石が入っている。そこに書かれているとおり、とても危険だから、指示があるまで触れないでね? 石化解除薬は準備してあるけれど、それでも触るのはお勧めしない」
「どうしてですか?」
お兄様の目の前に居た生徒が挙手して訊ねる。
その質問に、お兄様はわざとらしく悪そうな笑みを浮かべた。
「それはね。この薬がとても苦いからだよ。大人しく石化しておけばよかったと後悔するくらい」
重々しい声音でお兄様が冗談を言うと、教室にどっと笑いが起こった。
お兄様はポケットから解除薬の実物を取り出し、各実験テーブルに置いていく。
「主な材料はマンドラゴラとトカゲ。酸性の成分やヘンルーダの精油などを混ぜると効能が大きくなる。緊急時に調合する場合は、溶媒を一般的な食酢などで代用してもいいだろう」
教室を一周したお兄様は再び教壇に上り、チョークを手にした。
お兄様は喋りながらも、黒板に実験の目的や手順を書き込んでいく。
「さて、そろそろ実験に移っていこう。教本の六ページを開いてね。目的はコッカトリスの化石に含まれている停止の効果を分離して溶媒の中に呪文として固定し、金縛りの水薬を作ることだ。この中で錬金炉で水薬を作ったことのある人は?」
質問には生徒の八割くらいが手を挙げていた。
私は挙手を躊躇っていた。
錬金炉は何度か使ったことがあるけれど、水薬の作成までは成功したことがないんだよね。
「素晴らしい。勉強熱心な生徒が多くて先生は嬉しいよ。それでは、錬金炉に火を入れていこう。経験者は未経験者を手伝ってあげてね」
再びお兄様は実験テーブルの間を歩きながら、生徒たちの様子を見て回る。
お兄様やクラウスが何人かの生徒を手伝っていた。
全員の準備が完了したのを確認し、お兄様は生徒たちに呼びかける。
「さあ、木箱の蓋を開けてみよう。まずは僕がしているのと同じ手袋が入っているはずなので、中蓋を開ける前にしっかりと装着してね」
「先生、手袋がありません」
「おっと、それは大変だ。予備の手袋をあげよう。他に手袋がない人がいたら手を挙げて。手袋をした人は先に中蓋を開けて、直接触れないように気をつけながらフラスコに入れておいてくれたまえ」
クラウスに指示を出し、手袋を配っていく。
私のところにはちゃんと手袋があったので、次の工程に進もう。
作業用の手袋につけかえて、内蓋を開ける。
ほんの三ミリ四方程度の化石の欠片が綿の上に乗せられていた。
この程度の大きさでも、なかなかお高かったはずだ。
王立だけあって、魔法学園は良い教材の大盤振る舞いである。
「まず、フラスコの中にコッカトリス化石を入れたら、第一薬液を一壜分入れて加熱を始めよう。しばらくしたら、基礎となる魔力の流れが発生するよ」
ピンセットを使って慎重にコッカトリス化石をつまみ上げ、水晶で出来た卵大の丸フラスコに移動した。
液がはねないように注意しながら第一薬液をゆっくりと投入し、フラスコを炉に入れる。
しばらくすると、錬金炉の表面にアウレリアの魔法文字の断片のようなものが浮き上がって来た。
これが基礎の魔力の流れの発生と言うわけか。
「次に、ピペットを使って安定剤である第二薬液を一滴加え、六ページに書かれた呪文を構築していくんだ。この時、絶対に錬金炉を密封した状態で構築を行うように」
錬金炉を開き、第二と書かれた壜からピペットで一滴加える。
二種類の液が混合された瞬間、紫色の煙がポンと吹き上がり、液の中で小さな光が瞬いたように見えた。
慎重に薬液を加えていると、錬金炉の向こうにお兄様の姿が見えた。
お兄様は私のところで立ち止まり、手元を覗き込む。
「素晴らしい。そのまま丁寧な仕事を心がけていれば、いい錬金術師になれるよ」
「ありがとうございます、先生」
お兄様の優しい笑顔に、にっこりと微笑み返す。
兄は褒めて伸ばすタイプである。
お世辞成分が多めだと分かっていても、何となく乗せられてしまう。
お兄様は他にも目についた生徒たちに声をかけながら、教室を回っていく。
「錬金炉による呪文構築が乱れやすい人の場合は、第二薬液を少し多めを意識して、何度かに分けて入れてみてね」
私はかなり多めに第二調合液を入れた方がよさそうだな。
何度目かの第二薬液滴下の際に、混合液をじっくりと観察する。
そろそろ大丈夫かな?
基本となる魔力の流れに、私は呪文を組み込んでいく。
すると錬金炉の表面や周辺に、私が念じていた呪文が文字や線形として現れては消えていった。
やっぱり呪文が歪んで壊れてしまうみたいだ。
それでも私は何度も慎重に呪文の構築を繰り返した。
それは何度目だったろう。
目の前で、またしても構築しかけの呪文が乱れ、魔力の流れそのものすら掻き消えそうになる。
私は歪んで壊れそうになった呪文を、とっさに抑え込んだ。
ああ、この歪みさえ無ければ──
☆
「では、諸君、また四日後の授業で会おう!」
次の瞬間、私が目にしたのは、エドアルトお兄様が授業終了の挨拶を行っている姿だった。
隣を見ると、クラウスが数枚の犢皮紙に何か書き付けていた。
おや、さっきまでコッカトリスから停止効果を錬成してたはずでは。
クラウスは私に気づいて顔を上げた。
お兄様もほっとした表情で近寄ってくる。
「やっと元に戻ったようだな」
「……もしかして」
「錬成された停止効果を受けて、ずっと動かなくなっていたんだ。もう二度と錬金炉内の呪文構造に直接干渉したりしてはいけないよ」
そうだった。
崩れかけた呪文を、つい弄ろうとしたんだった。
「でも、授業が終わるまで固まっていたなんて、どういうことなんですか?」
クラウスがいるならあっというまに解呪出来そうなのに何故だろう。
そう思いながら問うと、クラウスは気まずそうにちらりとお兄様に目配せした。
「あのね、エーリカ。クラウス君は何度も全力で解呪してくれたんだけど……」
「悪かった。俺の力が足りなかったようでな」
「いえ、その……クラウス様なら私の未熟な呪文なんて、あっという間に解呪できると思っておりました」
「お前の錬成した停止効果は異常なレベルの金縛りで、最上位の解呪呪文を弾くほど頑強だったんだ」
言われてみれば、さっきの停止状態って時間経過の認識すらなかったんだよね。
体は動かせなくても、精神や内臓などの非随意な器官は動くというのが通常の金縛りの効果だ。
なんでこんなときに限って無駄に強力な効果が発生してしまうのか。
「せめてもの詫びにと思って、今回の授業について俺なりにまとめさせてもらった」
クラウスは几帳面な筆致で授業内容のまとめられた犢皮紙の束を手渡す。
さきほど心の中で悪し様に罵っていたのが申し訳なくなる。
「僕も解呪用の特化型短杖を作ろうかと思ったんだけど、クラウス君に諌められてね」
「いえ、それは本当にやめて下さいね、お兄様」
授業を中断させて、人気の先生を独り占めしていたなんて悪評がつきそうだ。
ただでさえ、お兄様は私に甘いのに。
「でも、さすが僕のエーリカだね」
そう言ってエドアルトお兄様はふわりと微笑むと、私の髪を優しく撫でた。
んん? 撫でてもらえるのは嬉しいけど、一体何が「さすが」なんだろう。
「なんだ、エーリカ。お前、気づいていないのか?」
「何にです?」
「エーリカが停止していたのは、錬成された効果が媒体に溶けず、直接干渉していた君のほうに流れ込んできたのが原因なんだ」
「効果そのものが異常に強力だったことと、薬液ではなくお前が停止効果に晒されたこと。この二つを除外して考えてみろ」
お兄様とクラウスに言われて、私ははっと気づいた。
「あ、私……錬成に初めて成功したんですか?」
失敗にばかり気をとられていて気づかなかった。
胸の奥から、じんわりと嬉しさがこみ上げてくる。
どうせ何も起こりはしないと諦めていたのに。
「おめでとう、エーリカ」
「やっとお前の苦労も報われたな」
どこまでも甘く優しく、私を祝福してくれるお兄様。
そして、クラウスもまた、普段の彼からは想像できないほど優しい表情で微笑んでいた。




