ピエロな彼女 1
しつこいようですが、ほとんどヤンデレないです。
それでもいいという方は、そのままどうぞ~
「……あなたのことが、ずっと前から好きでした」
「…………………あ、あぁ…」
告白の有名な台詞が、俺の耳に響きわたる。茜色に染まる頬が、けして冗談ではないことを物語っていた。
よく晴れた初夏の夕方、西日のきつい放課後の学校。
その中でも特に太陽が照りつけるであろう屋上。
じりじりとその屋上にいた二人の頬を汗が伝いながら。
「……もしよかったら、監禁させてください」
「…………………え、はい?」
俺達の恋は、そんなところから始まる。
△▼△▼△▼△
大きな日陰を作りだし心地よい風が流れる学校の校舎裏は、この暑い夏を乗りきるのに抜群のクールスポットだ。
俺の通っている高校は歴史が古く、建物のつくりは現代に比べるとけして効率がいいとは言えない。そのため窓なんかは夏の熱気や冬のすきま風が半端ではないのだ。なので生徒達からは窓際の席は嫌われている。
もちろん窓からしてなっていない学校の教室には、クーラーやヒーターなどの空調はほとんどついていない。
今日のような特に気温が激しい日は、室内にいた方がかえって熱中症や脱水症状を引き起こしかねないだろう。
しかし意外にも、この学校の生徒達はここが最高のクールスポットだという事実を知らないのだ。ここなら誰にも邪魔されずのんびりとした時間を過ごせるので俺は気に入っている。もちろん夏限定だ。冬は地獄に変わる。
そんな諸事情を考え、俺達はその校舎裏で昼食を取っていた。
俺の隣には、うっとりと箸先を眺める少女が一人。
「このまま白崎君を牢屋で独り占めしたい……」
「萩村、怖いことは言わないでくれ…」
よく晴れた平日の昼下がり。
俺と俺の彼女、萩村 茜は二人で校舎裏のベンチで昼食をとっていた。
「本当だよ、そのまま二人で真っ赤な恋をするの」
「うん、それ物理的じゃないよな……?」
「包丁を片手に…」
「はいアウトぉぉぉおお!!」
隣でとてもおっかないことをサラッと言いながら、萩村は弁当をわざとらしく頬張った。
学校の屋上で萩村に告白された時の事は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
漆黒に染まるロングストレートの髪は光を浴びて艶やかに輝き、名の通り茜色に染まる宝石のような切れ長の瞳は見つめたものを確実に射止める。
何をやっても完璧で、何事も恐れないクールなところを目の当たりにして、当時の俺は体内に電流が走った。
しかしさすがは美少女、他の男子もみんな同じようなことを考えていたようで、過去にアプローチした勇者はたくさんいるらしい。
それを萩村は軽く弾き飛ばす程の鉄壁の要塞。
チキンな俺は半ば諦め、時折視線を送るくらいのことしかしてこなかった。
そんな萩村に屋上で告白された時は、まさに天にも昇る気持ちだった。
何故俺だったのかは知らない。今でもそれだけは教えてくれないのだ。
でも死ぬほど嬉しいのは事実で、むしろこのまま死んでもいいかもしれないとまで思った。
あの一言を聞くまでは。
『もしよかったら、監禁させてください』
舞い上がる俺を一瞬で凍てつかせる「監禁」の二文字。
「付き合う」の言葉を萩村なりに解釈したのかと思い、そのまま快くOKをだすと本当に首輪や手錠をかけようとする始末。
萩村の新たな一面と共に、人生の三途の川を見たような気がした。
なんとかなだめ、付き合うようにはなったものの、デレると同時に病んだ台詞が俺の心臓を突き刺すような毎日が俺を襲う。
正直病むのだけはやめてほしいし、最近は暑さのせいもあってかイライラは増すばかりだが、彼女が俺が惚れた「萩村 茜」なんだ、と心に言い聞かせ、今はまだ耐えられている状態だ。でもいつ破裂するかわからないので、止めて欲しいにこしたことはないのだが。
「何でアウトなの?真っ赤な花がたくさん咲いて凄く綺麗。何も恐れることはないのでは」
「俺はその花の二分前がとても恐ろしいと思うんだ…!」
「?」
まるでわからないという風に首をかしげる萩村。
付き合うどころか生きていくのが危うくなってきたな……ここまで来るとイライラを通りこしてすっきりするくらい。
そのあともしばらく萩村に振り回されながら話していると、午後の授業が始まる五分前の予令が校舎内に反響する。予令の音は開け放たれた窓を通じて、俺たちの方まで届いた。
その音を聞いた俺たちは急いで弁当箱を片付けると、灼熱の校舎の中にゾンビの如く吸い込まれ、消えていった。
次の授業は数学。とてもきつい物になるだろう。
△▼△▼△▼△
ここ数日は、特に何と言ったこともなく過ぎていった。
俺のイライラや萩村の病みっぷりも健在。むしろこの暑さによってよりその拍車をかけているくらいだ。
「白崎君、ちょっと」
そんな萩村が4時間目、社会の時間に俺に話しかけてきた。
何かと思ったら、こっそりと先生にばれぬよう、俺の机の上に小さな紙切れを置く。
「見ろ」ということらしく、仕方なく紙切れを開いた。
『子供一人につき手足一本♪』
「……どういうことだぁ!?」
「うわっ、どうした白崎?」
俺の突然の声に驚いた親友の新田 明孝が、前から顔を向ける。気さくで気の回る奴だが、ぶっ飛んだことを言ったりするのでこちらも対処に困る時がある。正直今はあまり相手にしたくない。
明孝はそのまま萩村が書いた紙切れに目を通し、
「クククク……お前愛されてんなぁ」
「どこがだよ。手足だぞ手足!しかも子供て……」
今日一番の馬鹿げた台詞が飛んできた。
隣の萩村も前の黒板をボケっと見つめ、頬にはわずかな紅潮が見られる。萩村の意図はなんとなく察したが、一体こいつはどこまで考えてるのか。少し呆れてしまう。
でも子供と俺の手足は関係ないだろ。
「お前、バカだなぁ。こいつはいわゆる『ヤンデレ』って奴だ。殺したくなるぐらい好きって証だよ。まあ実際にされたらたまらないけどな!」
「それは激しく同感だ」
「だろ!?あの首輪で締め付けられる感覚とか絶対気持ちいいぜあれ!包丁で俺の一部を削ぎ落として、血のついた包丁を恥じらいながらも舐め上げる……考えただけでゾクゾクするぜクゥ~~!!」
「………………」
やっぱダメだわこいつ。たまらないってそっちかよ…
これ以上相手をしていても明孝の評価がガタ落ちするだけなので、無視して萩村の紙切れにささっと殴り書きした。
『授業中だぞ いつまでも病むのは止めろ』
十秒ほどで萩村から返しがくる。
『私は五人くらい欲しいナ』
…まさかの無視だった。
『俺の手足が足りないだろ! ホントにやめてくれ』
『やめてくれ=やってくれ→やらないか 白崎君は攻めなの?』
『無視するな ホントにやめろよオイ』
『ちゃんと答えないと困』
「いい加減にしろよっ!!」
……気づいた時には声を張り上げていた。
先生を始めクラスのみんなが俺に視線を向ける。ヤンデレに悶えていた明孝やメモを書いていた萩村も、隣でいきなり怒鳴られて体を硬直させた。
この空間だけ、一瞬時が止まる。
やってしまった。
けれども時計はまた進みだし、やり直すことは不可能だった。気づいた時にはもう遅い。
「……あ、いや何でもないです。すみませんでした……」
「どうしてくれるのよ白崎君?みんなの時間が失われたじゃないの」
学級委員である黛 琴実が、自慢の眼鏡をくいと持ち上げながら俺を睨み付ける。校則などの規則に厳しく、それゆえ常に正しい黛の言うこと、怒られるのも当然だ。
「白崎君は罰として、廊下に正座してなさい。先生、授業を進めましょう」
「あ、ああ……すまないが白崎、廊下に出ててくれ」
出来る女・黛は、時間が無駄にならぬよう的確に指示を出していく。俺も先生の指示通り、廊下に行くため席を立った。
そして席から離れる俺を見つめる萩村に一言告げる。
…………もう限界だ。
「……この授業が終わったら話がある。そのまま廊下で待ってるからな」
いつもクールで無表情にも等しい萩村が、今にも潰れてしまいそうな、折れてしまいそうな悲しい表情を浮かべていた。
△▼△▼△▼△
みっちり正座を20分。
そろそろ足が痺れてイライラも溜まってきた頃に授業終了の鐘が鳴る。勢いをつけて立ち上がると、急に血流が良くなることでさらに痺れは俺に牙を向いた。
そのせいと言うべきかそのおかげと言うべきか、さっきまでの黒い感情は未だに心の中で暴れている。何か燃焼しきれないモヤモヤが暴れまわるようで、とても気分が悪かった。
痺れが酷くならぬよう慎重に足首を回していると、教室から大勢がいくつかのグループを形成して出ていく。
そのほとんどは手を洗いに行くか別の場所で昼食を取るのだろうが、みんな決まって俺に奇異の視線を向けていくので、虫の居所が悪い俺はすかさず睨み返してやった。
やがてその人混みの中から萩村は出てきた。いつも堂々とした振る舞いでたたずむ姿勢のいい彼女だが、今ではその勢いも完全に収まっている。
むしろ近くの生徒を盾にして、顔だけをこちらに出して様子を伺うという怯えぶりだった。
「……で、どうしたのよ白崎君。授業でもいきなり叫びだしたし……」
……萩村に盾にされた本人である黛は、背後で怯える萩村と俺とを交互に見比べながら問う。その額には青筋が見えなくもなかったが、どうやら相当お怒りのようだ。
しかし今は黛に興味はない。
「黛、ちょっと外してくれないか。俺と萩村の話なんだ、お前は関係ない」
「学級内の揉め事に学級委員が関係ないわけないでしょ。それに私は授業中のあの怒声についても怒ってるの。あれのせいでみんなの時間が減ったって言うのに…」
「叫び声については本当にすまないと思っているが、これは俺達二人の話なんだ。お前が介入すると今度は俺達の時間が減ることになる」
「ぐっ……………分かったわ。話には介入しない、けど席を外すのは断るわ。変な方向にこじれてさらに悪化するのは学級委員として見逃せないもの」
まあ、それくらいが妥当だろう。
黛は俺の沈黙を肯定と見たのか、そのまま萩村をそっと話して数歩後ろに下がり、少し遠くから傍観する形に入った。
俺の目の前には、その場に取り残されてうつむく萩村が一人。
俺は相手にも理解できるようゆっくりと、しかしトゲのある少し乱暴な口調で話し始めた。
変な終わり方ですみません。
3DSなのであまり長文が書けないのと
全て書いてから投稿すると企画に間に合わなくなるので
このような対応をとらせていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
続編の2もなるべく早く出そうと思います。