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Dear Diary,  作者: 時雨氷水
6/16

六日目:旅と暇の後、悪意の真っ只中からお送りします

Dear Diary,


おはよう、私の日記。 今日は朝も早よから起きた。 いつも早いのだが、今日は王都へ行くのでご主人様もわりと早めに起きねばならない。 つまり、そのお世話をする私達はそれ以上に早く起きなければならないのだ。 結構眠い。 だが、ご主人様の麗しき御姿を見れば眠気などいつも吹き飛ぶ。 


という訳で、これから昨日詰めておいた、ご主人様と私の荷物を馬車の一つに置きに行くついでに、私の朝食を摂りに行く。 ご主人様は寝起きに食欲が沸かないタイプであらせられるので、お抱えのシェフさんが特製弁当を作ってくれている手筈だ。 ……というか、低血圧なのか、いつもの時間でも寝ぼけがわりとやばい。 プラス、一度起きると夜まで頑として寝てくださらないので、今日は疲れと相まってたぶん馬車内の一点をじーっと見つめてるだけになるだろう。 あれ結構怖いから、わりと本気で寝ていただきたいのだがなぁ。








最初は煩わしかった蹄の音も、今……そろそろ昼に差し掛かる頃にもなると、慣れてきた。 安い馬車でこんな距離を移動すると考えただけで尻が痛くなるが、ご主人様に同乗させて頂いているのでそんな事は無い。 しかしわりと本気で、安いのでもいいから別のに乗りたい。 ご主人様の事は心の底から愛しているし尊敬しているが、疲れと眠気が変な方向に出たのか、やたらと絡んでくるのといきなりスイッチ切れるのを繰り返すのにもう付き合いたくない。 誰か助けて。


と、関所が見えてきた。 あそこは王都方面へ向かう人をチェックする所なのだが、いつもついでにご主人様がちゃんと来てますよーって事を報告していると猫の同僚さんから聞いた。 溜まり場だけあって街も(簡素ではあるが)ちゃんとある。 ちなみに同僚さんは猫耳ではない、二足歩行のリアル美人長毛猫だ。 もふもふだ。 いきなり抱きついても嫌がらない良いヒトだ。 種類を付けるとしたら“ノルウェージャン・フォレスト・キャット”だろう。 いやしかし、ご主人様の今の状態で関所に入っても大丈夫なのだろうか。 今は完全にスイッチが切れているのだが。 というか昼食はここで食べてるらしいんだが、どうしよう。




心配する必要などなかった、さすがご主人様。 関所ですよ、と申し上げたらいきなり背筋を正された。 昼ごはんを食べて、街を抜けたらすぐに絡んできたが。 とりあえず、なんでお前はそんなに可愛いの、と言いながら頬をむにむにするのは止めていただきたい。 噛み付こうとするのも止めていただきたい。 だってこんなおっさんに対して可愛いと言われても困るだけだし。 


そもそもおっさんが可愛いとか無い。 肌のハリも落ちているというのに。 可愛いというなら、どちらかと言うとご主人様の方が可愛い。 寝ぼけてる所も可愛いし、嫌いな物をこっそり私に食べさせたりするのも可愛いし、失敗すると僅かに“ヤベ”って顔なされるのも可愛いし、寝顔も可愛いし、匂いも可愛いし、キリってしてる時と“プライベート”の時の“ギャップ”も可愛いし、“シンプル”かつ肌触りの良い肌着を好まれるのも可愛いし、意外と甘党なのも可愛いし、好きな物を前にした時の輝く笑顔も可愛いし、もちろん本来の御姿も可愛いどころか愛らしいし、まあ何が言いたいかというと存在自体が可愛い。 全てが可愛らしく凛々しく美しくまさに完璧、まさに至高。 でも悪酔いの時はわりとめんどくさい。 偶になられる悪酔いの際の泣き+絡み上戸は最悪である。 でも好き。


基本的に、道中は暇なものである。 もちろん“3DS”などないし(攻略中だった赤い帽子のお髭のおっさんのゲームはどうなったのだろうか)、備え付けの“テレビ”も“CDプレイヤー”も“MP3プレイヤー”ももちろん“パソコン”だってない。 同乗者が居れば話す事が一番のご楽である。 のんびりしたものだ。 居ないと寝るか妄想か“タルパ”を作ろうとするか本を読むか滾る暇という欲望を創作活動にぶつけるかしかない。 余談だが、生き物を殺す最大級の無味無臭な劇薬とは、暇であるという。 ご主人様のスイッチが入ってる合間は大人しくさせる使命があるのでそうでもないが、切れてる合間だと途端に暇になる。 日記を書くのも良いが、ずっと書いてると書くことが無くなる。 これといったイベントなんてないし。






夜遅く、ようやく王都に入った。 これでわりと近い方だというのだから、他の方々の事を考えると合掌したくなる。 そこから待たされること何十分、部屋が用意されてるとのことで王宮まで行った。 どこでもお役所仕事はこんなもんか。 この時間にもなるとさすがにご主人様も覚醒していた。 王宮はなんというか、ご主人様の城よりすごかった。 趣味が悪い適な意味でなく、本来の意味で。 そう、例えばそこらに置いてある調度品の一つ一つが、ご主人様の持ち物と同じレベルと言えば分かるだろうか。 さすが、ある所にはある物だ。 ここで働いている方々は心臓に毛が生えているに違いない。 わりと本気でそういう種族の方もいらっしゃるだろうが。 そうは思わないか、私の日記よ。


いやしかし、主が人間嫌いなだけあって、私に向けられる視線が痛いことこの上ない。 培ってきた演技力で無表情は保てているが、内心はビクビクものだ。 さらにご主人様は好かれているらしく、彼の方ににこやかに話しかけては私を見下してくるのがかなり多い。 一度、ご主人様と離れた際に



「人間のくせに自ら身を引こうとも思わんとは、おこがましいにも程がある」



とかなんとか面と向かって凄まれた。 表面上はふーんで済ませたが、わりと本気で泣きかけた。 おこがましいとは欠片も思っていないが、怖いのは怖い。 


一応言っておくが、私達の関係は、言わば仕事上利益があるから共に居るのと同じ事だ。 それでおこがましいと言われても困る。 むしろこれで私が身を引いたら、多分ご主人様は怒る。 そして怒ったご主人様程私は恐ろしいものを見たことがない。 地属性だけは敵に回してはいけない、と昨日買った本に書いてあったのも納得できる恐ろしさだった。 一つだけ言うと、食べる物に毒を挿れるとかそんなレベルじゃなく、対象の口にする物全部を対象だけに効く毒にする。 しかも反応は出ないし、味も変わらないので気付けない。 まさに暗殺ってレベルじゃない。 


そういえば、特に上記の事を言いつけたわけでもないのに、何故かご主人様と一緒の部屋に寝泊まりする事になった。 もちろん、普通の使用人は使用人用の区域で使用人に相応しい待遇を受ける。 私のような奴隷階級は、魔物や魔族ならともかく、馬小屋を与えられれば上等な方である。 ちなみにご主人様の領地では、そんな事をしたら厳しい罰が待っている。 なんでもつい最近、法が改定されてそうなったらしく、風呂掃除担当のおっさんが喜んでいた。 今はもう、家も財産も持てるし、ある程度の権利と自由は認められているとの事。 給金を貯めて自由になる事もできるようになったと言っていた。 


そういえば、ご主人様に同じ寝台で寝ろとも仰せつかっている。 絨毯も良い物であるため、ぶっちゃけ床でも良いのに(ふかふか度が絨毯のくせに私の寝台より上なため)、ご主人様はやはりお優しい方である。 ついでに言うと、この日記は、ご主人様を寝かしつけた後月明かりで書いている。 


明日はご主人様の起床をお手伝いした後、基本的に部屋にて待機となると聞いた。 ただ、幸いご主人様にお仕えしてくださる現地の奉公人さんは特に人間嫌いではなく(それに結構可愛らしい、見てるだけで幸せな気分になる)、暇ならで良いんですがとなんとも控えめに前置きした上で明日お仕事を手伝わないかと聞かれた。 掃除や洗濯程度だが、一日何もせず過ごすより余程楽である。 やはり常時上流階級に仕えていると、気遣いも一流の物になるのだろう。 


というか、“ポーカーフェイス”にはわりと自信があったのだが、さすがは王宮勤め。 そんなもの容易く見破ってくる。 可愛くて優秀なんてさぞや“モテる”だろうな。 むしろもう恋人がいるかもしれない。 私は恋人なぞ居なかったが、もし結婚していたとしたら、彼女のような娘が欲しいと思う。 しかし結婚か。 人間は近くに居ないし、するとしたら異種間になるな。 出来れば爬虫類系か猫系が良い。 ハーフが居ると聞いたし、子は一応は成せるのだろう。 ならば問題はない。


それでは、今日はこれで終いにする。 お休み、私の日記。



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