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Dear Diary,  作者: 時雨氷水
4/16

四日目: 街に下りてみた、ら変な人に会った

Dear Diary,


朝。

ご主人様は今日を含め後四日で居なくなってしまわれる。 嫌だが仕方ない。


今日は昨日決めた通り、街に出ようと思う。 初めての一人街だ。 大通りしか歩く気は無いので、特にヤバイ事には巻き込まれないだろう。 ああ、もちろんちゃんと朝の奉仕は終えている。 今日もお美しくかつ可愛らしかった。 紺色の制服から一般的なシャツ、スボン、ロングブーツとコートに着替えて、昨夜準備しておいた、財布やらを詰めた小さなバッグとこの日記を持つ。 基本的な色合いは茶色と灰色で、首輪だけが黒色だ。


ああそう、私は名目上奴隷としてここに居る。 奴隷は全員、所有者のイニシャルが掘られたプレート付きの首輪を付けた上、脊髄上の何処かへの刻印が義務付けられている。 逃げたり逆らったりしたらこの刻印を介して場所を特定したり、殺したりする訳だ。 大体は首の付根だったり肩甲骨の合間(私もこれだ)だったり、犯罪者とかになると手の甲だったり顔だったりするのだが、性奴などは体の下部に入れられる事もある。 


城の中はご主人様の部下達のみしかいないから、首輪は付けなくても良いのだが、外にはヤバいのも居るから刻印だけじゃ何が起きるか分からない。 よって常に付けていろと命令を受けている。 ご主人様以外の命令なぞ聞かなくても良いと言われているし、強制権を持っていたとしてもどうにか出来るから特に意味はないが、ご主人様がつけろというならむしろ進んで付けよう。 というか、城の中でも本当は付けたい。 いつもご主人様の物だという事を実感していたい。 しかし付けているのを見ると、ご主人様が悲しそうになされるが故、外している。


さて、散策に出発だ。 どうせこの街は広いので、私の足では一日で回り切れない。 なので明日の暇も潰せるだろう。 しかしまずは、預かり所か。 基本的に金なんて使わないので、どれくらい溜まってるかすら分かってない。 結構貯まってたら、ご主人様に何かお土産を買うのも良いかもな。







結構どころかかなり貯まってた。 びっくりした。 振込金額が、なぜだか国の平均的給金額と同じなのにもびっくりした。 居候の立場なのだから、小遣い程度で良いと上司さん及びご主人様に言っておいたはずなんだが。 これはもう、何か買って帰るしかない。 


上司さんはロリボディーに似合わずザル通り越して枠なので、酒なら何でも喜んでくれるだろう。 問題はご主人様である。 もちろんお酒はお好きであらせられるが、彼の方は上司さんとは違い質を重視なされる。 いや、もちろん上司さんも良い酒の方を好んでいるが、よほど酷くなければなんでも呑む。 


そうだ私の日記よ、上司さんは金髪“ツインテ”と青い目のテンプレ的幼女だ。 しかしツンデレではない。 酔った時限定だが、むしろセクハラしてくる。 しかしわりと下手だ。 その気がないご主人様の触り方よりも下手だ。 あそこまで行くと一種の才能としか思えない。 そして何故か脱ぐ。 外で呑んでも脱ぐらしく、同僚の一人が常についていくそうだ。 ただ、人の胸を揉むのは止めてほしい。 一応これでも男なのだから。 尻を揉むのも止めて欲しいけれども。







諸々を踏まえ、偶然良い感じの装飾具の店を見つけたので、上司さんへのプレゼントは可愛い蝶々型の髪留めを贈ることにした。 少し嫌がらせも入っているのはお約束だ。 そんな事より、二つでセットになっていたので、ちょうどいい上お得感がバリバリだ。 後はバナナでも贈ろうか。








お腹がすいたので、昼にする。 わりと寒いので、店に入ることにした。 人が多い所を選んだから、外れはないだろう。 が、レンガ造りの可愛らしい建物に似合わないその名は【この下郎が!】。 客に喧嘩売ってるとしか思えないふざけた名前だが、ツンデレな店員さんと美味しい料理を売りにしている店だそうだ。 メイド喫茶の上位互換版といった所だろうか。 こちらの世界にもそんな物があったことにびっくりだ。


寒い中大人しく並んで待ち、温かい店内にてようやく座ると、さっそく店員さんが品書きを持って来た。 緑色の髪、柔らかい花の香、そして所々に出ている樹の枝と薄紫の花々を見るに、ドリアード……木の精霊だろう。 彼女らは基本的にのんびり屋で、無害な種族だ。 雄は生まれないが故に、多種族の男を誘って種を貰う。 そして娘は同じドリアードに、息子は種を貰った男と同じ種族になるのだ。 だから、いくらこんな店と言っても……と思った私が馬鹿だった。 以下が私の記憶から書き起こした会話の記録だ。 ちょっとぐらい違っても許してくれ。


「ふん、新しいヒトね? 特徴のない顔だこと、まあいらっしゃいませぐらいは言ってあげなくもないわ。 精々金を落として行きなさいな? ああそうそう、こんなに上等なものなんて貴方みたいな下郎ごときが食べた事なんてある訳ないでしょうし、ちょっと教えてあげてもいいかもね。 そうね、ここからここが貴方でも食べれそうな物かしら。 あ、ちょっと待ってなさい。 でもその間に注文決めてること。 分かったわね?」


まあこんな所だろうか、開口一番言われた事は。 全くもってドリアードという種族にそぐわない言葉だ。 しかもとりあえず何が飲みたいかすら聞かずに離れていってしまった。 しかしその後、持ってこられたマシュマロ入りのホットチョコレートを受け取った時、彼女が言った言葉は犯罪そのものであると言っても過言ではないだろう。


「甘い物って体が温まるらしいのよ。 貴方人間だから、私達より弱いでしょ? 顔色も少し悪かったし。 これはまあ、サービスよ、サービス! 一応お客様だものね、これぐらいはしてあげるわ。 ほら、注文はなに? ……な、何よその呆けた顔は! 馬鹿に見えるわよ?! 早く何が欲しいか言いなさいよ! ばっかじゃないの?! この下郎が!」


私みたいなおっさんに、こういうのを耐えろなんぞ無理の一言に尽きる。 料理も安くて美味しかったし、サービスの名に恥じずホットチョコはタダだった。 リピーターが多いのも納得すぎる。 というか、特徴のない顔とか言っておいて種族どころか顔色まで見てるとかありえないだろう。 しかもさりげなく(?)人間が食べても大丈夫な料理が乗ってるページを教えてくれた。 その他諸々しかり、ばっかじゃないのしかり、完全に人心を掌握しに来ている。 ここは恐ろしい店だ。 また来よう。







チップを弾んで店を出た後、温かい体と心を引き連れてふらふらと彷徨った。 今日は確かに寒いが天気はよく、快晴だからか、じいちゃんばあちゃんが結構散歩に出ている。 まだ昼ごろなので、じいちゃんばあちゃん以外はあかんぼや子供連れの母親、就学前の子、観光客丸出しの人、そして見回りの衛兵さん方ぐらいしか見当たらない。 普通はお仕事中だものな。


彷徨っている内に、お茶の屋台を見つけた。 お茶、と一言で言っても、茶葉を緑茶風に加工したり紅茶風に加工したりと様々な系統があったり、はたまた茶葉を使わないハーブ系だったりなど、色々と覇権がある。 また、茶葉系とハーブ系を混ぜたやつも存在する。 そしてここのお茶も、発明したのは人間だ。 どこの世界でも、人間というのは一見無駄に見えるほどに食を追求するものらしい。 そして、味も同じような物を好むらしい。 


ただし私の居る地域は基本的に“イタリア”系だ。 “醤油”と“味噌”が恋しい。 多分探せば限りなく同じのがどっかにはあるだろうが、しかしご主人様の居ない所には何があろうと行きたくない。 ご主人様におねだりしたら見つけてはくれるだろうが、こんな個人的な趣向の為にお手を煩わせたくはない。 なので我慢の子である。


とりあえず、柑橘系のお茶を頼んだ。 美味しい。 温まる。






公園で一休みした後、またふらふらしていたら、路地裏に続く道の一つの先に変な本屋を見つけた。 いくらか前に人間の国で活版印刷機が発明されたらしく、本屋が立ちゆくようになっているのが嬉しい。 懐かしく思って、入ってみた。


第一印象は埃っぽい、そして暗い。 それから主人が怖い、だった。 あまり光の届かない店内を見渡しながら歩いていたのだが、ふとカウンターの方を見たらローブを被った年齢不詳の男の方がニヤニヤしながらこちらを見ていた。 ぴっ、と年齢にそぐわない悲鳴を上げてしまったのは一生の恥になるだろう。 ついでに尻の穴がきゅっとした。 主人は肌にシワがなかったので、わりと若い方ではあるだろう。 しかし静かに笑いながら、影に隠れて客を観察するとか趣味が悪いってレベルじゃない。 心臓が弱い方ならショック死するぞこれ。 それぐらい怖かった。


「いーらっしゃーい」


声は見た目とは違ってわりと明るかった。


「あ、はい……」


「なにかお探しでーすかぁー?」


一々伸ばすのがうざったかった。


「あ、いえ、別に……」


「ほほーう?」


ここでいきなり消えたかと思ったら、真後ろに現れた。 ガチで心臓止まるかと思った。 眼の色は分からなかったが、昏いのは良く分かった。


「ぴっ」


「んふふ、さっきも聞いたけど可愛い悲鳴ですねぇー。 何か苛めたくなっちゃいますねぇー?」


聞かれても困る。 というか情けない事に、ここで慌てて距離を取ろうとして転んでしまった。 私が女性かつスカートだったら、“ラッキースケベ”が発動していた所だ、危ない危ない。 男でよかった。 いや、こいつが危ないのはどっちでも同じか。 でも妊娠の危険性がない分気が楽か。


「あれれ、逃げないでくださいよー。 適性見てあげてるんですからー。」


「は?」


「適性ですよ、て、き、せ、い。 魔術の。 なーんか君気に入っちゃいましたから、サービスですよー。 


ほら、う ご  い   ちゃ    だ      m」


「要りません全然要りません迷い込んだだけです本という物に興味を持っただけですもう帰りますすいませんでしたさようなら!」


もう帰るの所で立ち上がり、すいませんでしたの所でお辞儀をし、さようならで特上の笑顔を見せた瞬間出口に向かってダッシュした私の芸術の如き退避術を、お前にも見せてやりたかったよ私の日記。 昔から逃げる事に関してだけは神がかり的だと言われてきた私の手管に主人も驚いたのか、口を開けっ放しで私に伸ばそうとしていた手のまま固まっていた。 私の大勝利だ。







また変な所に行きたくはないので、今日はもうそのままさっさと部屋に戻った。 教訓、メインの通りを外れるな。 というか読み返したら、最初に自分でそう書いていた。 私はやはり阿呆だ。 とりま凄く怖かったので、夜のご奉仕の際にご主人様に甘えさせてもらった。 どうしたのと聞かれたが、こんな事言えるものか。 という訳で最近寂しいのーとだけ言った。 嘘ではないから問題はない。 刻印も反応しなかったし。


明日は別の区域に行こう。 あいつなんか怖いし。








ご主人様「……」

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