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Dear Diary,  作者: 時雨氷水
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一日目: 日記を始めてみた。

“”で囲まれている箇所は日本語を使っていると思ってください。

Dear Diary,


私のご主人様は素晴らしいという言葉では到底表せないほどに素晴らしいお方である。 とはいえ、もちろん私の貧弱な頭に入っている語彙から紡がれる程度の物ではあるが、感謝の念も込めて毎日彼の方に賛美の言葉を送っていた。 しかし最近、言葉というものは使えば使うほど価値が下がることを思い出し、それを口に出す事を止めた。

とはいえそれでは私のストレスが溜まりに溜まるので、その解消のため日記を始め文体で記録する事にした。 語学の復習にもなるし、これはもはや一石二鳥どころか三鳥や四鳥、いや、十鳥であるとここに表明しよう。 何より、読み返せばそこに溢れるはご主人様への賛美。 まさに至福ではないか。



何はともあれ、ここは私の世界ではない。 私の家は、もっと“近代的”で、“科学”や“機械”があって、“ガングロギャル”などという聞くに恐ろしい生き物が昔生息していた、魔法など影も形もない世界だ。 普通の人なら主人公であるので、世界を救ったり、お姫様や可愛らしい女の子達とラブコメを繰り広げたり、独自の考え方を用いて権威を手に入れたりなどをするものだろう。

しかし、私はイケメンではない。 どっちかというとお世辞を最大限に使って「普通」の範疇に入れるぐらいだろう。 特別な力もなければ若くもなく、天才でもなく、性格は暗い。 軽い虐め(これまた良くあるように、リーダー格の好きな子が私を好きだったというだけの話だが)に遭い、両親の好意により引越ししてそれはなくなったが、そのせいで他人が信じられなくなっただけの話だ。 が、そのせいで友達はゼロ。 学校には行っていたし、必要なことはちゃんと(?)話せていたが、プライベートの時間は一人っきりだった。 “ネトゲ”をしても一人だった。


その後、私はちゃんと(?)大学に行き、就職し、母と父を見送って。 それで運命の日は誕生日だったので、常から欲しかった練炭を買ったついでに良い塩と安かった“サンマ”を買い(塩と練炭で資金がつきた、でも凄く美味しかった。 炭火はやはり最高だ)、それで秘蔵の酒を飲んで一杯やったのだが。 夏という事もあり、良い気分で窓あけっぱで寝てたはずなのに、起きたら凍える風が吹きすさび、雪が辺り一面を白銀に染める、雪国そのものの森のど真ん中で寝ていた。 死ぬほど寒かったのは想像するに難くないだろう。

そこで、拾ってくれたのが今のご主人様だ。 彼は私がチアノーゼになる頃に私の近くを通りかかり(酷く驚いていた、そりゃ散歩中に人間が落ちていたらそうもなるだろう)、話すら出来ない私の現状を見てとりあえずご自身の城に連れ帰ってくださったのだ。 こうして考えてみると、ご主人様はやはり魂の芯まで自愛に満ち溢れた素晴らしく清らかなお方だという事が改めて分かるな。 ご尊顔の造形も美麗としか言い様がないし、お体も適度に筋肉がバランスよく付いている。 やはり、偶には自問自答もしてみるものだ。 こうやってあのお方が如何に崇高な存在であるかが再確認できる。


なにはともあれ、そうやって私は拾われた。 そしてご主人様は、何も出来ない私を未だ側に置いて下さっている。 お部屋のお掃除やら、着付けの手伝いなどはさせていただいているが、特に恩返しが出来ている訳ではない。 それが酷く悲しい。 どうしたものか。 この恩義の一億分の一でも返せれば、少しは楽になるのだが。





まあ、それは一度置いておこう。 私の日記よ、私は人間だ。 しかし、この城……どころか、近隣に人間は子供一人居ない。 


そう、周りは魔物で一杯なのだ。 まさに魔国。 特に寒冷地という事もあってか、もっふもふの毛並みでまさにパラディソである。 私がここで行きていける理由は、ひとえにご主人様の恩恵ではあるが、その次にもっふもふだらけで虫系がどこにも居ないという事である。 大きな虫を毎日見ねばならないとなったら、いくらご主人様を心の底から愛しているからと言ってもここには居られなかっただろう。 おそらくは本気で逃げ出していた。 生理的に無理な物は無理、だからな。 

ちなみにご主人様の真の姿は大きな蛇である。 下半身だけ蛇になることもできる、というか基本的にそっちにしかなられないが、真の姿も凄く可愛らしかった。 しかしまあ、どちらの世界でも爬虫類とは愛らしいものなのだな。 特にかの有名なドラゴンも大きいのを一度見させて頂いたが、子猫のごとき可愛らしさだった。 ご主人様は私の感想を聞くと、ものすごく微妙な顔をしてらっしゃったが。 しかし、その後、私の前でも真の姿になってくださるようになったので、結果“オーライ”というやつだろう。


私がこれを書いている部屋、ご主人様から賜った、彼の方のすぐお側の部屋なのだが、ここからは城の下に広がる城下町が良く見える。 街の中心の方には、大きな煉瓦作りの時計台も見える。 あの時計台はこの街のシンボルとなっており、一番信頼のある人狼の建築屋が建てたんだそうだ。 最高峰の魔術も使っているので、この国の騎士団でも頑張らなければ素手で壊せないという代物らしい。 


しかし騎士団でさえ頑張れば時計台をも素手で壊せるのだ、奉公人達の噂話に聞く魔王様、とはどれほどお強いのだろうか。 一国をご自分のみで滅ぼせる程の魔力を有していらっしゃるらしい上、賢王と呼ばれる程の叡智を有し、その整ったお顔は全てを魅了し、しかし心は氷河のように冷たく慈悲など欠片もないお方らしいが。 聞けば聞くほど、ご主人様とは正反対のお方だ。 しかし一度は見てみたい。

そもそも、ご主人様はどれくらいの地位にいらっしゃるのだろうか、これ程栄えている領地をお持ちなのだから、結構高いとは思うのだが。 奉公人達に聞けば「心配しなくても大丈夫よー」などと子供に対するような声でごまかすし(実際二百三百年程年下なのだが)、ご主人様や側近さんに聞くといつの間にか丸め込まれている。 なんなんだ。 しかしくれるお菓子はとても美味しい。


……まあ、とりあえずその事については諦めた。 それにご主人様はご主人様だ、私を救ってくださった世界で一番心も体も美しいお方だ。 彼の方がなんであろうと、ご主人様である事には変わりがない。 そう容姿端麗、頭脳明晰、全ての賛美の言葉は彼の方に送られるべきであると臆面もなく言い放てる程の方。 階級がなんであろう。 むしろどこぞの奴隷であっても私はご主人様に付いていっただろう。 それほどまでにご主人様は忠義に価するお方なのだ。 むしろ神と呼んでも良いくらいなのではないかと、最近思い始めてきた。




さて、私の日記よ、とりあえず最初の日はこれで辞めにしようかと思う。 あまり最初から飛ばすと、なにかもったいない気がするからだ。 

次の日は、そうだな、ご主人様の仕事風景でも書いてみようかと思っている。 密着取材という奴だ。 最近忙しくなさっており会えていないから、その分見ていたいだけなのだが。 機密やら何やらあるだろうが、どうせあまり近づかないし、そもそも難しい話を理解できる程聞き取りが上手ではない。 だから多分、大丈夫だろう。


それでは、お休み。 良い夢を。







ご主人様「……」(顔真っ赤)

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