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「俺と寝るんだよ」
僕はその一言に息を呑んだ。冷えた手で心臓を鷲掴みされたような衝撃だった。
だが実際は、ふわふわと揺れるシャボン玉が眼の前で弾け飛び、微かな飛沫が僕の産毛に降りかかった時のような微かな反応を示した。
僕は酷く緊張した。できるだけそれを気取られないように、細心の注意を払って関本の真意を探ろうとしていた。
「何言ってんだ」
僕の声には苛立ちが混じる。
「お前、困ってるんだよな」
「困る?」
「そうじゃないのか?」
ふてぶてしい位に、関本は落ち着いていた。同じ年齢だとは思えない、底知れない存在感が僕を焦らせた。
「あいつには無理だ」
関本は何を無理だと言っているのか。
確かに僕は工藤から、友情以上の特別の感情を持たれている。それは彼が言う『愛』と言うものかもしれないし、もしかしたら『絆』と呼ばれるものかもしれない。何れにせよ、僕はそんな特別な感情に戸惑っていた。僕を手に入れる為に、僕を抱いてみる。そんな馬鹿げた考えを工藤に植え付けたのは、寧ろ僕かもしれないのだ。
工藤は僕とSEXがしたい訳じゃない。そのことに僕は薄々気付いていた。
「だからって、関本とどうして寝ることになるんだ」
「理由がいるか?」
「あたりまえだろ。男だぞ」
「だから?」
「だからって…」
僕の戸惑いに、関本はニヤリと笑う。
「衝動だよ。若しくは成り行きとか、勢いとか。なんでもいいだろう」
僕は関本の言葉に絶句する。
「お前さ、あんまり堅い事言ってると一生恋人なんてできないぞ」
関本は笑ってクイッと頭を傾げる。それは、俺に着いて来いと言う合図らしく、まるで自分の家のようにベッドルームのドアを開けて中へ消えた。
その後ろ姿を僕はじっと見送った。
関本は僕に気を使ったのか、灯りを点けなかった。少しだけ開いたドアはまるでブラックホールのように見えた。歪んだ裂け目の奥から僕を促す関本の声がする。それに抗うことなんてできないのを、僕が一番知っている。




