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同期  作者: SHIRO
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 辞令が下ろされている会議室は八階にあり、吹き抜けのエレベーターホールからパティオになっているカフェエリアを通り抜けると、雑然とした営業部のフロアとは趣の異なる静寂の空間がある。オフィス内はどこもタイル張りの味気ない簡素な床だが、このエリアだけはふかふかの絨毯敷き。皮のベンチが中央に配置されていて、劇場のホワイエのような造りで、両側に大小の会議室がある。僕がここを使うのは月一の営業会議位で、ちょっとした打ち合わせなどは、もっぱら同じフロアのミーティングルームで済ませる。

 手前の小会議室の前に同じ課の原田が順番待ちで坐っていて、少し離れたベンチに三課の奴が少し距離を措いて坐っている。中で辞令が行われているからなのか、我が身の先行きの心配からなのか、二人とも雑談することもなく神妙な顔なのが可笑しかった。

「おう、一之瀬」

 原田が僕に気付き手を上げる。

「こっち?」

 ほとんどジェスチャーのように声を発すること無く、手前の会議室を指差しながら隣に滑り込むように座る。

「今、関本が入ってるよ」

「そうか」

 僕もなんだか神妙な顔になる。

「一之瀬、四年目だろ。そろそろ異動あるかもしれないぞ」

「止めてくださいよ。縁起でもない」

「おまえ、この先もずっと営業するつもりなのか?」

「つもりもなにも、それしか経験ないですから」

「他の世界を見てみるのもいい経験だぞ。案外おまえ向きの仕事があるかもしれないだろう」

「それって、俺が営業向きじゃないってことですか?」

「そう聞こえるか」

 ニヤリと意地の悪い笑みを零された。

 冗談半分、本音半分ってとこか。自分でも、必ずしも営業が天職だとは思っていない。だからと言って、これと言ってやりたい仕事が有る訳でもない。燃え尽き症候群と言うほど大げさでないにしろ、最近の僕は、自分の歩むべき道が分からなくなっている。仕事も私生活も、どうして良いのか分からない。新たなる岐路に立たされているのかもしれない。

「おい、冗談だってば」

 僕があんまり真剣な顔をしていたのか、原田がゴツンと肩をぶっつけて来た。

「痛いな、もう」

 僕はお返しとばかり、肩をぶつけ返す。

「なんだよ」

 大人気なく、原田がぶつかって来るから、僕も反撃に出る。何度か繰り返された小競り合いの末、隙を見た僕がさっと身をかわす。文字通り、肩すかしってやつ。バランスを崩した原田が、僕の上に重なるように倒れ込んで来た。

「うわっ、バカ!」

 思わず、大きな声を上げてしまった。

「しっ!」

 原田が人刺し指を立てて僕を制する。

 その時、タイミング悪く会議室のドアが開いた。

 首を竦めながら恐る恐るそっちを見ると、関本がドアの前に立っていた。

 僕らを見て開口一番。

「おまえら、そう言う仲だったのか?」

 僕らは顔を見合わせて、慌てて飛び起きる。もちろん関本の冗談だと分かってはいるが、男に告白されると言う前科持ちの僕は、そんなことが日常茶飯事だと思われでもしたのかと、複雑な気分になった。

「意外と一之瀬が積極的で焦ったよ」

 茶目っ気を出して、原田が首を竦める。僕は握りこぶしに息を吐いて、ファイティングポーズ。

「アホかおまえら」

 関本は、原田にさっさと中へ入れと親指で背中の会議室を示す。

「んじゃ、行ってくるか。続きは後でな、一之瀬」

 下手くそなウインクを僕に寄こした。

「転勤しろ!」

 僕の罵声にカラカラと笑い、「失礼しまーす」と言って、原田はドアの向こうに消えた。

 なんとなくその背中を眼で追って、関本を視界に入れる。

「違うからな」

 言わなくてもいいのに、言い訳がましく関本に言う。

「ったく……どうしてそうなるのかな」

 関本は苦笑いで僕を見ている。

「関本、どうだった?」

 向こうの会議室前から三課の奴が声を掛けて来た。

「ん」

 首を捻り、そっちを見た関本は「異動なし」と、あっさり告げた。

「そうだよな。関本の異動は考えられないからな」と、三課の奴。

「まさか。俺だって内心ビクビクだったさ」

「そうなのか?」

 僕は意外な気がした。僕なんかと違って営業成績もトップクラスだし、後輩の面倒見も良いし、一課を背負って立つと言っても過言ではない関本が、何を不安に思う事があるのだろう。そんことを言ったら、僕なんかどうなる? 営業が好きと言うわけでもなく、毎期ギリギリの滑り込みで予算達成だし、面倒を見るより見られている方が多い。関本の代わりはいないが、僕の代わりなんて誰にでもできそうだし。僕が営業に留まる可能性は非常に薄いんじゃないのか。僕の悪い性質で、どんどんマイナス思考に陥って来る。

「どう転んでも、俺達は同期だからな」

 関本の手が労わるように僕の肩に乗せられた。

 それって、僕の異動ありきの台詞なのか?

 こいつ、何か知ってるのか?

 僕は関本に詰め寄った。

「何か知ってるなら教えてくれ!」


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