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5「モーニングルーティーン」

5話です。


ユヅキのモーニングルーティーンです。


少々短めです


 屋敷の朝は早い。というのも、メイドが行動を開始するのが早いからだ。その中で一際目立って早いのはーーベテランメイドであるユヅキだ。


『ーーふぅ』


 朝四時半ーーあたりはまだ寝静まっており、魔獣やドラゴンでさえも行動がまだ少ない時間帯。彼女は寸分の狂いもなく起床する。そのわけはーー


『はっ!』


 彼女が目を開け、脳を目覚めさせた瞬間、頭上からご主人様であるシンの顔面の模型が落ちてくる。当たればキスしてしまうなんとも悪意のある場所に置かれているが、無論彼女は死んでも嫌なので絶対にそれより先に起き、ベッドから転がり落ち、起きてきた模型を殴り飛ばす。

 

 ユヅキの朝はーーご主人様を殺す練習から始まっていた。


『今日も起きることができました。さて、シャワーを浴びましょうか』


 彼女はご主人様とは異なり朝風呂派である。なぜ朝風呂かーー理由は単純であり、ご主人様とずらしたいからだ。昔、夜遅くに入った時、その後のお湯を保管されていた経験があり、それ以降朝風呂になっている。

 無地の水色のパジャマを脱ぐと、その布が包んでいたのは女性らしい体ーー普段の服装からは分かりずらいが、胸も多少なりともあり、かなりスタイルは良い。いつも、まな板に見える胸は動きやすくあるためにサラシをまいているが故である。



 朝五時ーーシャワーから出るとドライヤーで金髪の髪の毛を乾かす作業に入る。彼女の髪の毛はサラサラであるが、実はかなりの癖っ毛だ。念入りに髪の手入れを行なっている。

 ドライヤーが終われば、普段のメイド服を着る前にバスタオルを巻いた状態で他のメイドを起こしに行き、最後にご主人様を起こしに向かう。


 静かな廊下ーー普段の賑やかな屋敷とは違う姿を彼女だけが知っている。


『今日もーーがんばりますか』


 そういった少し違う日常というのを享受することは彼女の何気ない楽しみでもある。モーニングルーティーンと言っているが基本的に毎日同じ場所で、同じ時間が流れ、同じことをする生活を仕事柄、強制されている。

 故にそうした日々の中に変化をみつけたりすることは、全メイドたちの共通された趣味になりがちである。


 全メイドを起こし、タマキも起こし、最後にご主人様を起こす。彼女の朝の最初の楽しみは此処にある。


『ご主人様ーー朝でございます』


 彼女が彼の部屋の扉をノックし、ドア越しから声をかけるーーが、返事はない。此処まではいつもと同じだ。然し、彼女たちメイドの生活はご主人様主体で動くため、この時間に起きてもらわねばならない。

 そのため、強硬策に出なければならない。


 ガッーーーーーー!!!


 彼女が華奢な足から考えられぬほどの力でドアを蹴り破り、そのまま中に侵入する。彼女の手にはいつの間にか太ももに隠し持っていたはずの刃物が握られ、彼女はベッドに向かって一直線に走り出し、そして飛び込む。


『ご主人様!!!!朝です早く起きなさい!!!!』


 刹那ーー殺意のこもったナイフの一刀が神の裁きの如く振り翳される。今日彼女が選択した殺し方は至ってシンプル。ナイフでの刺殺だ。

 然しーー不老不死ゆえに長らく生きている、そして毎日多種多様な殺し方をしてくるメイドを懐に抱えている彼にとって朝の死のモーニングコールは慣れたも同然だった。


「はっはーーー!!今日はシンプルイズベストできたね!!でも残念オレの勝ちだ!!」


 彼女の刺突がベッドに突き刺さるも手応えはゼロ。違和感を覚えた次の瞬間、頭上から彼の声が聞こえてきた上、だんだんと近づいてくる。本能的に危険を察知した彼女はナイフを手放し、ベッドから転がってその場を離れると案の定上からシンが降ってきた。体勢からして彼女を後ろから抱きしめようとしていたのだろう。だが惜しくもそれは失敗に終わる。

 

『おはようございますご主人様ーーそして、気持ち悪いです!!!』


「あああああああああ!!!」


 上から落下し、ベッドにダイブすると反発してまた彼の体が宙に舞う。そこをすかさず見逃すまいと、彼女が飛び蹴りをし、彼の脇腹を捉え、罵倒と同時に吹き飛ばす。

 宙に浮いた彼の身体が凄まじい速度で地面に対して並行移動し、壁に追突ーー綺麗にめり込んだのを見て、彼女は部屋を後にする。そこに動揺など一切ない。彼女にとってこれは日常なのだ。


『ええええ!?ご主人様どうなさいましたか!?!?』


 朝から異常な音が聞こえ、彼の部屋にユヅキと入れ替わるように入ってきたのが新人メイドのタマキ。タマキは未だユヅキと彼の関係性を理解しきれていないものの、だんだん光景自体には慣れてきている。とはいえど、やはり心配にはなるようだ。



 朝五時半ーーご主人様を起こし、屋敷中の窓を開け、換気をし終わると、ようやく着替えを始める。三十分間、バスタオルの状態で過ごすのが彼女のちょっと変わったルーティーンである。

 髪を束ね、ある程度の化粧をし、メイドの正装に身を包む。平均して大体三十分近くかかる作業を、黙々とこなし、朝の朝食の準備へと向かう。此処で初めて他のメイドと合流し、その日のスケジュールの確認と質問を行い、朝食の準備を開始する。


『本日はこの予定です。途中来客がありますが、対応は私が行いますので、気になさらず仕事を続行してください』


『『はい!!』』


 確認を終え、数人のメイドと共に、食堂へと向かう。毎朝平均して一時間ほどの準備を経て、食器やらなんやらの支度をすまし、豪華なシャンデリアが特徴的な部屋に、ご主人様を呼ぶのだ。



『ご主人様ーーおはようございます。朝の支度が完了しました』



 ベテランメイド「ユヅキ」の朝は、このようにして一年間休むことなく、繰り返されて行く。




5話を読んでいただきありがとうございます。


余談ですが、この生活を確立するまでに5年かかったそうです。

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