わたしは勇者の代理です……
わたしは勇者の代理です……。
ええ、代理であって本人ではないのです……。
何の話かと言えば、最初から申し上げましょう。
魔物が日に日に増え、人々の生活を脅かし。
これはどうしたものかと、識者、賢者、魔法使いなどが、ありとあらゆる手段でこの世界を調べた結果。
魔王が誕生したと。
魔王の誕生により、魔物が勢いづいているのだと……。
人は、魔物に蹂躙され滅ぶかもしれない……。
でも神は人をお見捨てににはならない。
勇者が誕生し、勇者が魔物や魔王を倒し、人の世を平穏に導くであろう……。
とか何とか、言いやがった予言者とかがいらっしゃいましてっ!
その予言で示された勇者とやらが、わたしの兄っ!
大事なことなのでもう一度言います!
わたしの兄が勇者!
なのにっ!
「無理っ! オレに魔物とか魔王とか倒せるわけないじゃん!」
逃げやがったわ……。
クソ兄め!
百歩譲って。
田舎の村で、畑を耕していただけの若者に勇者になれなんて言われたら、そりゃあ逃げるよな……って気持ちもわからないでもない。
でもねっ!
勇者の装備を整えるための支度金とかって渡された金を持って逃げるな馬鹿兄っ!
せめて半分! 置いていけ!
そうしたら、残りのお金を持って、わたしだって逃げたのに……。
さて……、逃げた兄のせいで、わたしが国王陛下やら教皇閣下だのなんだの、国の重鎮の皆様の前に引きずり出されました。
勇者は兄。
兄は、支度金を持って逃げた。
ここから導き出される結論なんて、決まっている。
「キサマが兄の代わりに勇者となり魔王を倒せ」
無茶言うなあああああああああああああああああ!
勇者は兄であって、わたしではない!
血縁があるからって勇者の妹は勇者なわけないでしょう!
だいたいにして、聖剣なんて、わたし、持ち上げることすらできないよ! 鞘からだって抜けないよ!
「では、身内の責を負って死罪とする」
勇者じゃないのに魔王を倒しに行く。
死罪。
究極の二択。
わ、わたし、田舎の単なる村娘だよ?
朝起きて、ニワトリが産んだ卵を取って来て、畑からトマトだのトウモロコシだのを収穫して、洗濯して、掃除して、時間がある時とか雨の時とかは機織りして。
適齢期になったら隣村のジローさんに嫁ぐか。三軒先の幼馴染のクロー君に嫁ぐか。
その程度の選択肢しかない、どこにでもいる単なる村娘!
兄の責任っていうのなら、兄を製造した父と母に……って、主張したけど、その父も母も、とっくに兄と一緒に逃げていた……。
チクショウ。
わたし一人を置いて行ったな!
自分たちが逃げるために、わたしをわざとおいて行ったのね!
う、ううううううう。
即座に死ぬ死罪より、魔王討伐のほうがマシ。
気分はドナドナ。売られる子牛の気分で赴く魔王城。
もちろん聖剣なんて、持って行かない。
どうせ抜けないし、使えない。
「聖剣でなければ魔王は倒せませんよ」
なんとかという名前の騎士に言われたけど。
抜けもしない聖剣を持って行っても無意味でしょうがっ!
使えない聖剣なんて、鍬よりも不必要。
重たいだけ。
旅の邪魔。
「私には抜けない剣を持って行っても無駄です。必要というのなら、あなたが持てば?」
聖剣なんて不要物、知るかボケ。
悪態をついていたら、騎士様たちに魔王城まで連行された。
魔王城の前までは馬車で連れてきてもらったけど。
魔王城の前でポイっと馬車から放り出された。
オイ、コラ、騎士たち。一緒に魔王を倒しに行くんじゃないの⁉
「健闘を祈ります」
わたしに向かって言うけれど。
「死んで来い」にしか聞こえない。
わたしは魔王城に足を踏み入れた後、思い切り叫んだ。
「勇者もその親も国王も教皇も騎士たちもっ! わたしを助けてくれなかった誰もかれもっ!! 魔王に倒されて滅びやがれっ!!!!」
滅びやがれーっ!
滅びやがれーーっ!
滅びやがれーーーっ!
魔王城に入ってすぐの、広々としたホールにわたしの叫びが響いた。
すると、くっくっく……という美声というか嗤う声が聞こえてきた。
現われたのは、漆黒の翼を持ち、漆黒の長い髪をなびかせた美形の男。
「あなたが魔王?」
「いかにも。おまえが勇者か? 聖剣どころか武器も楯も持っていないようだが」
「わたしは勇者じゃありません!」
これまでの経緯をわたしは魔王に洗いざらいぶちまけた。
ええもう、涙目でっていうか、涙と鼻水を流しながら訴えた。
最初は戸惑っていた魔王は、上着からハンカチを取り出すと、そのハンカチでわたしの顔を拭ってくれた。
良い人だ。
いや、良い魔王だ。
勇者よりも父母よりも国王よりも教皇よりも騎士たちよりも!
魔王のほうが良い人だ!
あんな国滅んじまえ! 勇者に選ばれた兄も、兄と一緒に逃げているであろう父母も! 国王も教皇も騎士たちもっ! みんなみーんな大嫌いいいいいいいい!
泣きながら叫んだら。
魔王がサクッと全員を亡ぼしてきてくれた。
ありがとう、魔王。
ご恩は一生忘れません。
お礼に何か……と、わたしが言ったら。
「じゃあ、嫁に来い」と言ってくれた。
謹んでお受けして、わたしは魔王城で、魔王と一緒にしあわせな毎日を過ごしている。
終わり
2026年1月13日 ギフト御礼小話




