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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case2:アケトアテン-夢視る勇者じゃいられない
9/32

#1

本日から第2章の連載を開始します


「こんな夜更けに工房へ何用かな、異世界の方よ」


 アケトアテン国の夜はエーテルの輝きによりまるで現代日本の様に明るい。そんな輝きに照らし出された荘厳な建物の入口を塞ぐように立ちはだかり、僕達に声を掛けてきたのは……見知らぬ騎士風の男だった。

 彼の後ろにはざっと見て50名近い武装した兵が付き従っていて、王立工房の入口を塞いでいる。明らかに彼等は僕達の意図を知って、工房への侵入を防ごうとしている。そして……何よりも問題なのは、指揮官らしき騎士の傍らに控えた兵士が、質素な法衣を身につけた老齢の女性を羽交い締めにしていることだ。


「……シスター・レイア……」


 僕の隣に控えていた志織(しおり)は老女の名を呟く。彼女にとってシスター・レイアは恩人であり、人質としては最適な人選だと言えるだろう。

 けど、僕にとってシスター・レイアは行きずりの相手、この場から去ればじきに記憶の彼方へ消え去る異世界人の1人でしかない。

 つまり、シスター・レイアは僕に対する人質としての価値は皆無だということになる。


 しかし騎士達はそんな事情を知らない。彼等が行く手を阻みたいのは僕だけだというのに、僕には効果がない人質を使おうとしている。しかしその無効なはずの人質は同行している志織を通じて僕にも効果を及ぼしている。


「なに、大した用事ではないですよ。それよりもどうしてその女性を拘束してるんですか?」

「知らぬとは言うまい?貴殿が出入りしていた孤児院の院長ではないか」

「そうでしたか。それで?」

「何、貴殿が約束を守ってこの国に留まって頂けるよう『説得』してもらおうと思ってご足労願ったまで」

「その割には扱いが雑なように見えますが。異世界の騎士キホーテ殿からレディの扱いについて学ばなかったのですか?」

「戯れ言を……。貴殿が逆らうのであればこの女を『賢者の石』を狙って我が国に侵入した隣国の間者の仲間として牢に入れても良いのだぞ?少し時間をやろう。どうするかよく考えるのだな」


 僕は騎士に軽口を叩くが、正直状況はよろしくない。僕のマナは既にほぼ枯渇していて、残されているのは「最後の1発分」だけだ。仮に「貫く魔弾(ピアシング・ブリッツ)」で指揮官を射殺せたとしても、残りの兵士がシスターを殺し、僕達を拘束することになれば帰還は叶わない。


『ユートさん。ロザリオを返してください。私が……(チート)を使ってシスターを助けます』

『駄目だよ。それは許可できない』


 騎士に聞かれないよう、志織は日本語で僕にそう告げた。瓶底眼鏡越しにこちらを見る志織がどのような目をしているのか、僕には伺い知ることは出来ないけど、僕は彼女の願いを聞き届けることは出来ない。

 なぜなら彼女がロザリオを――チート能力を使うと言うことは、「二度とこの力を使わない」と誓った約束を破ることになるから。


 僕は前回、チートを使わないという誓いを反故にした斎藤君を世界に対する裏切り者として殺した。なら……僕は約束を破ってしまう彼女のことも、同じように殺さないといけなくなる。僕は彼女を殺したくはない。でも、それでも。僕は「勇者狩り」だから――。



 ――僕がどうしてこのような事態に陥ったのか、順を追って話すことにしよう。


 始まりはエセルニウム王国での一件から1週間が経過したある日の昼下がりだった。同じ日本人を手に掛けたと言うのに、僕はその日も平然と大学生活を送っていた。


 もちろんエセルニウム王国での事が気に掛かっていない訳ではない。最後まで見届けることが出来なかったリタの事は今でも心の奥にわだかまりとして残っている。

 けど……僕自らが手を下した斎藤君の事は、何も感じない。かつて勇者として盗賊や暗殺者、魔王に下った邪教徒など――倒すべき敵を殺したというような感慨しか湧いてこないのは、やはり僕の心がどこか壊れてしまっているせいだろうか。


「悠斗。酷い顔してるよ」

「そうかい?いつも通りのモブ顔だと思うけど?」

「そんな事ないよ」


 今日は3限目の講義が無いので、麗奈と2人学食で遅めのランチタイムを過ごしているところだけど、どうやら麗奈には僕がいつもと違うように見えているようだ。


「いや、お前らさ、2人の世界に入るのはいいけど」

「なんだ、いたのか太郎」

「いやいやいや、最初から俺と一緒に飯食ってたんだよな?そしたら弓月さんが来て、お前急に黄昏れ始めたんだよな?」

「そうだっけ?」

「それに俺の名前は太郎じゃなくて光太郎だっていつも言ってるだろうが!」


 僕の正面に向かい合って座っていた友人、鈴木光太郎……通称太郎がそんな事を言う。そう言えば先週休んだ講義で出された課題について太郎に聞いていたんだっけか。


「ユート、お前さ、いきなり講義中に電話掛かってきて即日インターンとかそれ絶対やばいブラック企業だって」

「あー、まぁ確かにブラックぽい所はあるかな」

「だろ?いくら就活焦ってるとは言え、そういうとことは縁を切った方がいいぞ?」


 太郎をはじめとした友人達は僕が異世界転移者を狩るための組織である総合学部に出入りしている事を知らないし、当然そんな事を告げる訳にもいかない。

 なので榊会長に呼び出された日の事を「以前申し込んでいた企業のインターンシップ参加の連絡だった」と苦しい言い訳をした結果が、今の太郎の言葉なんだけど。

 でも総合学部がブラックであることは否定しない。なにせ僕自身が納得し、自分で選んだ道だとは言え……人を殺すミッションを与えてくる組織な訳だから。


「太郎は悠斗のすることに口出ししないで」

「あの、弓月さん?俺の名前、光太郎なんだけど……」

「悠斗が太郎と呼ぶなら、貴方は太郎になるべき」

「ええぇ……。俺、なんでジト目の金髪美少女に強制改名させられてんだ……?」


 麗奈が太郎を見る目はかなり厳しい。多分に総合学部の事をブラックと言われた事に腹を立てているのだろうとは思うけど……。

 初めて出会った頃の「麗奈」は感情というものが全く無く、綺麗な人形にしか見えなかった。そんな彼女が端正なその顔に少しずつだけど表情を浮かべるようになったことは素直に嬉しく思う。けど、レーナだった頃の彼女はもっと表情がくるくる変わる子で……。


 そんな事を考えていた僕はマナーモードにしたままだったスマホが振動していることに気が付いた。ポケットから取り出し、誰からのメッセージか確認すると……そこに表示されていたのは「榊会長」の文字だった。

 少なくとも僕と榊先輩はプライベートで連絡を取り合う仲じゃないから、十中八九総合学部絡みの話だろう。思わずため息をついてしまった僕の様子に麗奈も事情を察したのか、少し心配そうな表情を浮かべる。


「悠斗?」

「太郎、悪い。また呼び出しだ。4限の講義で課題出たらDMで詳細送っておいてくれるかい?」

「昼飯2回で手を打つぜ」

「わかったよ。麗奈、行こうか」

「うん」

「えっと……お前ら一緒にインターン行くの?なんだよ、そのリア充っぷり」

「太郎は悠斗にも私にも口出ししない方が良い。あと集るのも止めるべき」

「俺、どんだけ弓月さんに嫌われてるの……?」


 情けない顔をする太郎を学食に残し、僕と麗奈は本部等へと向かった。



 移動中に確認した榊先輩のメッセージには至急作戦室まで来て欲しいというシンプルなものだった。

 前回の呼び出し時に送られてきたメッセージには少し細かい情報が付いていたように思うけど……なにぶんこういう呼び出しは2回目だ。僕にはどちらが総合学部の通常方式なのかは判らない。


 作戦室のある地下へ降りるエレベータに乗ったところでそれまで黙っていた麗奈が口を開いた。講義時間中で人が少ないとは言えさすがにキャンパス内では案件の話はしづらいからね。


「夢那センパイ、なんだって?」

「作戦室に来て欲しいってさ。今、何か『案件』でもあるのかな」

「今、5件平行で派遣が進んでるよ。あとは10日ぐらい前に失踪した子が『案件』だって言ってた。座標特定がそろそろ終わると思うけど」


 さすが普段は総合学部で榊会長と共にミッションオペレーターを務めているだけの事はある。それにしても同時進行で5件同時に異世界転移者を追うはめになっているとは……転移の女神も勤勉なことだ。


「じゃあ僕はその10日前の失踪者を追う、6件目を担当することになるのかな」

「それは無いと思う。だって悠斗は1週間前に戻ってきたところ」

「ん……そう言えば帰還後2週間はインターバルを空けることになってるんだっけ?」

「うん。報告書書いたり、負傷を癒したり、装備の整備や補充をしたりする。あと、メンタルケアも」


 麗奈はそう言うけど、僕の場合報告書は帰還してすぐに提出したし、負傷は全くしていない。おまけに僕は魔術士(マギ)だから装備は不要だし、アイテムは……むしろ異世界の料理がストレージに増えたぐらいで何も消費していない。

 となるとこのインターバルは同胞を殺めた事に対する罪悪感や自己嫌悪を少しでも鎮めるためのクールダウン期間ということなんだろう。


「だから麗奈は忙しいのにこうやって僕の所へ来てくれたんだ?」

「そう。だけど違う。恋人とイチャイチャするのは義務だから」

「えっと……義務、なんだ?」

「うん」


 麗奈の恋愛観は良くわからないけど、僕のことを気遣ってくれているのは良くわかった。義務と言われると少し寂しい気はするけど……。ともあれ、2人でそんな事を言っているうちに僕達は作戦室に到着した。


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