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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case2:アケトアテン-夢視る勇者じゃいられない
20/31

#12

 近くの厩舎で志織さんが予約していた馬を借り、馬車で街を出たのは地平線に陽が落ち始めたころだった。彼女は陽が落ちる前に野営に適した場所に辿り着けると言っていたけど、どうみてもこれは夜間行軍になるタイミングだよね……。

 とは言え、目視で時間を計ることの出来ない志織さんに文句を言っても仕方がない。幸いというか何というか、馬車には王立工房で見た「光杖」を大きくしたもの……日本で言うところのヘッドライトが装備されていたから、夜になっても馬車を走らせること自体は可能だった。


 アケトアテンの王都から目的地へ向かうには10日ほど平野部の街道を走り、その後に脇道へ入って山岳地帯を目指すことになるらしい。志織さんはアイテムボックスに地図を入れていたので、それを頼りに馬車を走らせることになるようだ。


「しかしこの馬車、思ったより乗り心地が良いね」

「そうですか?日本で乗っていた車に比べると、ちょっとどうかと思ってたんですけど」

「それ、比較対象がおかしいよ……。普通ファンタジー世界の馬車ってサスペンションもゴムタイヤも付いてないものだから、路面のでこぼこがもろに響いてクッション無しじゃとても座ってられないよ?」

「へぇ……。それって異世界あるあるですか?」


 御者席は2人で座るには少々狭いので志織さんは後部の荷台にリラックスした様子で腰掛け、そんな事を言っている。けど、としこれがグレイランスの馬車なら振動が酷くてとてもそんな気楽なことは言っていられなかったはずだ。さすが魔導具が発達したアケトアテンだけあって、馬車旅の快適性を高める工夫が施されているのだと感心した。


「そう言えばこれだけ技術が進んでるのに乗り物は馬車なんだね。エーテルで動く自動車みたいなものがあってもおかしく無さそうだけど」

「原始的なのならありますよ?けどお高くて庶民の稼ぎじゃとても手が出ません」

「ああ、一応あるんだね……」


 どうやらこの国の技術レベルは僕達の世界でいけば18世紀か19世紀ぐらいに相当するのかもしれない。

 僕も年齢的にそろそろマイカーを持つことも考えていい年頃だけど、さすがにこの世界の車を持ち帰る訳にもいかない。現実世界に戻ったらストレージに放り込んだ金貨を総合学部で換金して貰って、軽自動車でも買えば麗奈とデートする時に便利かもしれない。

 ……そんな事を考えながら、外灯の無い夜道を馬車は進む。



「ユートさん、お泊まりですよ!」

「そうだね」

「人気のない暗い街外れだからって、変な気を起こさないでくださいね?」

「いや、ここ野営地だから外灯付いてるよ。それに他にも馬車停まってるし」

「ええ……」

「なんで残念そうな顔するかな?」


 出発前に志織さんが言っていた野営に適した場所というのは、馬を休ませる水場と、馬車を止めるスペース、そして外灯が完備された広場だった。日本で言えばパーキングエリアに相当するところだろうか。

 既に陽が落ちて久しいこともあり、数台の馬車が止められていて行商人や旅人らしき人々が三々五々車座になって談笑しているのが見える。

 彼らを邪魔しないように、そして干渉されないように、不自然にならない程度に距離を置いて僕は馬車を停める。


「こういうときって焚き火が定番だと思ったんだけど、違うんだね」

「キャンプファイヤーじゃないんですから……。はい、ユートさん。魔導コンロです」

「どうやって使うのかな?」

「火の出る面の端にボタンがあるので、赤い方を押せば点火、青い方を押せば消火です」

「なるほど、便利なものだね」

「まぁ、カセットコンロの方が調整が利いて使いやすいですけど」


 志織さんがアイテムボックスから出してくれた魔導コンロなるアイテムを使って僕達も火を灯し、2人で座って遅めの夕食を取る。

 どうやら僕のストレージと違って志織さんのアイテムボックスは収納内で時間経過があるらしく、食料も保存の効く物なのだそうだ。それを聞いた僕は、ふと思い出してエセルニウム王国の宿屋で拝借してきた料理を取り出した。

 この料理を手に入れたのは僕の主観時間で1週間以上前だけど、ストレージから出された肉料理にはまだ湯気が漂っている。


「わ、いい匂い……なんですか、それ?」

「良くわからないけど、お肉の料理っぽいね。何の肉かもわからないけど、貴族が食べる予定だったものだから変な肉じゃないと思うけど」

「まぁ食べられたら何でもいいんじゃないですか?ユートさん、あーん」

「いや、食料は自前で……って言ってなかったっけ?」

「デートで女の子にご馳走しない年上男性ってどう思いますか?」

「だからデートじゃないってば」


 視力を再び失ってなお、志織さんは明るく、前向きだ。いや、彼女が失ったものは視力だけじゃない。両親も、友人達との時間も彼女は失っている。

 それでも志織さんは異世界で逞しく生きている。見た目の可憐さとは裏腹に、彼女はとても心の強い女の子なのだろう。僕はそのとき、そう思い込んでしまった。


 彼女が抱えていた、心の闇に気付くこともなく。



 食事を済ませた後、僕は少々厄介な問題に直面することになった。そう、夜警の問題だ。ここは野営地で周囲に他の馬車が止まっているから魔物に襲撃される可能性は低いと言えるだろう。

 しかし見知らぬ旅人や行商人がいるという事は、逆に言えば人による犯罪を警戒する必要が生じるということでもある。

 これまでアケトアテンで出会った人達は善良な人ばかりだったけど、全ての人が善人であるとは限らない。僕一人だけであれば貴重品をストレージに収納しておけばどうとでもなるのだけど、問題は志織さんの存在だ。


 年若く美しい少女。それも盲目の。不埒なことを考える男が現れる可能性はそれなりに高いだろう。

 ここまでの道中、志織さんは過去に1人で素材収集の旅に出た事もあるとは言っていたけど、それはあくまでも悪魔を宿した目を持っていたから可能だったこと。

 悪魔どころか視力すら失った今の彼女は、いかに異世界転移者とはいえ見張りもなしに寝かせるのは少々リスクが大きすぎる。

 とはいえ僕が一晩中起きている訳にもいかない。なにせ志織さんは御者を務めることも出来ない状況なのだから。


「……となると『警戒(アラート)』の魔法を使うしかない、か」


 僕の扱える魔法の中に、このような状況に対応出来るぴったりの魔法がある。「警戒(アラート)」の魔法を使えば一定範囲内に何者かが侵入した際に僕は寝ていてもそれに感づくことが出来るのだけど……。

 ただ、問題はおそらくこれからも毎夜同じような状況に陥る可能性が高いという事だ。そう、「警戒(アラート)」は消費魔力がそう多くない魔法だとは言え、毎回使っていればマナの総消費量はかなり多くなる。


 往復1ヶ月の旅で毎晩夜警のために魔法を使い続けると……おそらく残りの魔力は1割以下に減少してしまうだろう。これでは道中、野盗や魔物に襲われた際に対処が難しくなる。

 最悪の場合は「奥の手」を使うという選択肢もあるけど、あれは対価が重すぎるから可能な限り使わないように麗奈にも釘を刺されている。


 志織さんは既に眠っているから今日はとりあえず「警戒(アラート)」を掛けておくとして、明日以降は可能ならセキュリティが担保されている宿なり民家なりにでも泊まって、マナの消費を抑えるようにした方が良いかもしれない。

 せめてもう1人、信用できる旅の道連れがいれば交代で夜警なり御者なりできるんだけど――。

 そんな事を考えながら、僕は眠りに落ちた。



「ユートさん!朝ですよ、たぶん。鳥の声が聞こえますし!」

「……おはよう、志織さん。朝からテンション高いね」

「もう、ユートさん!折角の朝チュンシチュエーションなんですから、そこは『おはよう、志織。今日も朝から可愛いね』とか言ってくださいよ!」


 いやいや……朝チュンって。それでいいのか、中学生。苦笑交じりに意味を知ってるのかと聞くと正確な説明が返ってきた。どうやら中高一貫の女子校というのは耳年増になりやすい環境のようだ。


「チュンはともかくとして、志織さんは朝から元気だね」

「ええ、よく眠れたので元気ですよ。でもユートさん、そろそろその『志織さん』っていうのやめません?親しみを込めて志織って呼んでください」

「そろそろって言うけど、僕達、昨日知り合ったところだよね?」

「でも、もう一夜を共にしましたよ?」

「周りの人が誤解するから、そういう言い方は止めようね……」


 中学生――いや、彼女はこの世界で1年過ごしているから既に年齢的には高校生か――のパワーに押されてタジタジになりながら、僕たちは食事を済ませて野営場所を出発することにした。


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