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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case2:アケトアテン-夢視る勇者じゃいられない
19/31

#11

 その後もしばらく魔導具談義を続けた僕達だったけど、僕が話せば話すほどマフームドさんは胡乱げな表情で僕を見るようになってしまった。

 どうやら彼の中では僕達の世界はとんでもなく野蛮な世界だと思われてしまったかもしれない。


「いや、しかし光杖の放つエーテルを棒状に留めて武器とするとは……」

「こ、工房長!大変です!」


 うん、あの懐中電灯みたいな魔導具、ライトサーベルにしか思えなかったからね。と、そんな事を言っていると、ハッサンさんが工房に走り込んできた。


「なんじゃ、騒々しい。分析は終わったのか?」

「はい!あのミスリルなる金属、とてつもない希少物質です!ユート殿がおっしゃるようにエーテルとの親和性が極めて高く、魔導回路の書き込み可能密度が通常の銀を遙かに凌駕しています!」

「なんと!?」


 どうやらミスリルは想像以上にアケトアテンの人達には価値があったらしい。

 その後、ハッサンさんから詳細を聞いたマフームドさんが出した査定金額は、日本円に換算すると3千万円相当という信じられない額だった。

 ちなみに、グレイランスでの取引価格はインゴット1つあたり、日本円換算で100万円前後だったから、30倍も高く買い取って貰えることになる。けど、高額すぎるのも少々問題が無いではない。


「……どうじゃろうか。これで足りぬなら王家に掛け合ってもうあと1割程度なら……」

「いえ、提示頂いた額で十分です。……というより、銀貨で頂いても多すぎて持ち歩けませんし」

「うむ……なら、譲って頂いた素材を使って何か新しい魔導具を作らせて貰うというのはどうじゃ?使用した素材の分と開発費用は差し引かせて貰うので、お渡しする銀貨は少なく出来ると思うが」

「ええ、それで結構ですよ」

「おお、そうか!では何を作ればよいかの?先程の光杖を武器にするというアイデア、このミスリルなる素材があれば実現できる筈じゃが」


 もちろんストレージを使えばいくらでも銀貨を持ち運ぶことは出来るけど、錬金術が完成していない多くの世界では銀より金の方が価値がある。つまり貨幣価値的に見れば金貨の方が価値は高い訳で、僕としては小銭である銀貨を大量に貰ってもここアケトアテン以外では使い道がないからね。

 実際、僕のストレージに銀貨が少ないもの少額貨幣だから持ち歩く意味がなかったというのが理由なわけだし。なら現地通貨を沢山貰うよりも、物品に変えた方がまだマシだろう。

 ただライトサーベルが実用化するのは少し見てみたい気もするけど、僕は剣を使うのが苦手だし現実世界へ持ち帰って剣の得意な他の狩人に渡すことも出来ない。となると……。


「いえ、それよりも先ほどお話しした例のものを」

「おお、そうか。それなら既存技術をベースに製造できるぞ。そうじゃな……素材の解析と平行して開発を進めるとすれば、3週間ほど時間を貰うことになるが、構わぬか?」

「はい、問題ありません」


 3週間で完成するなら、素材を採取して戻ってきた頃に受け取りは可能だし、僕にとっては好都合なタイミングだ。



「ユートさん、遅いです!女の子を待たせるとか、反省すべきです!」

「いや、ごめん。旅支度の前に金策からしないといけなくて……」

「デートに行くのにお財布持って来てないとか、ちょっとどうかと思います!」

「いやいや、デートじゃないよね?素材収集だよね?」


 バラックへ戻った僕は志織さんにいきなり文句を言われる事になった。まぁ王立工房へ行って、ミスリルの買い取り査定をして貰って、発注する魔導具の仕様を決めて、その後に食品やら諸々を買い揃えていたらそれなりに時間も掛かるというものだ。

 けどこういうときに下手に言い訳をすると火に油を注ぐことになるのは麗奈との付き合いで良くわかっている。だから僕は弁明する代わりに、ストレージから取り出したお土産を志織さんに差し出した。


「申し訳ありません、お嬢さま。お詫びにこちらを」

「……シロップの香りに……香ばしいパイ生地のようなバターの香り?わかった、バクラヴァでしょ!」


 僕が差し出したのは食料を買いに行った途中、屋台で売っていたお菓子だ。薄いパイ生地重ねてナッツを挟み、焼いたものにシロップを掛けた……要するに志織さんにリクエストされていた「甘いもの」。けど残念ながら僕はこのお菓子の名前を知らない。


「ごめん、名前はわからないから、食べて判別してくれる?」

「あーん」


 志織さんは僕の言葉に応えず、目を閉じて口を開いた。小さい口の中に見える歯並びのいい白く輝く歯が眩しい。

 自分で食べるように言いたいところだけど、彼女の状況を考えると致し方ない。僕はしばらくの間、彼女の目にならないといけないのだから。

 少し嘆息した僕は手を伸ばし、志織さんの下唇にバクラヴァ……らしきお菓子を触れさせる。

 ぱくりと口を閉じた志織さんはすぐに笑顔になった。


 しばらく甘みを楽しんだ後、彼女は口を開いた。


「もう一口!」

「いや、それは構わないけど……出発は明日にするのかな?」

「あ……そうでした!さっき午後三の鐘が聞こえたから、もうすぐ夕方ですよね。今から出発したら陽が暮れる直前に野営に適した場所まで移動出来ると思います」

「随分と強行軍だね」

「脱力病は遅いとはいえ進行性の病気ですから。急変はしませんけど、シスターにはあまり時間は無いので」


 そう言うと志織さんは腰掛けていたベッドから立ち上がり、バラックの入り口の方を向いた。さすがに自分が寝泊まりしていた場所は見えなくても位置関係は判るようだけど……そのままにする訳にもいかないだろう。


「触れても良いかな?」

「ええ。優しくしてくださいね?」

「はいはい、お嬢様。僕の肘、掴める?」

「もちろん」


 僕は彼女に一声掛けてから、差し出された手に僕の左肘をあてがう。そっと掴まった彼女の手を確認した後、僕達はバラックの外へと向かった。


 志織さんの案内で僕達は孤児院の裏手に止められていた馬車へと向かった。一頭引きで小さな荷車が付いた軽馬車には折りたたみ式の幌が乗せられている。上等なものではないけど、長旅には十分使えそうだ。

 けど……馬車には背負子のようなものが乗せられているだけで、他に荷物は何も載っていない。


「志織さん?旅の準備は出来てるって言ってたけど……荷物は?」

「持ってますよ。ほら……アイテムボックス!」


 そう言うと彼女は何も無い空間からバスケットに入ったパンを取り出して見せた。そうか、彼女も異世界召喚者だ。女神が標準的な能力としてアイテムボックスと言語能力を与えていたのだろう。


 旅の準備については問題が解決したけど、僕はここでもう一つの問題に直面することになった。志織さんがアイテムボックスを使えるということは、背徳のロザリオ以外にも何かまだ能力を与えられている可能性があるということだ。

 実際、僕もチート能力であるストレージに加えて魔法を使う力を与えられているし……。もしかすると彼女がああも簡単にロザリオを手放し、今も余裕な様子でいるのは……まだ他に隠し持っている能力があるからなのかもしれない。

 そう危惧した僕は極力自然な様子を装って彼女の能力を把握しようと試みる。


「アイテムボックスを使えるんだね。他にも何かスキルとかを持ってるの?」

「スキル、ですか?うーん、そうですね……錬金術ぐらいですね。魔工技師の人達の技術はレベル高すぎてさっぱりでした」

「女神からは何か他にギフトを貰わなかったのかい?」

「うーん……特にはないですね。もしかしたらまだ何かあるのかもしれませんけど、あの女神様はロザリオの事すらまともに説明してくれませんでしたから」


 ……嘘をついている様子は無さそうだけど、無自覚に能力を与えられている可能性も否定できない、か。

 けど幸いな事にこれからしばらくは志織さんと行動を共にする訳だから、彼女の言葉に嘘偽りが無いか……そして信用に足る人物かどうかを確認する機会はいくらでもあるだろう。


 そう、信用だ。僕達総合学部の狩人は皆、贖罪の(世界を救う)ために罪を重ねる(同法を殺す)罪人だという自覚を共有している。つまり、僕達は善人でも正義の味方でもないんだ。

 それ故に現実世界へ帰還する者達に求められるのは、世界を救おうという意思でも、正義感でも、ましてや倫理観でも無い。共犯者(・・・)として信用できるかどうか。それに尽きるんだ。


 なにせ帰還者は過酷な異世界で生き延びられるだけの能力を与えられた者ばかりで、その力はすべからず制御、管理されなければならない危険な存在なのだから。

 つまり転移者はリソースの搾取を防ぐ為に異世界で放置することが出来ないのと同様に、現実世界へ帰還した後もそのまま社会復帰させることは出来ない。

 帰還を認めるということ自ずと総合各部の管理下に入ると言うことであり、転移者が共犯者として信用にたるかどうかを問われる、と言うことなんだ。


 あくまでも噂レベルだけど、狩人の中には異世界で精神が壊れてしまい、快楽殺人者に堕ちた者もいると聞く。

 だがその狩人は異世界での出来事を現実世界で公言せず、現実世界では能力も振るわない、言うならばセイフティの掛かった兵器に似た存在だ。だから総合学部は「狩り」の舞台を与え……彼女は異世界で殺人を楽しんでいるのだそうだ。


 戻ってくるのがいつも遅く、戻ってくると満ち足りた表情をしていることから、おそらく無関係な現地の人々も多数殺しているのだろうと榊会長は眉をひそめていたけど、それでもその狩人は「任務」に失敗したことはない。それ故に総合学部はその人物を「信用」している。


 総合学部とはそんな歪みを抱えた組織だ。僕は総合学部が正義だとか、自分のやっていることが正しいとか思ったことは無い。ただ必要だからそれを行う。そういう場に身を置いているからこそ、僕は誓約を破った斎藤君を処刑せざるを得なかった。


 盲いた目で僕は見ながら微笑んでいる志織さんを見やりながら思う。僕は彼女を殺したくはない。けど、それでも彼女が僕達の信用を裏切るのであれば、殺さないといけないんだと。


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