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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case2:アケトアテン-夢視る勇者じゃいられない
12/31

#4


 御門をくぐり抜けた僕が最初に感じたのは異臭だった。鼻を刺すような薬品の臭い……一瞬、罠を仕掛けられていたかと警戒心がわき上がる。けど、遅れて飛び込んできた視覚情報からこれはかつて異世界グレイランスでも嗅いだことのある、錬金術師のアトリエに良くある「近所迷惑な異臭」である事に思い至った。

 しかし異臭の問題をクリアした瞬間に僕は次の問題に直面することになった。なぜなら異世界に転移した僕は、10名近い「錬金術師」に取り囲まれていたからだ。


「ムフトアルテラルスール!」

「エフ、アイオカナール。マルニアケトアテンポネ!」


 彼等は興奮した様子で僕に話しかけている……のだと思う。さて、どうしたものか。黙っていても不自然なので、通じないなりに何かを話してみた方がいいだろうか?

 いや、誤解を防止するためにまず言語習得(ローカライズ)の魔法を使うべきだろうか?


 相手は攻撃的ではないようだし、握手でもしながらさりげなく「言語習得(ローカライズ)」を発動すれば……と思った僕は、ある事に気付いて愕然とした。

 彼等は全員革の長手袋をはめている。つまり、直接接触できなければ「言語習得(ローカライズ)」を使うことが出来ない……!?


 いきなりのピンチに戸惑っていると、それまで何事かを熱心に話しかけていた錬金術師らしき人々の様子が不審なものを見る目に変わりつつあることに気が付いた。

 これは良くないことだ。そう考えた僕は、日本人の固有スキルである「曖昧な笑み」を浮かべ……一番近くにいた年長の人物に手を差し出した。


 さて、ここが運命の分かれ道だ。

 僕達の世界では握手というのは世界中で通用する友好関係を示すサインだ。けど他の狩人が言うには異世界によっては握手とは利き手を拘束する意味合いから「決闘を求めるサイン」と理解される世界も存在していると聞いたことがある。

 僕の知っている異世界グレイランスでは現実世界同様、友好を示すサインだったけど……さて、ここの世界の住人達は僕の仕草をどう判断するだろうか?


 内心、ここは「誘眠の霧(スリープミスト)」でも使って一旦仕切りなおしたい誘惑にかられる。しかしこれだけ大人数に顔を見られている以上、迂闊なことをすると敵対判定されてこの後の行動が面倒になりかねない。

 なので僕は口の中で小さく「誘眠の霧(スリープミスト)」ではなく「言語習得(ローカライズ)」の魔法を唱えることにする。


 僕が手を差し出した相手は一瞬怪訝げな表情を浮かべたけど、どうやら僕が友好的なサインを示していると理解してくれたのか、革手袋を取って手を握り返してくれた。その瞬間、頭に軽い痛みが走る……よし。


「すみません、突然の事で混乱してしまって」

「おお、そうしゃったか。ようこそ異世界の方。我らアケトアテン国は貴方の訪問を歓迎しますぞ」


 「言語習得(ローカライズ)」が効果を発揮した!どうやら僕は賭けに勝利したようだ。

 彼の挨拶は社交辞令としては一般的な範疇だけど、それでもいくつか判ったことがある。


 まずこの国の名がアケトアテンであるということ。

 そして彼等が僕のことを異世界人だと認識し、その上で「訪問」を歓迎すると言ったこと。

 何よりも、彼等は僕に言葉が通じることに違和感を全く感じていない……いや、むしろ最前の様子だと言葉が通じるのが当然だと考えているということ。


 それらを総合すると、僕が彼らにとっては能動的に召喚した者……いわゆる「勇者」ではないと認識しつつも、同時に異世界からの来訪者である事は疑っていないという少し不可解な状況ということになる。

 普通に考えれば召喚の儀式を行ってもいないのに異世界人が現れる筈はないし、仮にそのような事態に遭遇すれば真っ先に警戒してしかるべきだというのに。


 ……これは慎重にコンタクトする必要があるだろう。


「異世界の方よ、儂は王立工房(アトリエ)を任されておるマフームドと言うのじゃが」

「失礼しました。僕は如月悠斗……ユートと呼んで頂ければ」

「ユート殿じゃな。してユート殿はどのようなご用でアケトアテンを訪れなさった?」

「旅の途中、偶然異界への扉に紛れ込んでしまったようで……」

「おお、そうであったか。以前アケトアテンを訪問された異世界の方も同じような事を言っておったと聞いておりますぞ」


 工房の主、マフームドさんが言う異世界からの来訪者は志織さんの事だろうか。だが彼女の置かれている立場や状況が判らない以上、関係性を匂わせるのは好ましくない。そう考えた僕は平静を装いながらあえて軽い口調でマフームドさんに問う。


「へぇ、他の方もここを訪問されたのですね。どのような方だったのですか?」

「キホーテ殿という方でな、何でも遠い異世界の騎士をされていた方じゃったと聞いておる、まぁもう10年以上も前に亡くなられたが」

「騎士……ということは、男性なのですか?」

「無論じゃ。ご自身は諸国を旅し魔物を多数倒した騎士だと自慢しておられたが、儂らの魔導工学を目にしてずいぶんと驚いておられた」


 ……マフームドさんの言う異世界人は志織さんではない?しかし魔物の討伐経験がある騎士が召喚されたということは……女神システムによるリソースの争奪戦での召喚元は僕達の世界に限定されている訳ではないということか。

 興味深い情報だけど、今僕が知りたいのは女神システムの事よりも志織さんの消息だ。


「異世界から女性が訪問された事はありますか?」

「いや、儂は聞いたことがないの。そもそもキホーテ殿が来られて以降、異世界からの客人はユート殿が初めてじゃ」

「そうなのですね」


 どういうことだろうか?八咫鏡による追跡では間違いなく志織さんはこの世界……アケトアテン国へと転移しているはず。そもそも御門を開けるのは転移者が渡った痕跡のある世界だけと聞いているから、僕がここに来れている時点で志織さんの後を追えているはずなのに。

 マフームドさんは僕に嘘をついている?でも何のために?

 これはさすがに直接聞くことが難しい話題だし、女性が来ていないかという少し不自然な問いかけをしてしまった以上、少し話題を変えて様子を見た方がいいだろう。


「魔道工学というのはどのようなものなのでしょうか?僕達の世界でいう錬金術と似たようなものなのでしょうか?」

「おお、ユート殿は錬金術をご存じか。アケトアテン国は昔から錬金術に最も秀でた国として知られておってな。現代では錬金術を発展させた魔導工学の研究が盛んなのじゃ」

「工学ということは、薬剤を造るだけではなく何かアイテムを造られるのですか?」

「うむ。これは現物を見て頂いた方が早いじゃろう。……おい、ハッサン」

「はい、工房長!」


 マフームドさんが声を掛けたハッサンという若い錬金術師――いや彼等の言葉に従うなら魔工技師とでも呼ぶべきか――が何か筒のようなものを持ってきた。

 見た目的には何かのグリップのように思えるけど……もしかしてSFに登場するライトサーベルのように魔力を刃にするマナブレード的なものだろうか?


「これはうちの工房で最も良く売れておる品でな。ほれ、こうすると……」

「……光が出てますね」

「なんじゃ、もっと驚くと思うたのじゃが」

「あはは……僕の世界にも似たものがありますので」


 棒の先端から光が投射され、光の当たったところが明るくなる……要するに懐中電灯のようなモノだ。少し拍子抜けしたけど、実は驚きはその後に待っていた。

 なんとこの光杖と呼ばれる魔導具(アイテム)は連続して使っても100年近く光を放ち続ける高効率のエネルギー源を搭載しているらしい。これは驚きだ。


「光杖そのものよりもエーテルに驚かれるとは意外じゃな」

「エーテル……というのが動力源なのですか?」

「うむ。儂らが錬金術を極めた事によって得た、賢者の石がもたらす神秘の力じゃよ」


 賢者の石……聞いたことがある。確か錬金術師達が究極の目標としている「金の錬成」に必要となる神秘の物質だったはず。

 アケトアテンの人達はその賢者の石を生み出すことに成功しているのか!本来の任務とは関係の無い話だけど、それは興味深い話だ。麗奈に話してやればもしかしたら興味を持つかも知れない。


 だけどおそらく賢者の石の事は国家秘密なのだろうし、現物を見るのは難しいだろう。話を聞けるだけで満足すべきかもしれないと思いながらも、ダメ元で僕はマフームドさんに賢者の石を見ることが出来るかと聞いてみた。すると、思っても見ない答えが返ってきた。


「うむ。見て頂くことは可能じゃな」

「え?いいんですか?ですが、そのような貴重なモノは王家が秘蔵しているのでは……?」

「確かに王家が管理しておるな。……ユート殿の後ろに」

「……え?」


 そう言えば今回、僕は御門から出た瞬間に魔工技師達に囲まれていたから後ろを振り返る余裕が無かった。改めてマフームドさんの言葉に振り返ると……そこには深紅に輝く結晶体が埋め込まれた柱が屹立していた。その輝きか明らかに尋常のものではないことは、一目でわかった。


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