2026/12/31 23:55
1年後。
あの日が近づくにつれ、あれは幻だったんじゃ無いかって気持ちも少しだけ生まれていた。
そのせいで、落ち着かずに夕方から散策をしていた。
けれど、それでも待ちに待った日だったんだ。
徐々にあの夜の時間へと近づいていく。
彼女はこの約束のことを、僕のことを憶えているのだろうか。
次第に不安が心を蝕んでいく。
約束を反故にされるのはまだ我慢できる。
いや、反故にされたらされたで物凄く辛いけど。
何より怖いのは、あの日の思い出が、僕が歩き出せた切っ掛けが幻になることだった。
時計の針は心を置き去りに、淡々と進んでいく。
そしてーー。
0時。
彼女は一向に現れなかった。
どこを向いても、ただただ街の灯りがギラギラと照らしてくるだけだった。
――幻、か。
ポツリ呟き、東京タワーと逆方向へと向き歩き始めようとした時だった。
ちょっと、そっちじゃないでしょ!
歩道橋を走ってくる音と、そんな声が聞こえた。
その瞬間、東京はあの日の夜のように世界の時を止めた。
僕の耳には彼女の声だけが世界の全てのように響いた。
そう、思えた。
「0時ぴったりとか、君らしいね」
「あの夜からを再開させたくてね」
もう、街も人も刻も止まらない。
動き続ける世界で再び2人はあの夜と再会し、そして、あの夜からを再開させる。
「じゃ、東京タワー行こう!」
「今から東京タワー?」
開いてないよ?
僕の疑問を気にせずに明は歩き始める。
「いいの、前は辿り着けなかったあの場所へ行ってみたかっただけだから!」
「……そうかい」
変わらない彼女の内面に安堵する。
「さあ、今度こそ行くよ!」
「ああ、行こう!」
2人で歩こう。
1人だと挫けそうなら、2人で進もう。
今日は雨上がりでもなく、人もたくさんいて、光が絶えない東京だけど。
あの時と同じように進もう。
君と一緒に、僕と一緒に。
今でも時々思う。
あの時諦めていたら、一生夜のままだったら、と。
「ようやく貯金もできて、東京に引っ越して来れたんだ!」
歩きながら、明は近況を教えてくれる。
「これで、オーディションもたくさん受けるんだ!」
ちなみに選考進んでるのもあるぜ?
キメ顔で彼女は言った。
「すごいな。まあぁ僕もようやく働きながら小説を書き始めたよ」
僕も新人賞の選考どうにか進んでるよ。
そういうと明は笑顔で聞いてくる。
「すごいじゃん! 完成したんだ。どんな話し?」
いつか2人でコラボができたらいいよね!
そんなことを言いながら彼女は聞いてくる。
「うーん、まだ秘密」
本当はちょっと恥ずかしいだけなんだけど。
「えー、それじゃあタイトルだけでも!」
「そうだな。タイトルはーー」
『僕と夜を歩こう』END
この世界のどこでも誰かが毎日辛く苦しい目覚めをしている。
この世界のどこかで誰かが穏やかな夜にだけ安堵している。
でも、いいんだよそれで。
そこから少しだけでいい、何日何年かかってもいいから少しだけいい方に行けるように。
僕たちもいるから。
一緒に夜を歩こう。




