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9/9

2026/12/31 23:55

1年後。


あの日が近づくにつれ、あれは幻だったんじゃ無いかって気持ちも少しだけ生まれていた。

そのせいで、落ち着かずに夕方から散策をしていた。


けれど、それでも待ちに待った日だったんだ。


徐々にあの夜の時間へと近づいていく。


彼女はこの約束のことを、僕のことを憶えているのだろうか。


次第に不安が心を蝕んでいく。


約束を反故にされるのはまだ我慢できる。


いや、反故にされたらされたで物凄く辛いけど。


何より怖いのは、あの日の思い出が、僕が歩き出せた切っ掛けが幻になることだった。


時計の針は心を置き去りに、淡々と進んでいく。


そしてーー。


0時。


彼女は一向に現れなかった。


どこを向いても、ただただ街の灯りがギラギラと照らしてくるだけだった。


――幻、か。

ポツリ呟き、東京タワーと逆方向へと向き歩き始めようとした時だった。


ちょっと、そっちじゃないでしょ!


歩道橋を走ってくる音と、そんな声が聞こえた。

その瞬間、東京はあの日の夜のように世界の時を止めた。

僕の耳には彼女の声だけが世界の全てのように響いた。 

そう、思えた。


「0時ぴったりとか、君らしいね」


「あの夜からを再開させたくてね」


もう、街も人も刻も止まらない。


動き続ける世界で再び2人はあの夜と再会し、そして、あの夜からを再開させる。


「じゃ、東京タワー行こう!」


「今から東京タワー?」


開いてないよ?


僕の疑問を気にせずに明は歩き始める。


「いいの、前は辿り着けなかったあの場所へ行ってみたかっただけだから!」


「……そうかい」


変わらない彼女の内面に安堵する。


「さあ、今度こそ行くよ!」


「ああ、行こう!」


2人で歩こう。

1人だと挫けそうなら、2人で進もう。


今日は雨上がりでもなく、人もたくさんいて、光が絶えない東京だけど。

あの時と同じように進もう。


君と一緒に、僕と一緒に。


今でも時々思う。

あの時諦めていたら、一生夜のままだったら、と。


「ようやく貯金もできて、東京に引っ越して来れたんだ!」


歩きながら、明は近況を教えてくれる。


「これで、オーディションもたくさん受けるんだ!」


ちなみに選考進んでるのもあるぜ?

キメ顔で彼女は言った。


「すごいな。まあぁ僕もようやく働きながら小説を書き始めたよ」


僕も新人賞の選考どうにか進んでるよ。

そういうと明は笑顔で聞いてくる。


「すごいじゃん! 完成したんだ。どんな話し?」


いつか2人でコラボができたらいいよね!


そんなことを言いながら彼女は聞いてくる。


「うーん、まだ秘密」


本当はちょっと恥ずかしいだけなんだけど。


「えー、それじゃあタイトルだけでも!」


「そうだな。タイトルはーー」


『僕と夜を歩こう』END


この世界のどこでも誰かが毎日辛く苦しい目覚めをしている。

この世界のどこかで誰かが穏やかな夜にだけ安堵している。

でも、いいんだよそれで。

そこから少しだけでいい、何日何年かかってもいいから少しだけいい方に行けるように。

僕たちもいるから。

一緒に夜を歩こう。

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