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2025/12/31 28:50

品川。


「えー東京タワーまだ?」


彼女は不満そうな顔で言う。


流石に疲れてきたのかもしれない。


「あともうちょっと」


僕は適当に言う。

本当はこの時間を続けたい。

いつか終わってしまうんじゃないかという不安を紛らわす遠回りを始めていた。


「あー! 水族館あるって! 行こう!!」


看板を見つけて叫ぶ明。


彼女の方から遠回りの提案が来てしまった。


「あー、いいよ?」


僕はしょうがない振りを装って同行した。


「おっきいホテルもあるよ!! いひひ、泊まる?」


巨大なホテルを指差して悪ガキのように笑う明。


「水族館行くんだろ?」


早足に歩く僕。

心臓の鼓動と同じ歩幅。


「あ、まってよ!」


慌てて明かりががついてくる。


水族館。

優雅に魚たちが泳いでいる。


さっきまでいた煌びやかな光の街とはまた違う異界感があった。


「入ってしまった……」


水族館は開放された状態だった。


一応受け付きらしき場所にお金は置いたけど。

不安を感じながら辺りを見回し進む。


人は誰もいないのは外と一緒で、水族館は魚たち海洋生物だけの王国のようだった。


「すごいな。あれ、明?」


ふと隣で夢中で魚たちを見ていた明が、フラフラと先へ進んでいるのが見えた。


「おい! 迷子になるぞ?」


慌てて、追いかける。


様々なクラゲが漂うエリアに入る。

東京のネオンとは別の神秘的な光が乱舞する。


海の月とは言ったもんだな……。


いやいや、見惚れてないで探さないと!


その後もジャングルのような木々に囲まれたエリアや、誰も観客のいないステージのような水槽を早足に探していく。


けれど、明はいなかった。


「一体、どこに」


諦観から溢れ出た言葉の先に彼女はいた。


天井から壁まで全てが水槽になった透き通るような通路。

その床に、明かりは倒れていた。


「明かり!!」


慌てて近寄る。


「うるさいなあ。魚逃げちゃうよ?」


めんどくさそうにこっちを見ながら話す明かり。


「急に消えてどうしたんだよ?」


僕は不安を隠しきれなくなっていた。


「別にー。レイは私の保護者じゃないでしょ?」


なおも寝転がりながら、魚たちが泳ぐ天井を見つめる明かり。


「こんなに近くて、目に見える壁なんかないように見えるのにさ。触れられない。まるで夢みたいだよ」


彼女は切なそうに儚そうに、優雅に魚たちが泳ぐ天井に手を伸ばしながら、言う。


「……らしくないじゃないか」


あんなに自由奔放に振る舞っていた君が。

心の中で呟く。


「そう?」


彼女はなおも見えない壁を見続ける。


水槽の中では、魚たちは外の喧騒を気にせずに、それぞれの道を泳いでいる。


――自由に。


「そうだよ! 君の夢が何かは知らないけど頼む、頼むよ!

お前ならまだ間に合うんだ!」


きっと君なら、あの月でさえーー


いてもたってもいられず、感情的に言葉が突き出ていく。


――そう言うお前だって。

か細い声が聞こえたと思った瞬間だった。


「そう言うレイだって!!

本当は夢あんでしょ!

うだうだ誤魔化して!

余裕で間に合うから、私にてめえの夢を重ねて背負わせんな!!

レイ自身で叶えなよ!!!」


明の突然の剣幕にたじろぐ。


けど、けれど。

それらの言葉は全て正しいと理解する。

ズタズタにされた心で。


誰が決めたのか知らないけどさー。

そう言って明はまた話し始める。


「したり顔で諦めてる奴が1番嫌いだ!!

子供の頃からやってなきゃやっちゃいけないのか?

恵まれた環境じゃなきゃやっちゃダメなのか?

優しい仲間たちがいなきゃやっちゃダメなのか?

潤沢な限りない時間がなきゃやっちゃダメなのか?

誰かの許可がないとやっちゃダメなのか!?

自分の中の気持ちをぶつけるような表現じゃダメなのか!?

誰が決めた!?

いつまでそこに留まってんだ?

いつまで頭の中で完結させてんだよ?

今、動けよ!!」


あまりの言葉の激流に流されそうになる。

それを堪えて。


「……わかったよ」


言葉を絞り出す。


「俺だって、俺だってなあ!」


「なに?」


冷ややかな言葉で、自分さえも冷静になってしまう。


「っ」


意気地なし。

そういって彼女はいつの間にか立ち上がって出口へ走り去る。


くそ。


小さくつぶやいて、全速力で彼女を追いかけた。


はっや……。

完全に見失う。


俺だって、俺だってなんなんだよ。


きっと無意識に彼女に夢を追う姿に惹かれ、勝手に自分の夢まで重ねてしまっていたんだ。


それでもーー


まだ、君に言いたいことがある!

まだ話したいことが山ほどある!!!

行かないでくれ!!!


彼女を追いかけて暗闇の中を走り、水族館を出る。


大通りまで走り、辺りを見る、

相変わらず、目が眩むほどのビル街の光が目を覆う。


その輝きの先、大通りの信号の前に明かりが見えた.


大声で叫ぶ。


一瞬振り返る明。


信号機が全て緑色を灯す。


ちょっとは楽しかったよ


そして、黄色へ。


でも、ここまでだね


赤色だけが残る。


じゃあね


別れを告げる明を追いかけようとした刹那。


その赤色も消え、世界全てが黒色へ染まった。


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