2025/12/31 25:10
僕と明は光あふれる場所から少し落ち着いた道を進んでいた。
車もバイクも乗り物は全て止まっている。
さっきの言葉ぐるぐると頭の中で残響する。
レールなんか外れちゃえば?
綺麗なレールに未練たらたらで縋り付く現状に、その言葉は深く突き刺さった楔となっていた。
……傍観者のままでいいのか、本当に?
彼女を見ていると、僕の中で何か忘れていた、いや忘れようとしていたものが再び燻り始めたように感じた。
「東京タワーまだ?」
僕が黙りこくって考えていると、その様子に飽きたように???さんが話しかけてきた。
「まだ先だよ。そもそもどうして東京タワー?」
東京観光ならスカイツリーでもいいんじゃないかな?
「そりゃあ、東京の中心だからよ!」
江戸っ子みたいになっている明。
「東京の中心って。ベタだなあ」
僕はため息をつきながら、進む。
「ベタで結構! せっかく2人だけの東京になったんだ! まず手始めに東京タワーの頂上に旗でも立てよ!」
どんな旗にしようかなんて、本気で考えていそうな声で話す明。
いやいや、そもそも今閉館してるだろうし。
ロッククライミングよろしく、鉄骨を登って旗を挿しに行くつもりだろうか。
気が重くなりながらも、前へ進む。
「ちょっと休憩しよ!」
小さい公園があったので、そこのベンチに座ることにした。
まだ消灯はされていないようで、2人を照明が優しく照らす。
僕は自販機で暖かいコーヒーとココアを買って、彼女の座るベンチへ向かう。
――自販機は正常に作動してくれたな。
そんなことを思いながら、缶を見せて彼女に聞く。
「どっちがいい?」
「ココア!」
即答だった。
「だと思ったよ」
僕はゆっくり座ると缶コーヒーを開ける。
プシュッと小さな音をたて、飲み口が開く。
そこから、湯気と遅れてコーヒーの香りが立ち上る。
公園からは燦燦と輝くビル群が見えた。
その合間合間に荘厳なタワーマンションが立ち並ぶ。
「すごいよなぁ、あの明かりの数だけ、いやそれ以上に誰かが生きているんだ」
急に僕は心をそのまま声にしてしまった。
「今は私たちだけのものさ!」
彼女は嬉しそうに、けれどどこか寂しそうに答える。
茶化されなかったのが意外だった。
「そうか、もうこの世界にはあの明かりだけが誰かがいた証明なのかもな」
コーヒーを一口飲み、この静寂の世界に想いを馳せる。
「それで、レイは夢があるん?」
ホットココアを飲みながら明は聞いてきた。
「えっ?」
突然で驚く。
「いや、散々人の夢のこと聞いてきたんだから、レイにも何かあるのかなって? それが元の世界の未練?」
心の奥深くへ切り込んでくる。
「夢、か。あったかもしれないけど忘れたよ」
違う。
忘れたかったんだ。
そんな不安定なものに憧れたくなかった。
いや、憧れるのが怖かった。
走りきった先が、断崖絶壁なんじゃないかって。
それでも走り切る覚悟がないなら、目指すべじゃないんじゃないかって。
怯えて、その先の一歩を踏み出せずにいたんだ。
「レイは、嘘つきだね」
「え?」
また心を見透かされたのか?
「夢のない人があそこまで、私の夢を気にするはずもないでしょ?」
彼女はそれにと続けて言う。
「夢がない人が、あんな必死な表情でこの優しい世界を否定する訳ないんじゃない?」
そう言う彼女は優しく微笑んでいた。
この世界で生きることを否定したのに。
彼女は何か僕に同じ挑戦者としての精神を感じたのだろうか。
であれば、それは誤解だ。
大誤算と言ってもいい。
僕のそれは、そんな高尚なものじゃない。
「買いかぶりだよ」
僕は一言言うと、再びコーヒーを口にした。
コーヒーの香りと湯気が、公園から見える無数のビルの光へと溶けていった。




