第八話……パーティーランク昇格の準備をしているんだが……
次の日、ギルドに行くと、アクセラから書類審査を通過したと伝えられた。これで、明日は教養面接決定だ。
「ちなみに、書類の段階で落ちるのは、自分達の力を客観的に評価できていないか、格上モンスターをみくびっていることになる」
「他のギルドは書類審査がないようなものですから、死亡率も高いですよ」
「『マリレイヴズ』では、書類審査で落ちても、その後どうすればいいかは、ママが都度、アドバイスしてくれるから安心だ。
例えば、そのパーティーに制約やノルマを課して、それらの必要性を十分に説明し、納得してもらった上で、現在の洞窟に行ってこいと言う。それが事実上の再審査となり、問題なくクリアできれば、通常の手続きに乗る形となる。
ただ、これまで再審査をクリアしたパーティーは存在しない。つまり、書類審査が適切に行われている証左であり、そこで自分達の実力を思い知るんだ。結局、最初の申請は取り消して、力を付けた上で、後日改めて再申請を行うのが定番だ。
そして、ママと昇格対象洞窟に行った時に、『あ、こういうことだったのか。確かに、あのままの俺達だったら死んでるわ』と全員納得し、『ありがとう、ママ』と感謝の気持ちでいっぱいになる」
「全ては冒険者のため、なんですね」
「教養面接では、ディーズも経験した通り、モンスターリストから対象洞窟のモンスターについての知識が問われ、こういう攻撃が来たら、パーティーとしてどう対処するか、それがちゃんと頭に入っているかを念入りに聞かれる。
ただ、そこで間違った回答をしても、正しい対処方法について、その場でママから教えられるので、そこで不合格になることはなく、単に勉強時間分として同行をその分延期する。最小は十五分の延期。最大でも一日延期するだけ。頭にちゃんと入っていないと、反射的に行動に移せないからだ」
「そうだったんですか。私の時は合っているかどうか分からなかったので……。そのまま流されたら合っているということでしょうか」
「その通りだ。そして、ママ同行時に、その対処ができているかを確認してもらう。できていなくても、その場で指摘され、それが修正されれば問題ないと判断される。
このシステムであれば、途中不合格で申請からやり直し、のような無駄な時間を冒険者もママも割かずに済むし、何より安全、みんなが嬉しい。
つまり、このシステム上、書類審査を通過した時点で、昇格は確定する」
「確かに……。本当に、良い意味で優しすぎる配慮ですね。ここに来たらみんな、『マリレイヴズ』が好きになっちゃいますよ」
「ディーズ達はCランクへの昇格もスムーズだったろうから、こういう救済プロセスがあることを知らないのも当然だ。
では、その肝心の書類には何が書かれているのか。誰でも気になるところだ」
「そうですね。普通はその中身を一生知ることがありませんが……。『マリレイヴズ』は違うんじゃないですか?」
「流石、分かってきたじゃないか。その通り。そもそもギルドが評価しているのは書類審査時だけじゃない。登録パーティーと冒険者は、日々評価がアップデートされている。そして、それぞれの評価は対象のパーティーメンバーであれば誰でも見られる。文句があれば申し立てもできる。
さらに、希望すればギルド内に公開もできる。『俺はこんなに評価されてるんだぜ』みたいに。次に所属するパーティーを探している時は打ってつけだ」
「でも、評価に少しでも傷が付いたら、誰も公開しないんじゃないですか? パーティー内でさえ嫌がる人がいるかも。実際、ここに来てから公開評価を見たことがありません」
「その傷は、ママによって癒されるんだよ。もちろん、自己治癒力の方が大事だがな。つまり、その短所がパーティーに悪影響を及ぼすようなら、まずママからリーダーに話が行く。それでも直らないようなら、ママが直接面談する。もちろん、その際は、その理由と影響をしっかり説明する」
「それでも直らなかったら?」
「その冒険者の登録をギルドから永久に抹消する。言うことを聞かなかったから、とかいうくだらない理由じゃない。明らかな欠点を直さないのは、どんなパーティーをも必ず危険に晒してしまうから。傷を気にしてカバーすると、自分が疎かになる可能性が高い。影響が小さいようなら、そもそもリーダーに話が行かない。
そして、短所を直したことは、経歴の傷でもなんでもない。むしろ、評価すべき項目だとママはいつも言ってるな。パーティーの弱点を克服し、日々改善する意志があるとみなされるから」
「……。あの三人についてはどういう評価だったんでしょう。バクスなら絶対確認してますよね? しかも、本人達と一緒に確認してそうです」
「もちろんだ。ただ、アイツらへのママの評価は、正直甘いと思う。だから、アイツらを調子付かせてしまったんだよ。
本来ならボロクソに書くべきところを、パーティー評価では、『リーダーの天才的能力に完全依存のパーティーだが、個人の討伐モチベーションは別にして、バランサーとしてお互いに機能しており、討伐自体は安定している』って。『いや、別にするなよ!』って思うんだけどな」
「具体的な課題は指摘されていないんですか?」
「されてる。戦闘面で言えば、『リーダー以外は未熟なスキル故に、後衛しか任せることができず、さらに、それぞれの強すぎる個性から、連携しようとしても上手く行かない。それを全員が分かっているので、全てがリーダーに任せきりになり、リーダーの肉体的、精神的負担が懸念』。
日常面では、『お互いの仲は良好で、プライベートでは心も体も通わせ合っているが、討伐とのギャップに悩むリーダーがいつかブチ切れそう』って書いてあった」
「日常面も見てるんですか……。ほとんど予言書じゃないですか」
「まぁ、オコるべくしてオコったんだよ」
「それはどっちの……。でも、聞いている感じだと、確かにママは改善しようとしていませんね。ハッキリ言うと、懸念だけなら誰でもできますから」
「そこが不思議なんだよ。基本的に、俺さえしっかりしていれば、問題ないって考えだからな。それはそれで俺が評価されてるってことだから、嬉しいと言えば嬉しいんだが……。お前達が加入しなかったら、少なくとも俺のこれまでの評価は公開するつもりではいた。
それにしても、他のパーティーなら、ちゃんと指摘してるはずなんだよなぁ」
「……。何となくですが、今の私ならママの考えが分かるような気もします」
「それは何だ?」
「……。ママがそれを書いていないということは、ハズレかもしれないので言わないでおくことにします」
「またか……。俺は言ってほしいんだが」
「……。多分、私の悪い癖です……。怖いんです……。それを言うことで何かを失ってしまうのではないかと……。取り返しが付かないことになるのではないかと……」
「…………」
「…………」
再度沈黙が訪れ、いつもなら騒がしいギルドが静寂に包まれたように錯覚した。ディーズの気持ちは分かる。俺だって取り返しの付かないことはしたくない。だからこそ、手続きを重視しているのだ。
そういうこともあって、お互いの意思疎通は大事だが、とりあえず、俺はこの空気を変えるべく、全てを切り替えることにした。ディーズも言った通り、まだ初日だ。焦らず行こう。
「それじゃあ、明日に備えてゆっくり休むとするか」
「……。そうですね。今日は私にとって色々あり、ターニングポイントとなった一日でした。ありがとうございました」
「こちらこそ。それじゃあ、おやすみ」
ディーズがぺこりと頭を下げて、俺と三人は別れた。
何となくだが、まだディーズは俺に対して遠慮しているような気がする。心配事があるにもかかわらず、それを言わないのは悪い癖だと言っていたが、単に俺を信用していないということも考えられる。
「打ち解けやすくするために、話の中にもう少し笑えるネタを入れてみるか……? いや、でもなぁ……」
パーティーリーダーとしてどうすべきか……。俺は思わず独り言を言いながら、帰路に就いた。
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