第六話……別のモンスターを討伐したんだが……
それから少し時間が経って、俺達の順番が再び回ってきた。しかし、中々モンスターが出てこない。いつも、俺がやる気になった途端、出てこなくなるんだよなぁ……。
周囲もざわつき始め、俺もそろそろ帰ろうかと思った頃、ようやくモンスターが姿を現した。
『ワンミーターハードクロウベアマジック』が三体。洞窟Cで最弱のモンスターだ。通常三センチしかない爪を一メートルまで伸ばすことができる熊で、その爪は非常に硬く、折ることも剥がすことも困難。だが、それだけ注意していれば問題ない。
中距離以上の魔法を使用できるパーティーなら、より有利に戦うことができるのは、モンスター種類名の後ろに『マジック』と付けられていることからも分かる。ちなみに、『中距離魔法だけ』が有利な場合は『ミッドレンジマジック』が付き、魔法を駆使してくるモンスターは、種類名より前に付けられる。
名前が長くなりすぎて逆に覚えづらいのではないかと思うかもしれないが、リズムが付けやすく逆に覚えやすくなる不思議がある。少しでも長いと思った人には、是非声に出してもらいたい。
「それじゃあ、先に行く」
次の瞬間、俺は正面の熊の長く伸びた爪を掻い潜り、懐に入り込むと一閃。胴体を真っ二つに切り裂いた。まず一体。
そのまま、すぐ近くにいた右の熊に向かい、心臓目掛けて刀身を縦に、突きを繰り出し、刺さったところで、頭部方向に切り裂く。これで二体。
熊を蹴り出して後方に飛びつつ、左の熊の様子が視界に入るように距離を取った。
時間にして、正面で対峙してから三秒程度の出来事だったと思う。
「あとは任せた!」
「は、はい! 了解です!」
ディーズが俺の動きを見て戸惑っていることが分かった。おそらく、予想以上の動きを見せられたんじゃないだろうか。
それからすぐに、三人は魔法を使わずに残りの熊を討伐し、俺の期待通り、真っ先にディーズが俺の所に走り寄ってきた。
「すごかったです……。まさに目にも止まらぬ早さと言うか……」
「大したことはない。そもそも、半分も力を出していないからな」
ディーズに良い顔をしたくて見栄を張ったわけではない。本当だ。
「えぇ……。あの……質問ですが、バクスは剣術だけでなく、魔法もすごいんでしょうか。とりあえず、確認だけはしておきたいと思いまして……」
「冒険者になる前、ママと洞窟Gに行った時、一番モンスターが出てきやすい洞窟なのに、中々モンスターが出てこなくて、『せっかくだから、前から勉強してる魔法でちょっと誘い出してみなよ』ってママに言われて使ったら、初めてで加減が分からなくて、洞窟の中、数十メートル先まで炎で丸焦げにしちゃったんだよな。結局、モンスターは丸一日出てこなかった。洞窟Gでは前代未聞らしい。
それ以来、洞窟A以外での魔法使用は禁止されてる」
「……。いや、すごすぎじゃないですか! どうして噂になってないんですか⁉️ 監視官も見ていたんじゃないんですか?」
「事前にママと監視官が何か話していたから、今からここで起こることは誰にも喋るなって約束でもしていたんじゃないか? そもそも、冒険者以外を洞窟に誘うのは、ダブルAランクが同伴しているような例外を除いて法律違反だからな。あまり良いことじゃないと」
「具体的なことは漏洩できないから、『いやー、バクスはすごいよ! トリプルAランクになれる逸材だ』という話だけ広まることになったというわけですか……。
でも、バクスが今みたいに私に話してくれたってことは、あの三人から聞かれて話したんじゃないんですか? そこから広まりそうですけど」
「いや、アイツらは俺が使える魔法のことなんて全く興味ないから聞いてこなかった」
「好きな人のことなら、もっと知りたくなるものだと思うんですけど……。好きな彼のすごい所を自慢したくなったりとか……」
「うーん……。ママが、アイツらは『俺が全て』と言っていたが、まさにその通りで、そういう細かい所はどうでもいいんだろうな。何がどうであれ、『バクスはバクスなんだから』と。それはそれで良いことなんだが……まぁ……そうだよな……。
変な所の自慢はしてたな。かなり歪められていたが……」
「……。好きの反対は無関心と言いますが、好きや大好きを通り越すと、ある意味で、また無関心になるということでしょうか。私も……」
「……。ちなみに、俺がお前達に魔法のことを伝えたり聞いたりしていないのは、興味がどうのというわけじゃなく、伝えても聞いても仕方がないからだ。
魔法を使った連携は、お前達の連携スキルと相性が悪いだろ? 他者が使うとお前達三人の連携の邪魔になるし、お前達の誰かが使っても、意思が混乱し、二人の連携が乱れる」
「……その通りです。もしかしたら、全部分かって……。ここに来る途中も思っていましたが、バクスは戦闘センスや洞察力もすごいんですね……。
あの三人があなたの実力に圧倒されなかったのが不思議でなりません。本当に何も考えずに、無我の境地であなたの側にいたとしか……。それとも、そうでもしなければ頭がおかしくなって一緒にいられないか。そこまで人を好きになれるのかと……」
「まぁ、アイツらは昔から俺を知っているから慣れていただけかもしれないが……。俺には分からないな。そこまで熱狂的に人を好きになることが。逆に、急に冷めてしまうのが怖くならないか? ゼロから百になったら、百からゼロになることだってある。
だから過程が大事なんだよ。一つ一つ確認して進んで行くことが。ここまでなら戻ることができると分かっているから。手続きや洞窟の探索と同じだ。
俺は一度好きになった人を嫌いになりたくないから、そこはコミュニケーションをしっかり取って行きたい。順番も考えながら。面倒かもしれないが」
「……。本当にあなたは私の思っていた通りの性格の人なんですね……。
分かりました。それでは、私もバクスに見習ってコミュニケーションを取っていきたいと思います。あなたと、この先も一緒にいられるように……」
「もちろん、手を取って行くさ。それがリーダーであり、勇者なんだから」
「はい!」
今までで一番大きい声で元気良く返事をしたディーズが、俺の横に付いて手を握ってきた。手を取るのは比喩だったんだが、まぁいいか。
これまでの冒険者らしい普通の会話も、俺にとっては新鮮で、ディーズのかわいらしい一面も見ることができて、自分でも何となく気分が高揚しているのが分かった。
こういうのでいいんだよ、こういうので。これが冒険者らしい活動なんだよ。分かるか? 無能女どもよ。
俺は心の中でアイツらに悪態をつきつつ、清々しい気分で、ディーズ達とそのまま洞窟Cの五番口を後にした。
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