第三十二話……洞窟内で風呂を沸かしたんだが……
「どうだった? 宝石に入ってみた感想は」
メムに適当なモンスターを脅迫まがいで呼んでもらってから、フレウのスキルと宝石の検証を進め、生物でも問題なく宝石内に出し入れできることを確認した。
そして、俺達は湖に戻り、フレウで再度、吸収と放出を試したのだ。
ちなみに、モンスターには礼を言って逃がした。多分、アイツ強くなるだろうな。
「うん、不思議な感じだった……。体の感覚はそのままで、視覚も体が小さくなってないみたいに、この周りが普通の大きさに見えた。同じく吸収された毒や水は見えなかった。動きに制約もなかったし、宝石の揺れも感じなかった……」
「ってことは、やっぱり宝石の外側から見えるのは、どこかの空間を映し出した像なのかな」
「間違いない。まぁ、それを知ったところで、何かが変わるわけでもないから、気にしなくていい。仮に超凶暴なモンスターや極悪人をそこに入れて、その空間で何か起きたら、神様が何とかしてくれるだろう。俺達の責任ではない。この宝石はご褒美なんだから」
「じゃあ、お風呂にする? 食事にする? それとも、わ・た・し・た・ち?」
「そのセリフはモンスターでも共通なのか……。風呂を試してみたいかな……」
普段なら恥ずかしがって言わないようなセリフをフレウが言って、ちょっぴり残念そうにしていると、メムが湖に向かって歩き出した。
「しょぼんとすることなんてないよ。お風呂でやればいいんだから……さて、どうしようかなー。こうしてみようか!」
メムが言葉の最後に力を込めると同時に、尻尾から火の玉を形作るように、湖の中央上空に炎を出し続けた。さらに、風魔法も使い、その火の玉を回転させながら、次第に大きくしていった。最終的には、フレウの蛇の姿の半分ほど、かなり巨大な火の玉に成長した。
そして、それをゆっくりと湖に落としていくと、湖面から水蒸気が上がり、渦を巻いて、湖の水が効率的に温められていった。
その間も、メムは炎と風を供給し続け、五分ほどで風呂の準備ができた。思っていたよりもずっと早い出来上がりに、俺は感心した。
「まだ入らないでね。お風呂の湯加減は……うーん……まだ熱いかなぁ。もう少し待とうか。水を加えたら回復効果が薄まるかもしれないから、やらないようにする。湖底の岩ですぐに冷めると思うし。
ちなみに、酸欠になることはないよ。魔壁からも酸素が絶えず送られてくるからね」
「そうなのか。それにしても、器用だよなぁ。俺はまだそこまで魔法を操れそうにない。使える機会が全く無かったから。座学だけでは限界があるし」
「そうかなぁ。あの水の壁、すごく良かったと思うよ。流石バクスって思ったぐらい。形状も適切に変えてたし、やっぱり才能あるよ」
「魔法マスターにそう言われると嬉しくなるねぇ」
「それ、ママのマネ? ちょっと面白かった」
「ちょっとかぁ……自信あったんだけどな。そう言えば、フレウの毒を空中で操るのは、どうやってるんだ? 毒魔法なのか何なのかよく分からないんだよな」
「あれは風魔法だよ。体から風で浮かせて、それぞれ好きな方向に飛ばす」
「だとしたら、とんでもない魔法制御力じゃないか? 一つ一つの毒を操ってるんだから」
「そうだね。実際に見たことはないけど、風魔法でそれは私にも真似できないなぁ。毒魔法と言われた方が、しっくり来るよ。でも、毒は分泌されるものを使ってるし、新たに魔法で生成するわけじゃないから、明確に違うんだよね」
「……ねぇ、バクス。そう言えば、なんで私が毒を空中で操ることを知ってるの? 名前の時も少し気になってたけど」
「ああ、ママが前にフレウの同族と会って、特徴や戦い方を記録したんだよ。それを俺達のギルド『マリレイヴズ』では自由に閲覧できるんだ」
「でも、私以外に、同じ種類のモンスターはいないはずなんだけど……。私は十年以上ここにいるし……。『ママ』って人は、そこまで年取ってないよね? 私はものすごく遠くからオーラを感じたことがあるだけだけど」
「え⁉️ そうなのか? モンスター独自歴十年とかじゃなく?」
俺は、驚きを隠し切れずにメムの方を向き、事実を確認した。ママが冒険者になったのは十年前だが、なったばかりで当然Aランクではなかったはずだ。
「うん。洞窟Aのモンスターは、一種類一個体だよ。死んだら生き返るけど、覚えているのは討伐されたことだけ。そう聞いたことがあるから。十年も人間と同じ十年」
「私の偽物がいたってことなのかな? 考えられるとしたら、完全コピーの変身スキルとか。それを使えば、洞窟の外にも安全に出られるかもね」
「…………」
俺の頭には、ある可能性が思い浮かんでいた……。いや、それは絶対にない……。絶対に別の何かだ……。
「……。大丈夫だよ、バクス。フォルもディーズもママも、モンスターの変身体じゃないよ。もちろん、『マリレイヴズ』の他の冒険者もね」
「……。ありがとう、メム……。それを聞いて一安心だが、根拠でもあるのか?」
「モンスターはモンスターだって分かるんだよ。オーラでね。オーラまで人間の真似ができるとは思えない。そこまで完璧に再現できるなら、洞窟Aで最強である私に変身するはず。それが根拠。もちろん、私の記憶は、偽の私によって操作されてはいない。
私達と違ってメインスキルによる変身だから、フォルやディーズみたいに、疲れないでずっと変身を維持できる可能性が高い。今も『ソレ』が洞窟内にいるかは分からないけど」
「私は、あんまり他のモンスターと会ったことないけど、『自分がもう一人いた』みたいな話は聞いたことないよ。変身対象には絶対に近づかないのかも」
「なるほど……。仮に『コピーワン』とでも呼ぶか。ソイツが今も洞窟内にいるかどうかは、他のモンスターが最後に討伐された時期を聞けば、分かるかもしれないな。あるいは、メムが一種類一個体と判断した時期によっても推測できる」
「私がそれを判断したのは、ラウラちゃんが生まれる少し前ぐらいかな。ママはもう引退してる時期だね。そうじゃないと、冒険中のママに洞窟内で会っちゃうし、討伐の時間差でよく分からなくもなるから」
「結構前なんだな。それなら、他のモンスターに聞くまでもなく、すでに洞窟を出ているか……。問題はどこに行ったかだが……。どこに行きたくなるものなんだ?」
「私の場合、バクスの所以外だと、『マリレイヴズ』から見て南だね。セントラルの方なのかな? なんか微妙にズレてるような気もするんだけど。妙に気になるんだよね。その方角が。人間には興味あるんだけどさ、それとは別、みたいな」
「こことの位置関係としては、セントラルは南西にあるから、南だと確かにズレている。フレウは気になるとしたらどの方角だ?」
「私は洞窟の出入口しか気にならないかな。出たらどうなるか分からないけど」
「あー、それは私もそうだった。やっぱり、一度出たら違うんだよ。その次はセントラルかなぁ」
「段階や程度があるということか……。本能的なものと言っていいかもしれないが、謎だな……。
とは言え、仮に洞窟を出て、南に向かうと、その前にセントラルがあるから、そこに寄るはずだ。そして、『南』以上に興味があることに出会ったら、そこに滞在するだろうな。ノウズ地方に残る場合は、ママに気付かれて討伐される可能性が高い。
いずれにしても、自分が討伐されないように行動するはずだから、ある程度の権力を得たいと思うかもしれない。やはり鍵はセントラルか……。
イシスなら、これらの情報から何か分かるかもしれない。今は、とりあえず風呂に入るか。もう丁度良い湯加減だろ」
「うん! バクス好き!」
俺が服を脱ぎ捨てると、フレウがいつものようにかわいく俺の腕にしがみついてきて、それにメムも続き、みんなでゆっくりと湖風呂に浸かった。
全てが本当に心地良く、座れそうな段差も見つけたので、俺達は何もかも忘れて、湯船を満喫することができた。
それから三日間は、三人で冒険者ごっこならぬ、ちょっとした特訓を織り交ぜつつ、洞窟内を移動、マップ作成も行い、時間を潰した。
他のモンスターは、いくら俺達を避けていると言っても、追い詰められて行き止まりで出会ってしまう。しかし、俺達が戦う意志を見せない限り、戦闘になることはなかった。
この際、洞窟内を巡る内に、現時点でも一種類一個体であることを確認できた。
つまり、イシスの力を借りずとも、洞窟A制覇マップの作成を完了したことになる。それだけ見ると、トリプルAになれそうだが、ディーズに話した通り、ダブルAランクが他に二人以上いないと、条件を満たさないので、まだトリプルAにはなれない。なれても困るのが現状だ。
当初は、仲間全員とこれを成し遂げたかったが、今では、その目標は大きく変わっている。トリプルAになれても、みんなで笑い合えなければ、幸せになれなければ、意味がないからだ。理想は変わったが、それ以上の理想に昇華したと言っていい。
『仲間のみんなとセントラルに向かい、戦争と混乱を事前に、そして、無事に食い止める』。これが今の俺の、俺達『誰よりも前へ』の目標だ。
「ディーズ……。俺達と……一緒に……」
そして、俺は初めての洞窟A魔壁挑戦、最後の夜を過ごした。
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