第十話……新しい洞窟に到着したんだが……
洞窟Bは全部で出入口が三つ。俺達がまず向かうのは、当然三番口だ。次に二番、一番と続いていく。ただし、前にも言った通り、洞窟Bからは中に入って行かないと、モンスターに出会わないため、通常なら一つの出入口の討伐だけでも時間がかかる。
しかし、リセラが見送り時に言った感じだと、おそらく『優秀者特別免除制度』が俺達に適用されるはずだ。
そうこうしていると、すぐに三番口に着いた。そして、ママが監視官達と少し話しをしてから、俺達の所に戻ってきた。
「さて、ここからは私は後ろを歩くから、好きに進んでね。走る時は言って。明かりは、私が一つ持つから」
「分かった。油断せずに行こう!」
「はい!」
それから、ディーズが明かりとして使った炎魔法を頼りに、洞窟内を進んで十分ほど経過したが、俺達の覚悟とは裏腹に、一向にモンスターは現れなかった。
そんな状況を見て、後ろのママが口を開いた。
「うーん……。よし! 切り上げようか。二番口に行くよ」
「え、いいんですか⁉️ 一体も倒していないのに」
案の定、ディーズが驚いたが、俺も流石に成果なしで戻るとは思わなかった。規定の文面ではもちろんその通りなのは分かっているが、実際にゼロになるのは、これまでなかったからだ。
「いつ現れるか分からないし、このまま進んでも待っていても時間の無駄だからね。それに、書類審査と教養面接で優秀であると判断されたパーティーは、短期切り上げも許されているから。元々、一体目で様子を見て、二体目で次に行く予定だったし」
「なるほど、ありがとうございます」
そして、俺達は三番口を出て、二番口に向かった。
三番口と同様に、ママが監視官達と話しをしている。
「あれって、何を話しているんでしょうか。雑談じゃないとしたら、何となく想像はできますけど」
「もちろん、雑談じゃない。洞窟内の分岐から、俺達と出会わないでモンスターが出入口まで来て、街まで誰も止められなかった時に、ママが直接対処できないから、その別手段や引き継ぎをどうするか確認してるんだよ。
本当は、洞窟でどういうルートを進むかも共有したいんだが、同行時はパーティー任せだから、それもできないしな。それ以外を念入りに確認する必要があるわけだ。これも規定通り。規定に書いてあっても、必ず二重にも三重にも確認する。一つのミスで町や国が大変なことにならないように」
「ギルド規則は時間がある時に是非読んでみたいですね。覚えられるかは別にして」
「文字数は多いが、読んでみると結構面白いからな。『このギルド、最高かよ』と思えるし、オススメだ」
ママが戻ってきたところで、俺達は洞窟内に入って行った。
が、ここでもモンスターが現れず、ママの一声で一番口に向かった。
「洞窟Bでは前代未聞だよ、こんなことは。バクス、もっとやる気をなくしてもらわないと」
「俺のせいなのかよ⁉️ そんなやる気の有無で本当に変わるとも思えないんだが」
「今までもそうだったんだろ? まさか、洞窟Gの再来になるとはね。ディーズは、バクスからその話聞いてる?」
「あの、『その話』って秘密にしてることじゃないんですか? 魔法に関する会話の流れでバクスから教えてもらいましたけど、監視官からは世間に伝わってないですよね?」
「バクスには『秘密にしろ』とも『自慢しろ』とも言ってないからね。要は、本人の意志が無視されて、話が広がるのを抑えているだけだよ。
ギルドとしては、あまり広めてほしくないけどね。有象無象が集まってきちゃうから。あ、ディーズは歓迎だよ」
「ありがとうございます。もちろん、私もその話を聞いた時、『広めたらいけないやつだ……』と思ったので、広めません」
「でもさぁ、洞窟Gの時って、俺そんなにやる気に満ちてたかなぁ」
「満ちてるどころか溢れてたでしょ。『ママに良いトコ見せるんだ。モンスターが来ても一瞬で全滅させるんだ。そして、良いコトしてもらうんだ』って言って」
「いや、真ん中以外は捏造だよな? 上手く言ってるけど、本人の意志が無視されてるよな?」
「半分合ってるでしょ。私が『モンスターを一匹残らず自分で討伐したら、何でもしてあげる』って言ったんだから。そしたら、期待に胸踊らせて、下半身から固いモノを反り立たせちゃって」
「半分合ってても、全部合ってなきゃ捏造なんだよなぁ……。俺は『別にいいよ、そんなことしなくて』って言ったんだから。しかも、追加で捏造された『固いモノ』は、洞窟Gで俺が構えた時の剣のことだし。もしかして、フォルはママに影響されたのか? その逆か?」
ママと俺が望まない漫才をしていると、それを聞いていたディーズが笑った。
「ふふふっ、バクスの前だとママでも捏造したくなっちゃうんですね。既成事実化したいみたいな感じでしょうか。私は捏造したくても思い付きません」
「しなくていいぞ。仮にしても、俺達だけの時にしてくれ。一人でも他の誰かがいると、俺がその場で否定したにもかかわらず、勝手に切り取られて広められるから。そういうギルドだから」
「失礼な。バクスだけだから、変な噂が広まってるのは。じゃあ、ついでにバクスがディーズ達の初めてを奪ったっていう噂を流しておこうか」
「何がついでになんだよ! せめて『達』というのはやめろ! シーズが含まれてしまう」
「別にいいでしょ。フォルとの噂で、どっちもイケることが知られてるんだから」
「それはそうなんだが……。ほら、イメージがあるから。フォルなら『かわいいから仕方がないかな』って思われるが、シーズはガチだから。シーズも変なふうに思われるのは嫌だよな?」
シーズはニッコリと親指を立てた。
「それはどういう意味なんだよ! ビーズだって嫌だろ?」
「あたしは別にかまわないよ。バクスが『夜にディーズも誘って俺の部屋に来い。複数じゃないと燃えないんだ。従わなかったら、ギルドのロビーで公開プレイをする』って毎日脅してきても。この際、色んな噂を流した方が、何が本当か分からなくなるから良いんじゃない?」
「なるほどね。やっぱり、バクスは普通じゃ満足できなくなっていたのか。公開プレイは私も脅されてることにしないとできないね。私がバクスに心も体も依存していて、それを知ったバクスが、『俺の言うことを聞かないと縁を切る。禁断症状に喘ぐママは見ものだな』と脅していることにしようか」
「なるほどね、じゃないんだよ! 設定も擦り合わせるな! ほら、着いたぞ! 仕事だ仕事。と言っても、すでに仕事だったんだが!」
「バクス、やる気は出さないでよ!」
「誰がやる気にさせてるんだよ!」
「ディーズ、あれは怒ってるんじゃないからね。むしろ、逆。このやり取りを楽しんでるってことだから」
「そうなんですか⁉️」
「まぁ実際、怒ってはいない。負の方向に感情的になっても損するだけだからな。仕事に影響しては元も子もないし」
「そうそう。私は例のごとく監視官の所に行ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って、ママは逃げるように俺達から離れて行った。
「なんか……試験中とはとても思えない雰囲気ですね」
「いつも通りの力が出せるように、ってことだよ。その代わり、俺の評判が犠牲になってるんだが……」
「ふふふっ、ありがたいです。私は、どちらかと言うと緊張しやすいですから。特に、バクスの尋常ならざる動きの前では……」
「気後れするってことか? そんなの気にすることはないぞ。ただ、そう言っといて何だが、冒険者にとって緊張自体は悪いことではない。腑抜けるよりもずっと良い」
「確かに、そういう考えは大事ですね……。簡単に受け入れられるかどうかは別にして」
「知っておくだけでも違うさ。賢明であれば、あとで必ず役に立つ」
俺達の抽象的な話が一段落すると、ママが戻ってきて、すぐに洞窟内に入って行くことになった。
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