汲み取れなかった感情
試験は問題なく終わった。わからない問題も幾らかあったが、合格点を取れている手ごたえはあった。
試験結果の充足感は私の足取りを軽くさせた。行きと異なる高揚感は、努力の成就を予感させた。
他方、努力を要せずに結果を勝ち得てきた彼と言えば、つまらなそうな顔をしていた。
試験終了後、私は「一緒に帰ろう」という誘い文句に乗ってくれた彼とともに帰路についた。午後五時の屋外は、灰色の空気に包まれて寒々としていた。
「手ごたえはあった?」
感情の動きがうかがえない彼は、私の好奇心に対して表情一つ変えることなく「たぶん、全教科八割はいってると思う」と返した。あまりにも素っ気ない報告に多少の疑いをかけることもできたが、私は彼を一切疑わなかった。見栄を張るための嘘を吐く彼ではないのだ。
紛うことなき知性を持つ彼であったが、その分の毒も持っていた。彼はこちらをからかうように、「お前は?」と愉快そうに尋ねてきた。
「合格できる点数は取れてるはず」
「あれだけ勉強したんだ、合格できないわけないよな」
人を小馬鹿にするように彼は笑った。平坦であった彼の感情は、このとき確かに動いていた。
私は意地の悪い彼に微かな憤りを覚えた。その一方、脳裏に描き出された来春から始まる彼との高校生活に心を躍らせていた。才人である彼が、どのように花開くのかが私には楽しみで仕方がなかったのだ。
「なに笑ってんだ?」
「面白いことがあったからさ」
「不気味な奴」
自身の意図とは異なる態度を見せた私に、彼は眉間に皺を寄せ、目線を逸らして前を向いた。先行する受験生たちの背中を見る彼の横顔は、頬が痩せていて不健康そうであった。
「あいつらも勉強してたのか」
「当たり前だろ」
私は間髪入れず横やりを入れた。
「大介とは頭の出来が違うんだからさ」
賞賛の笑みとともに私は率直な言葉を漏らしたが、それは彼の心を動かさなかった。彼はどこか寂し気な表情で、「そうだよな」と呟いただけだった。